水道に携わる国内事業者と改正水道法 ~東京水道株式会社を中心に~
改正水道法によるコンセッション方式の導入
図 水道法改正の概要P10
上の図の「4.官民連携の推進」に書かれています通り、改正水道法により水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組み(いわゆるコンセッション方式)が導入されました。これにより、厚生労働大臣の許可を受けられると、民間事業者が権利を得て水道事業を運営することができるようになります。現在、海外で水道事業に失敗した外資系民間事業者が入り込んでくるのではないかと、心配がされています。一方、水道事業を請け負うことができる民間事業者は、国内でも設立されてきています。今回は、筆者のご近所の自治体で設立された東京水道株式会社について紹介したいと思います。
東京水道株式会社とは
図 東京水道株式会社ホームページより
東京水道株式会社とは、東京都水道局と「東京水道グループ」として水道事業に携わる政策連携団体です。株主は、東京都(水道局)、損害保険ジャパン株式会社、株式会社みずほ銀行、みずほ信託銀行株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、富国生命保険相互会社です。
事業内容は水道事業全般で、窓口業務、徴収整理、検針、貯水槽点検、管路の調査・設計・積算、管路工事の施工監理、管路の維持管理、漏水調査、水質調査など、多岐に渡ります。
東京水道株式会社の今後の取り組み
図 東京水道長期戦略構想2020 P132
東京水道株式会社が検討している今後の取り組みについては、東京水道長期戦略構想2020にも記載されています。その構想の資料P132を見てみますと、下記の3点に取り組んでいくようです。
1.コンセッション方式を導入する国内水道事業体が実施するモニタリングへの支援
コンセッション方式を導入すると、委託した民間事業者が適切に運営しているかどうか、自治体でモニタリングする必要があります。そのモニタリングの支援を自治体から受託し、取り組むようです。
2.東京都水道事業の包括的受託
東京水道グループとして、東京都水道事業を包括的に維持・管理していきます。
3.他の道府県の水道事業における事業運営への貢献
水道法の改正により、今後、全国の水道事業体では広域連携や官民連携の拡大が見込まれていると考え、技術系・営業系業務を合わせた包括委託等の受け皿としての事業展開を検討することを考えているようです。
上記の取り組みについて、外部有識者から出た意見は下記の通りです。
○ 政策連携団体(東京水道株式会社)が国内外の事業を受託することで、水道局としての企業価値が上がり、都民の負担軽減にもつながる。包括委託等の受け皿としての事業展開は前向きに検討すべき。
○ 政策連携団体(東京水道株式会社)にどれだけ付加価値があるのかを説明可能にすべき。そういう意味では、他の水道事業体の業務を受託することが最大の証明になる。
○ 政策連携団体(東京水道株式会社)が他事業体の事業を受託すると、その役割が増えたことによるリスクも生じる。そのリスクと東京水道を維持する役割をどのように切り分けるのか、また、それを政策連携団体(東京水道株式会社)にどのように求めるのかを考える必要がある。
水道に携わる国内事業者のうち、株式会社の形態を持つ事業者には、いくつかのパターンが見られます。一部をご紹介します。
【A.自治体単独で設立した株式会社】
横浜ウォーター株式会社
横浜市水道局が100%出資して設立された会社。宮城県山元町の上下水道における包括的民間委託について、上下水道事業アドバイザリー業務を受託(実際の業務を受託しているのは水ing株式会社)。その他、複数の自治体から水道業務を受託。
クリアウォーターOSAKA株式会社
大阪市が100%出資して設立された会社。大阪市の下水道施設の維持管理業務を受託。
【B.自治体と民間事業者で設立した株式会社】
株式会社群馬東部水道サービス
株式会社明電舎を代表企業とした民間企業グループと群馬東部水道企業団(本所:群馬県太田市)が共同で出資。2017年4月1日より水道事業運営及び拡張工事等包括事業を開始。尚、株式会社明電舎は、福井県坂井市の上下水道における包括的民間委託でも代表企業となっている。
株式会社水みらい広島
広島県が水ing株式会社を共同出資パートナー事業者として選んで設立した公民共同企業体。広島県営水道の指定管理者として水道施設の運転監視業務や維持管理業務、水質管理業務、給水の緊急停止、庁舎管理などを行う。
【C.民間事業者で設立した株式会社】
箱根水道パートナーズ株式会社
箱根地区水道事業包括委託事業を実施する目的で、民間出資 により設立された特別目的会社。出資会社は、JFEエンジニアリング株式会社,株式会社 デック,ヴェオリア・ジェネッツ株式会社,神奈川県管工事業協同組合。
ゆうばり麗水株式会社
夕張市と浄水場の新設・維持管理などのPFI事業を締結した特別目的会社。PFIにより、浄水施設等の更新・維持管理及び水道窓口等業務を行う。代表企業は日立製作所、構成企業は日立プラントサービス、岩倉建設、ドーコン。
男川ウォーターパートナーズ株式会社
岡崎市と男川浄水場更新事業(浄水施設・排水施設の新設並びに維持管理,BTM方式)を行うPFI事業を締結した特別目的会社。代表企業は鹿島建設株式会社で、構成員は前澤工業株式会社、株式会社安川電機、株式会社エステム、酒部建設株式会社、株式会社石垣で、協力企業は中日本建設コンサルタント株式会社。
浜松ウォーターシンフォニー株式会社
コンセッション事業の国内第1号案件である浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業を受託。株主はヴェオリア・ジャパン株式会社,ヴェオリア・ジェネッツ株式会社,JFEエンジニアリング株式会社,オリックス株式会社,須山建設株式会社,東急建設株式会社。
Cのタイプの株式会社には、福島県会津若松市、埼玉県(PFI大久保テクノリソース株式会社)などもあります。
最後に
水道事業への外資系民間事業者の参入が注視されている中、今回は東京水道株式会社を中心に、国内の民間事業者について紹介しました。外資系民間事業者と国内の民間事業者との関係、自治体と民間事業者との関係について、今後の動きを注視していきたいと考えています。
改正水道法では広域連携の推進が強化されました。広域連携が推進されると、自治体同士の関係にどのような変化が起こるのか、民間事業者同士がどのようにシェアを広げようとしていくのか気になるところです。各自治体、各民間事業者とのそれぞれの関係がどのように動いていくか、政府や各自治体が考える民間活力をどうやって引き出し続けていくことができるのか、どうやって民間活力をコントロールしていくのか、今後の議論が待たれるのであろうと思います。水道を公共財として守っていくには、国民の継続的な関心が必須であろうと考えます。