【選択的夫婦別姓】【同性婚】憲法記念日の新聞各紙の特集記事を読む
毎年、憲法記念日の主要各紙の特集記事をざっくりチェックしているのですが、今年の憲法記念日は、例年とちょっと様相が異なるように思います。
読売、産経の改憲姿勢は相変わらずなのですが、例年と比べて紙数が少なめに感じました。
反対に、朝日、毎日といったリベラル寄りの論調が多い新聞で、ジェンダー平等、とりわけ、選択的夫婦別姓や同性婚の問題を取り上げたのが目を引きます。
はっきり言って、改憲派各紙より紙数はずっと多いです。
その中で、毎日、朝日、日経の記事の一部をご紹介しておきたいと思います。
毎日新聞「日本国憲法74年」特集記事
3面に政治の動き。
8、9面に特集記事として、憲法14条、24条にまつわる問題、主に同性婚と選択的夫婦別姓について取り上げています。
全体的な論調としては、
①憲法24条が制定され、家制度が廃止された。
②国籍法や民法900条の規定で違憲判決が下り、司法が違憲立法審査権を行使したことで、社会が一歩ずつ進展してきた
③しかし、選択的夫婦別姓や同性婚訴訟、離婚後単独親権規定をめぐっては、まだ合憲論と違憲論がせめぎ合う規定が残っているとも指摘しています。
同性婚は「議論が進んでいない」と評価
同性婚については、8面右上で菅義偉首相の答弁、「憲法上想定されていない」「認めるか否かは我が国の家族のあり方の根幹にかかわり、極めて慎重な検討が必要だ」との見解を紹介しています。
主要政党の動きとして、自民党内に特命委員会が設置されたことや、野党側がすでに婚姻平等法を共同提案していることなどに触れ、内閣法制局関係者の「憲法24条は『家』ではなく『個人』の意思で結婚できることを保証するための規定だ。同性婚を禁じたわけではなく、同性パートナーの結婚を認めても憲法違反にはならない」というコメントを紹介してはいるものの、「国会などでの議論は進んでいないのが現状だ」とまとめられています。
選択的夫婦別姓を巡る攻防の歴史を概観
選択的夫婦別姓については、9面に大きく紙面を割いています。
各党の動きをプロットで紹介しつつ、女性差別撤廃条約の批准や男女雇用機会均等法制定を契機として、社会党、共産党から議論が提起され、いったんは96年に民法改正要綱が作成されたたのの、自民党内からの反対論で断念。
こうした反対派の背後に神社本庁の存在を指摘しています。
しかし、安倍政権から菅政権に移行して変化が見え始めたとも指摘。
菅首相が2020年11月の参議院予算委員会でかつて選択的夫婦別姓に賛成の立場で行動していたことを問われ、「私は政治家としてそうしたことを申し上げてきたことには責任がある」と踏み込んだ答弁を紹介しています。
一方で、第5次男女共同参画基本計画から選択的夫婦別氏の文言が削除されたことや、慎重派・反対派の「通称しよう拡大論」など、保守派の巻き返しも取り上げています。
野党側は立憲民主党が最優先政策に位置づけるなど、「次期衆院選で装填になる可能性がある」と指摘しています。
十分に状況を解説している記事だと感じましたが、「戸籍制度の変更が必要で、導入には莫大なコストがかかるとの指摘もある」等、従来の国会答弁とは不整合な内容(システムは対応済で導入コストは大きくならないとされている)もあり、あと一歩取材が足りていない部分も感じました。
※上記に関連して、9面左わきの青野慶久サイボウズ社長が「(旧姓併記のためなどに)システム改修などに多大なコストをかける発想も理解できません」と指摘されています。
朝日新聞「憲法あっても 途上の平等」
朝日新聞は、1面、2面、5面とジェンダー平等が途上にある社会で、女性の貧困や生きづらさが、憲法24条の精神がまだ途上である現実を重厚な取材で裏付けています。
ここで取り上げられている住友電気工業事件の男女の雇用差別(賃金差別)が憲法上争えるかが争点となった有名判例です。労働判例百選にも掲載されていますので、憲法学に興味のある方は是非勉強してみてください。
かつては、女性差別の解消は、家制度の残滓ともえいえる「標準家族思想(婚姻家族思想)」や、男女のジェンダーロールに基づく経済的合理性が壁になっていましたが、「動かなかった選択的夫婦別姓は、経済界から賛同する声が相次ぐ。同性を強いることは「経済的損失」だという経営者の訴えが注目された。男女平等の前にたちはだかっていた「経済的合理性」が、女性の社会進出への追い風に変わっている」と指摘しています。(2面)
「姓を変えたくないと思う人たちが、加速度的に増えている。昔の運動より、肩ひじを張っていないように見える」。という榊原富士子弁護士のコメントも紹介されています。
一方で太田啓子弁護士の「そこに憲法が存在するというだけで、社会が理念に近づくわけじゃない」というコメントも紹介。
「子育てや介護は女性のものといった慣習の中に性差別がある。そのおかしさに一人ひとりが気づき、声を上げることでしか変わらない」という太田弁護士の考えを紹介しています。
5面の世界のジェンダー平等に対応した日本のジェンダー平等の歩みについては、さすが朝日、という面目躍如な特集記事です。
この1面そのまま学校の授業に使えるくらい、内容が良いです。
一般的な男女平等って日本国憲法制定から始まるものですが、同記事では植木枝盛から始まり、新婦人協会も登場します。
敗戦後のシロタの草案作成やその後の女性の地位の向上、選択的夫婦別姓の要綱案といわゆるバックラッシュまで簡潔明快にまとめられつつも、勉強した方や専門家の方がうなるような秘話も挿入されている。
執筆は、高橋純子、豊秀一の両編集委員。
この2人ならそうだよね。という安定感ですね。
日本経済新聞 辻村みよ子東北大学名誉教授インタビュー
最後にご紹介するのは、日本経済新聞に掲載された、憲法学の第一人者・辻村みよ子東北大学名誉教授のインタビューです。
同姓婚と選択的夫婦別姓についての部分のみ抜粋します。
――同性婚は現行憲法上、認められますか。
「『憲法のせいで実現できない』との理解が一部にある点で、同性婚も緊急事態条項の話と似ている。24条1項に『婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し』とあるので、同性婚を認めるには憲法改正が必要と考えるのだろう」「憲法制定時に同性婚が念頭になかったのは事実だとしても、規定は『合意のみに基づく』という点に主眼がある。婚姻は当人の合意があればよく、親などの承諾はいらないという意味だ。『両性』は男女の夫妻に限らないというのが今では多数説となっている。憲法改正は必要ない。民法改正の議論を期待する」
――選択的夫婦別姓の憲法上の位置づけは。
「憲法13条や24条の個人の尊重の観点からしても早期の実現が必要だ」
(日本経済新聞電子版2021年5月3日)
今回、辻村教授は精力的に動かれているようで、前掲朝日新聞朝刊5面に掲載された、ジェンダー平等の歴史に関する特集記事に監修者としてクレジットされています。
最後に
前掲毎日新聞記事でも指摘されているように、今年は、選択的夫婦別姓第2次訴訟が再び大法廷に回付され、同性婚訴訟は札幌地裁で劇的な違憲判決が下されるなど、「家族と憲法」に関する議論が活発化してきています。
産経、読売のご尊大な天下国家論より、今の憲法をきちんと活かしきれているのか、もう一度問い直す必要があるようです。
(了)
【連載記事一覧】