リーグ・アンを楽しむ見方 ジモティーvsアメリカン・グローバル
スタッド・ランスの伊東選手、中村選手の活躍より、ちょっと見てみようかなと思う人が増えているであろう、フランスのサッカーリーグであるリーグ・アン。そんなリーグ・アンを楽しむための、隠れた対立構造についてお伝えします。
10 vs 8:クラブのオーナーはガイジンが普通
リーグ・アンの勢力図を示す数字です。フランスのトップリーグ18チームの内、外国籍企業ないしはオーナーが10チーム。対して、フランス国籍の企業・オーナーが所有するのは8チーム。
リーグ・アンと言えば、カタール・スポーツ・インベストメントが所有しているパリ・サンジェルマン(以下、PSG)が有名です。しかしながら、最大勢力は米国勢です。マルセイユ、ストラブール、トゥールーズ、ル・アーヴル、リヨンが米国企業傘下となっています。なお、二部のリーグ・ドゥではカーンが米国ファンドのOak Treeに買収されています。
外資の注目:マルチクラブ・オーナーシップ
三苫選手がプレミアのブライトンに獲得され、まずベルギーのロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズでプレイしたことで日本でも有名になったのが”マルチクラブ・オーナーシップ”です。
以前はビックグラブが青田買いにて若手選手を大量獲得し、それを他のクラブにレンタルすることで実戦経験を積ませていました。ところが、2022年のFIFAのルール変更により、レンタルに出せる選手数が大幅に制限されました。その対策の一つと言われているのが、マルチクラブ・オーナーシップです。例えば、ベルギーのサン・ジロワーズが若手選手を買い、実戦経験を積ませて実質的な親クラブであるブライトンに売却すれば、この規制の対象外です。また、三苫選手のように何らかのルールにより、親クラブが所属するリーグに出場できない場合、子クラブで出場機会を得させるという副次的な効果もあります。
リーグアンで該当するのは、
①ストラブール:チェルシーを買収したトッド・ベリーが率いるBlueCo
②トゥールーズ:ACミランを買収したレッド・バード・キャピタルが保有
➂リヨン:クリスタルパレスを所有するEagle Football Club
④ニース:マンチェスターユナイテッド買収の意向を示すラトクリフ卿
の4チームです。
注目はEagle Football Club
派手さで言えば、トッド・ベリーが率いるBlueCoがダントツです。チェルシーでは、多くの有望株を高額、しかしながら長期契約で買うことによりフィナンシャル・フェアプレーの穴をあっという間に射貫いたことは有名です。
ただ、BlueCoはまだ2クラブしか保有しておらず、シティグループのようにネットワークになっているとは言い難いクラブです。その点、真のマルチクラブ・オーナーシップを短期間で築きつつあるのが、Eagle Football Club(以下、EFC)でしょう。
上図の買収クラブ一覧を見ていてわかる通り、
①プレミア(英):クリスタルパレス
②リーグアン(仏):リヨン
➂ベルギー:モレンベーク
④ブラジル:ボタフォゴ
⑤MLS(米):FCフロリダ
と、かなりグローバルにクラブを保有しています。しかも、本格的を開始したのはクリスタルパレスの2021年から。たった、3年足らずでこのネットワークを築いたのです。
このネットワークを築き上げたのは、John Textorという米国ビジネスパーソンです。Fubo TVというストリーミングTV会社を上場(IPO)させたことで巨額の財を成し、それでも意欲は衰えず、デジタル方面の会社を買収し次なるIPOのタネを作っているという御仁です。
自身が築いたサッカーネットワークの名前を”Eagle Football Club"としたところからも、Textorサッカー帝国のコアはクリスタルパレスであることがうかがえます。この帝国にとってリーグ・アンのリヨンの存在は、
リヨンはクリスタルパレスを支える人材を出せるのか
という所にかかってくると推察されます(個人的な推察です)。クリスタルパレスはご存じの通り、プレミア残留が目標のクラブであり、ヨーロッパのコンペティションに出れるクラブにしなければ、売上は増えません。そのためには、”安く”高品質な人材を獲得する必要があります。
23/24シーズン夏季のクリスタルパレスの補強リストを見る限り、Textorが大型補強で戦力を急激に上げる気がないことがうかがい知れます(下図)。
一方、ザハを中心に30オーバーの選手を放出したことは(しかもタダで)、若手中心の選手構成をしたいというEFGの意志の表れだと考えます。
さてはて、そんなリヨンですが、なんと9試合消化時点で最下位。
夏の移籍マーケットでは1000万ユーロを超える選手獲得は見送り、Bチームからの昇格やパレスU-21からのレンタル加入が主だったリオン。
良質な人材を輩出するにはトップリーグでのプレイが不可欠であることを考えると、ボトムから抜け出せないと、さすがのTextor氏も冬の移籍で支出は避けられないと考えられます。
かなり気が早いですが、冬の移籍マーケットではEFGとリヨンに注目です。