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じゃれ本作品『天から零れ落ちたスイカ』

君はこちらにいるには――スウィートすぎたのだ

複数人でショートショートを連作する「じゃれ本」という遊びがあります。

ルールは基本的にリレー小説と同じなのですが、「じゃれ本」では前の人が書いた文章しか読むことができません。この縛りにより、ひとりでは書けないような不思議な物語ができあがるというものです。

私たちのSlackにはこの「じゃれ本」をオンラインで遊ぶためのbotが生息しており、暇を持て余したメンバー達が筆力を競い合っています。

この記事では私たちが生み出したショートショート作品を紹介します。

今回のハウスルール

オンラインで遊ぶ都合上、公式ルールと少し異なるルールで遊びました。

タイトルの決め方:
タイトルの「前半」「後半」それぞれを別の人が考えて繋ぎ合わせる。
例)A「白い」B「クロワッサン」→『白いクロワッサン』
1ターンの文字数:400字以内
完結までのターン数:5ターン

今回の作者陣

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『天から零れ落ちたスイカ』

諸君はスイカに黒い線が入っている理由を知っているだろうか?今日は、そのお話をしてあげよう。
昔々、千年も万年も前のこと、植物がまた地上へ降り立っていなかったころ。彼らは天の上に暮らしていた。そして自由に会話をし、歌い、遊び、楽しい日々を送っていた。スイカもそんな場所で楽しい日々を送っていた。
ある日、スイカが散歩をしていると親友のメロンに呼び止められた。
「おい、こいつぁスイカじゃねぇか。しけたツラしてどうしたいってんだい。」
スイカは別にしけたツラをしていたつもりはなかったが、気にせず返した。
「いやぁ、メロン君じゃないか。別にどうってことはないさ。」
「そうか、そいつぁいい。で、今日はなんか用でもあるかい?いや、無いならいいんだ。ちょいと一緒に行ってほしいところがあるってぇんだよ。いや、まくわ瓜の野郎がさ、どうしてもってんでな。」
スイカは首を傾げた。
「ふぅん、どこだい?」

* * *

「いやなに、そこをツッと行ったところにウットコ丘があるだろ? そこに丁度いい部屋こさえたもんでさ、まぁこまけぇことはいいからよ、ちっと着いてきてくれや」
「はぁ」
スイカはよく事情がわからなかったが、とりあえずメロンに着いていくことにした。
部屋に入るとメロンはドアの鍵をかけて言った。
「スイカさん。私はあなたのことが前々から気に入らなかったのです。私はあなたの赤い色が特に嫌いで、不快に思っています。今日、私はスイカさんに悪いことをするため、あなたをこの部屋に閉じ込めました」
「ど、どうしたんだいメロン君、急に標準語になって」
メロンはスイカに飛びかかった。危ない、とスイカが目をつぶったところで、誰かがドアをノックした。
「め、メロン君、いちおう、出たほうがいいんじゃないかい?」
「それもそうですね」
メロンはあっさり提案を受け入れ、ドアに向かった。

* * *

ドアが開いた。
メロンの様子に恐怖を感じ始めていたスイカは、今なら逃げられる、と一瞬思ったが、ノックの主が部屋に入るや否やドアを閉め鍵をかけてしまった。
ノックの主は優しそうな顔をしていた。しかし同時に何かを覚悟した様子も少なからず感じた。
ノックの主はメロンに言った。
「君は何をしていたのですか?まさか私に黙ってスイカ君を傷つけるような真似を?」
メロンは答えた。
「まさか...そんな訳ないです。スイカは我々の計画に必要な人柱、いえ"果物柱"ですから。」
そしてメロンは続けた。
「バナナさん、私達の計画はうまく行くのでしょうか?」
ノックの主がバナナという名前であることがわかった。バナナは答える。
「不安はありますが、やるしかありませんよ。これは天から与えられた使命なのですから。」
尋常でない雰囲気を察したスイカは恐る恐る二人に尋ねた。
「えっと、僕をどうするつもりなんですか?」

* * *

「メロンから聞いていませんでしたか。いいでしょう。」
バナナがスイカの前に立つとメロンの震えが大きくなった。
「君は忘れてしまったことでしょうが、果物族が天界で特に溌溂と歌い踊るのは遊び呆けているのではありません。それは無邪気さと純粋さを精錬することで、そのスウィートネスを増さんとする天の意思なのです。そして清く美しき心と形状は、まさしく至上なるスウィートネスの象徴です。
しかし多くの果物は享楽を貪り堕落した。近年そのスウィートネスは急速に爽やかさを失いつつあります。
我々は彼らに思い出させる必要があります。果物族の誇りたるスウィートネスを。いや、これは天の使命です。
そこで君だ、スイカよ。君の傷一つない美しい球形は素晴らしくスウィートです。だからこそ君には生贄になってもらいます。
これは象徴的儀式に過ぎないが、彼らの無碍にしたスウィートネスが失われることの意味を切実に感じさせるのです。」

* * *

バナナが手を高らかに掲げ、手元に甘味玉(スフィア・オブ・スウィートネス)を生成する。そしてその手をスイカのもとに振り下ろすと、スイカはたちまち焼け焦げ、地上に”堕ちた”。
 
「スイカよ、君はこちらにいるには――スウィートすぎたのだ」
 
現在のスイカに黒い模様があるのは、この名残であると言われている。
 
その後、バナナの御業を恐れたメロンはたまたま持ち合わせていた白い網の中に閉じこもったが、まだ余力があったバナナによって超甘味玉(ハイパー・スフィア・オブ・スウィートネス)を喰らい地に堕ちた。
 
現在のメロンに網目模様があるのは、この名残であると言われている。
 
そして、バナナはその行き過ぎた力を神から咎められ、果物としての市民権を剥奪され地に堕ちた。

現在のバナナがおやつに入るかどうか判然としないのは、この名残であると言われている。

(完)

おわりに

私たちの処女作となった今作ですが、最初から最後まで何も悪くないスイカ、てやんでい口調から急に標準語になるメロン、謎のスウィートネス理論を提唱するバナナの思惑が交錯し、最終的に三者三様に理不尽に堕とされるという不条理な果物神話ができあがりました。

なお、直前の文章しか読めないルールですが、今回はたまたま2ターン目を担当した天川屋義平がラストも担当したため、冒頭の

諸君はスイカに黒い線が入っている理由を知っているだろうか?今日は、そのお話をしてあげよう。

という伏線(?)を最後に回収することができました。普通のじゃれ本で伏線が回収されることはまずないので、安易に伏線を張るのはやめておいたほうがいいです。