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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~与えられた場所で咲きなさい~
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さて、今回もかつての里山で見られる低木の紹介、ということで、上はご存じの方も多いかもしれませんが、ウツギです。この木は林の縁(ふち)のような日当たりのいい場所にしか生えませんが、花が咲く4~5月はあたり一面、雪が積もったように真白くなります。
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純白で一斉に咲く花を見ていると、どうしてもカメラを向けたくなってしまう。
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白という色はほんとうに美しい。いや、白は”色”だと言えるのか、と思わず考えてしまいます。
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これだけ派手に花が咲くので、蜜や花粉を求めてたくさんの虫たちがやって来ます。
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高さはせいぜい1~2メートルほど。日当たりが悪くなる林の中にはほとんどありませんが、林の切れ目や縁(ふち)のような陽当たりが良く、かつ水がしみ出すようなちょっと湿った場所を好むようです。
ウツギという名は空木と書き、実際、数年たった枝は中が中空になるため、この名が付いたといわれます。そして、恥ずかしながらわたしは、”卯の花”とは”おから”のことだと思っていたのですが、実際にはこのウツギの花のことを”卯の花”と呼び、”おから”はこのウツギの花に似ているからということで、卯の花と呼ばれているそうです。『夏は来ぬ』という歌のなかに、
♬卯の花の 匂う垣根(かきね)に
時鳥(ほととぎす) 早(はや)も来(き)鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来(き)ぬ
と、この花が登場しますから、昔から人里近くにあった木なのでしょう。
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こちらもウツギのように純白の美しい花を咲かせる”イボタノキ”。このおもしろい名前は”イボ取りの木”がなまったもので、
イボタノキという名前は、この枝に寄生するイボタロウカイガラムシの雄が分泌する白蝋を、イボ取りに用いたことによる。白蝋は生薬名を虫白蝋(ちゅうはくろう)といい、止血にも用いた。この白蝋を戸に塗ると滑りが良くなることから、トスベリ、トバシリという別名もある。
というような背景があるようです。
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ウツギほどたくさん生えることはなく、ただ、林や森の”なか”でときどき見られ、高さはやはり1~2メートル。サクラなどの早春の花が咲き終わった新緑の季節にこの花に会うと、思わず息をのんでしまいます。そして、あのキンモクセイと同じモクセイ科の木なので、花の香りがとてもいい。近づくと春の暖かい空気に乗って、かぐわしい香りがあたりに漂います。虫たちも当然、この花が好きで、たくさんのハチやアブ、チョウの仲間がやって来ます。
ウツギのように春のたくさんの日差しを浴びて派手に咲き誇る花もいいけれど、林のなかでひっそりと、木漏れ日を浴びながら花を咲かせて虫たちを呼ぶ、このイボタノキのような木もわたしは好きです。というより、イボタノキのような木にどうしても気持ちは向かってしまうかな。