森と人のつながり(6) ~里山の恵みをもとに地域活性化
はじめましての記事で書いたように、いろいろな人に森とのつながりのお話を聴いています。
六人目は、養老渓谷で里山の魅力を伝えているHさん。FCWS(Forest Creative Women's School)(*1)でいっしょに学んだ仲間です。
養老渓谷にきたきっかけ
地域おこし協力隊で養老渓谷にきました。協力隊を始めた時は本業がヨガの講師だから、ウェルネスツーリズムをやろうと思ってた。ところが、コロナがちょうど流行っちゃって、これじゃあちょっとしばらく厳しいだろうな、じゃあどうしようかなって。
半年後ぐらいにはアロマがもともと好きだったから地域の里山の植物とかでハーブティーだのアロマだのなんかできないかって。地元の人とかにこうこういうことやりたいんだけどって言ったらクロモジあるよってなって、アロマの商品開発とかもちょっと始めてた。協力隊になる前に持ち込んでたプランを変えざるを得なかったの。もともとヨガでもアロマオイルって普通に使ってたりしてたから、健康とか豊かなライフスタイルの提案っていう延長線上で商品開発がアイデアとして出てきたのは自分の中ではごく自然な流れだったのかなって。
今の活動
今は養老渓谷の駅前で、カフェを地産地消とか地域資源のプロデュースを目的として運営してます。あとは野奏樹(*2)というブランドを作って、里山に自生している植物をメインにした製品の商品開発をしてます。それプラス、地域の30代、40代くらいの民間プレイヤーの人たちとの連携強化をボランティア的に始めています。
カフェの方は、養老渓谷駅っていう観光客が降り立つ場所がさびしくなっちゃってるので、玄関口で観光客を迎えたいなと思ってはじめたの。飲食の経験はほとんどなかったし、最初はやるつもりもなかったんだけど。買い物で通っていたお店の親父さんが、その場所を使っていいよといってくれて、仲間たちも協力してくれて、ワイワイ準備して、3年前の11月にオープンしたの。
民間プレイヤーの連携は、みんなで盛り上げて、観光客に養老渓谷にきてもらいたいと思ってる。いまはそれぞれのプレイヤーが孤軍奮闘みたいになってるから、連携して助け合ったり応援しあえるといいなと思ってます。それで地域のコミュニティとして強くなっていけるといいなと。そのコミュニティーで、とりあえず近場だからだけじゃなくて「養老渓谷に」行きたい、とか、また行きたいっていう人をふやしたい。養老渓谷ならではのトキメキを提供していきたい。
養老渓谷としてどんなトキメキを提供できるかっていうところを模索した結果いまアロマブランド立ち上げるところに実は着地してたりする。後になって思ってるんだけど、やっぱりそのアロマオイル作ってる段階で、すごい植物のいい香りがしたり、どんなのができるんだろうってワクワクするの。いずれはヨガと蒸留体験と温泉掛け算してデトックスツアーみたいなのやりたい。
こども時代の里山の思い出
結局なんで私が里山の自生植物にすごいこだわってるかっていうと、一つは自分がちっちゃい頃、お母さんと手をつなぎながら、これがタンポポとかこれがシロツメクサとか教わりながら、野草摘みながら帰ったみたいな。柔らかい思い出があって。
いまつくってるアロマブランドのターゲットというか、その思いを伝えたい対象ってやっぱり社会に出て活躍してる女性なの。日々忙しくお仕事も子育ても場合によっては親の介護とかも入ってくる年代の女性って一日すごい忙しくしてると思う。その中で故郷の思い出とか実家の思い出とか、母親父親の思い出とかそういうのを思い出す瞬間っていうのがごくわずかなんじゃないのかなって。でもすごい忙しい中、クロモジとか柚子とかヒノキとかそういうのをちょっと振って、仕事中に嗅いでもらって自分の原体験とか心のすごい奥の方にしまってた、なんかちっちゃい頃のこと思い出すことで、癒されるだけじゃない、次元の違う体験してもらうことができるんじゃないのかっていうのがあって、日本の植物にこだわってる。
クロモジのポテンシャル
もう一つ、日本の植物ってすごいポテンシャルがあって、その代表格としてクロモジって抗菌作用と炎症作用に優れてるって言われて。ただの消臭っていうだけじゃなくて、嫌な匂いが中和されて行ったり。コロナのとき義務感でアルコールのスプレーをしていたけど、クロモジならいい香りをまといながらも菌から自分をプロテクトできるっていう作用があるっていうのも、自分の中ではすごいタイムリーだった。
あとは食用にもできて、枝とか幹はお茶にできたり、葉っぱは粉末にすると、お菓子の原料とかにできるぐらい甘い香り、面白い香りになるし。だから食べてよし、飲んでよしっていう。あと、ウショウっていう漢方の生薬にもなる。さらに、草木染めもできてちょっとピンク色のすごい綺麗な色に染められます。じゃあ残った根っこはっていうと、年取ってくると同じ根っこから若い木がね生えてくるの。さらに、蒸留で細かくチップにしたのは、畑に撒けば肥料になるし油含んでるから燃料にしようと思えばできるし、使い道はいくらでもある。無駄になるところが一つもないすごい植物なんだよね。
本当にちょっと煎じてお茶にするだけでも体にいいものがたくさんあるからわざわざ輸入しなくても、日本の植物にもっとちゃんとフォーカスすればもっと日本のアロマブランドとか日本のブランドってそれだけで全然確立できるよねって。原価はほぼゼロだけど、単価の高いマーケットだからしっかりビジネスにできると思う。
クロモジとの出会い
こっち移住して初めてクロモジって聞いてそれって何ってなって。地域に根差した植物みたいだなぁと。お茶でお菓子を食べるときのクロモジの楊枝を地元のおじいさん方が仲間内でつくってたり。
あと、趣味で楽しんでる人がアロマオイルを蒸留したり、クロモジ茶をみんなに振る舞ってたりとかしてた。香りを嗅いでみたら、想像してたのと違って、なんかこうフローラルで、とにかくいい香り、フワーって甘い香りでっていうので、これはすごいぞって。で、自分もやってみようってなったんだよね。そのお茶もサーモンピンクみたいなきれいな色で、見た目も可愛くてすごいいい香りで。これはもうやるしかないなって。最初にクロモジを勧めてもらったのが大きかったと思う。
それに、近くにそこら中に生えてて。こっちの人って、ヒノキとか杉は大事にしてるけど、クロモジは下草といっしょに刈ってもいいくらい、邪魔だっていうくらい。どんどん取っていいよみたいな。それはすごい大きいなって思う。
クロモジ集め
クロモジを採りにいくのは、じいさんに手伝ってもらいながらいっしょに行ったり、お願いして行ってもらったり。じいさんは地元の人で70代ぐらいなんだけど、山で育ってるから足腰すごい丈夫で、リポビタンDみたいな感じの崖も降りて採ってくれたり。山のこともめちゃくちゃ詳しいから、ここだったら山いじっていいぞとか。土地を持っている人のことも、よく知ってるし。こういうその地域資源、森林資源活用した商品開発において、地元のじいさんがビジネスパートナーになってくれるってことはものすごい強い味方になる。
このじいさんに手伝ってもらえるようになったのは、地域おこし協力隊で来たっていうのがよかったんだと思う。協力隊でまぁ市のお墨付きをもらってるわけだから。あと、市役所に勤めてる人の親父さんが森林組合のOBで、じゃあ俺の親父頼れば山のこと、たいがい親父詳しいからさ、みたいな。山に詳しいじいさんはだいたい山に詳しいじいさんと仲いい、みたいな感じでどんどんつながって。仏みたいなじいさんとか、明るくてカラッとしたじいさんとかに恵まれてる。
じいさんたち
じいさんたちも、新しいこと、おもしろがってくれてるし、地域課題とか社会課題に対してすごくやっぱりまじめに向き合うとしてくれる。地頭いいなと思って、一言言えば十ぐらいわかってくれるみたいな。原価ゼロでマーケットが大きいし、安定してるから、地域にちゃんとお金循環できるっていうこともわかってくれてる。そうやって話のわかるじいさんがまず一番応援してくれてて実際山入ったり、なんだり手伝ってくれたりって。あと、とにかく、なんかこう応援してやるべって言って俺も暇だからよーっていって、すごい優しいおじいちゃんだからお願いすれば手伝ってくれたり。
高齢者はね、ポテンシャルだらけだと思う。知恵もあるし、時間あるし、ぶっちゃけお金そんな困ってないから。一緒に遊んで楽しんでるっていうのはすごいいいよね。私自身、ここにきて、老いることが、決して悪いことじゃないって思うようになった。
ちょっと話がずれるけど、正月飾りとかすごいすごい立派なの作ってくれるのね。私が来るまではもう家族がめんどくさがって、スーパーとかの既製品を買ってきちゃう。そうすると、まあ俺が作んなくてもいいかみたいにもうなってたんだけど。やっぱり手作りの正月飾りが珍しいし、めっちゃかっこいいじゃんって言って私のも作ってよ、とか友だちの分も作ってよ、みたいに言ってたら、今年もまた欲しいだろうって。うれしそうにそういうやりとりしてくれてる。そのじいさんにとって大事にしてたものにまたちょっとこうスポットライト当てられるようになってたらいいなって。
わらを縄にしたりとかすごく早い。技があっても誰も見てないっていうのはつまんないよね。当たり前すぎて気づかないもんなんだと思うよ。やっぱり違う目で見たらこれはすごいっていうのあるもんね。お米刈り取った後の藁で、今年の五穀豊穣を報告するとともに来年も願って、わらで編むんだねって。すごい勉強になっておもしろい。
まだまだ本当に始まったばっかりなんだけど、ちょこっとずつ波紋が広がって。最近ね、なんかね、クロモジがいいらしいぞみたいな。この界隈でおじさんが言ってたりします。クロモジって聞いてもピンとこなかったけど、俺ちっちゃい頃に山でクロモジの匂い嗅いでたわって思い出したとか。地域の中でもちょこっとずつそうやって思い出してもらったりとかしてるかな。
Hさんの話を聴いて
クロモジに対する愛がすごく伝わってきました。たまたま出会えたクロモジだけど、香りや色や五感でも魅かれていくし、効用も知れば知るほど見つかって、魅力的でおもしろくて、という気持ちがどんどん出てきて、出会えて本当によかったなぁと思いました。また、クロモジがHさんと出会えて、魅力が広がっていくこともとてもよかったなぁと思いました。私も身近でクロモジ使ってみたいと思います。
もう一つ、じいさんたちとの出会い。「じいさん」という呼び方が遠慮しない近さや好き合っている関係性を表しているように感じました。じいさんたちはHさん自身を応援しているし、Hさんがやっていること=地域を豊かにすることに共感して応援しているし、また、そこにじいさんたちの時間やパワーを使うことを楽しんでいることを感じてすてきだと思いました。
パワフルなHさんが移住者としてこの地域に入ることで、埋もれていたものが発掘されて、クロモジの魅力が発信されたり、じいさんたちの力が発揮されたり、変化を呼び起こしているんだなあと実感しました。
補足
(*1) FCWS
森林資源を活かした新しいモノ・コトづくりや、事業拡張に調整したい女性のためのオンラインスクール
https://m.youtube.com/watch?v=AG9VzFKWesc&list=PLdpiwGzmzDdxqYBrOLFygnJ8bXAu5Sh8l
(*2) 野奏樹
https://ya-souju.com/about/
クロモジの効用の記事の例
国産ハーブ「クロモジ」がインフルエンザウイルスを99.5%以上ブロックするという新事実。
https://www.shinshu-u.ac.jp/zukan/cooperation/995.html
和製ハーブ「クロモジ」茶の香りの効果が明らかに(森林総合研究所)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2021/20210322-0