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アーサー王文献(5)「西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン」

アーサー王物語について詳しくない人でも、「魔術師マーリン」の名前はなんとなく聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。私もなんとなく昔から聞き覚えがあり、また、昨今のアーサー王物語をモチーフにしたキャラクターが登場するゲームの影響で、Twitterのトレンドに突然その名が登場するところを目にしたことなどがあります。

それほど有名人物であれば、アーサー王物語を読めばさぞかし華々しい活躍がみっちりと描かれているのだろうと思っていたのですが、「アーサー王の死」やサトクリフ3部作を読んだ私の印象は「マーリン、意外とあっさり退場するんだ...」というものでした。マーリンは、アーサー王の父王ユーサーの代より前、ヴォーティガーンという王の時代から登場するのですが、アーサー王が王座に着いた後は物語の中心からやや退き、やがて恋人(?)に魔法で幽閉されてしまうと、ほぼ存在感がなくなってしまいます。

しかも、ランスロットやガウェイン、イヴァンらの円卓の有名騎士たちは自身が主役の冒険物語があるのに対し、マーリン視点でのエピソードはほとんどありません。しかし、気になる人物なのは間違いない...。強力な魔術を持っており、未来を見通し、謎めいた性格のマーリンのことを知りたくて、「なんかそんな本ないだろうか」と探して見つけたのがこの本でした。

マーリンが主役の本があるのです。ただ、結論から言うと、これは私が期待していたようなマーリン目線の冒険物語ではなく、「アーサー王の死」などで触れられていない出自の謎や、アーサーが王位に着くまでのエピソードをマーリンの活躍を描きながら綴った物語です。物語はアーサーの戴冠で終わるので、私としては「むしろその先を…」という気持ちにはなってしまったのですが、なぜこれほど強力な魔術を持った人物が生まれたのか、どれだけ人間離れしているのかという、マーリンのキャラクターを理解する上では興味深い作品だと思います。

アーサー王沼にどっぷりはまり、魅力的なキャラクターの隅々まで知りたくてたまらなくなった方にはお勧めです。

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