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”頭打ち”の予感漂うUEFAの売上高、禁断の中東融合も否定できない

UEFA。言わずと知れた欧州のサッカー業界を束ねる協会です。近年はネイションズ・リーグや、ヨーロッパ・カンファレンスリーグを創設し、ただでさえ忙しいフットボールカレンダーを殺人的なものとしてしまったため、多くのファンからブーイングを浴びています。

この記事では、なぜUEFAが新たなコンペティションの設立に追い込まれたのかを読み解いていきます。また、UEFAが短期的に売上高を伸ばす施策が乏しくなっており、中東を取り込まないと厳しい状況に追い込まれていることを示していきます。

UEFAの売上高は右肩上がり

UEFAのシーズン売上高は均してみると、右肩上がりです。10/11シーズンは13.8億ユーロでしたが、確定値が出ている21/22シーズンは40.5億ユーロ(6,480億円相当、日本で言うと冷凍食品大手ニチレイ位の規模)と、過去12シーズンで約3倍になりました。年率+9.3%という素晴らしい売上高の伸びです。

UEFA Financial Report 21/22

売上高が伸びる一方で協会が利益を懐に・・・、という疑いを度々SNS上でかけられています。しかし、公表データによれば各クラブ・各国協会に渡す分配金(Distribution)、欧州コンペティションに参加できなかった国やユース育成などに使われる連帯金(Solidarity)の合計額は、売上高の80~90%相当が毎年計上されています。売上高が増えれば、その分だけ分配金が増えるため、UEFAが自身の利益を増やすためにコンペティションを創設しているという批判は的を得ていないと言えるでしょう。(一部の方がやらかしてしまったのは事実ですが、その話は機を改めて)

(注)分配率 =(連帯金+分配金)÷売上高
UEFA Financial Report 21/22

UEFAのテコ入れ① EURO開催して”ない”年の盛り上げ

サッカーという協議を広める以上、売上高の増加は組織の命題です。さもなければ、バスケ、F1、テニス、ハンドボールなど他の競技に取って代わられるのが仁義なきスポーツビジネスの世界です。

UEFAとして目を付けたのが、国別代表戦の収益強化です。下図の通りチャンピオンズリーグ(CL)など欧州クラブ戦は、年を重ねるごとに増加しています。それに対して、代表戦は売上高の振れ幅が大きくなっています。

UEFA Financial Report 21/22

代表戦だけの売上高を並べてみました。見ての通り、EUROが開催される年は売上高が跳ね上がるのですが、それ以外の年は低い。UEFAの経営陣の課題は、EURO開催以外の年の売り上げをいかに伸ばすかだったと思われます。そこで、18/19シーズンからスタートしたネーションズ・リーグが考案されたのでしょう。

UEFA Financial Report 21/22

今のところ、UEFAの目論見は当たっています。ネイションズ・リーグ導入前後の3シーズン(EURO開催年は除く)を比較しました。導入前は平均3.25億ユーロだった売上高が4.62億ユーロと1.4倍になっています。ネイションズ・リーグ効果は1億ユーロを超えており、してやったりという所でしょう。

UEFA Financial Report 21/22

UEFAのテコ入れ② 欧州カップ戦を中位クラブ・国に拡大

次にクラブ戦にもテコ入れが入りました。
CLはUEFAの目玉中の目玉のコンテンツですが、22/23 予算案では売上高が小幅増で計上されていました。過去の成長ペースから見ると、”鈍化”といって差し支えないペースダウンです。コロナ禍による巣ごもり需要により、ネットフリックスを始めとするネット配信サービスが急成長し、これらの会社が高額でスポーツ放映権を買いあさってきました。その流れも一巡しており、欧州フットボール界も無風ではいられない状況になったと言えます。

UEFA Financial Report 21/22, UEFA Budget 22/23

こういう状況に早晩陥ると知っていたのでしょう。UEFAは21/22にカンファレンスリーグを立ち上げました(図表ではカンファレンスカップと書いてしまいました、失礼しました)。上位クラブの選手は、代表にも選ばれてる選手が多くこれ以上試合はこなせない。ならば欧州大会に出れるチームを増やして、中位クラブ、ランキングで中位に位置する国のリーグ選手にも頑張ってもらおうという試みです。

もっとも、カンファレンスリーグの効果は出ていません。CLとヨーロッパリーグ(UEL、図表でこれもカップと書いてしまいました)、カンファレンスリーグ(ECL)の格差は埋まりません。CLとUEL&ECLの売上差額は、ECL創立前の20/21シーズンが24.4億ユーロ。22/23は予算ベースであるものの、27.2億ユーロと差は拡大する見込みです。

UEFA Financial Report 21/22, UEFA Budget 22/23

EURO開催時期以外の代表戦、ヨーロッパクラブ戦の拡大、とUEFAは切れる手札は切ってきました。しかしながら、男子サッカー選手はこれ以上試合日数を増やせない限界値まで来ています

女子サッカーの収益化は10年後の施策

そこでUEFAが目を付けたのは女子サッカーです。同じ発想はFIFAも持っており、それが前回の女子W杯における高額の放映権料ふっかけ問題につながっています。

欧州の女子サッカークラブの頂点を決めるCLの売上高も直近までは、百万ユーロに届くか届かないかという規模でした。近年の盛り上がりとUEFAの後押しにより、21/22シーズンは1520万ユーロと売上高は14倍以上になりました。それでも億ユーロで稼ぐ男子サッカーとの差は歴然としています。

UEFA Financial Report 21/22

しかも、女子リーグのCLは単独決算では赤字です。21/22シーズンは男子サッカーの利益と協会からの援助で何とかトントン(収支均衡)になったのであり、利益の共有がなかりせば、▲2500万ユーロの赤字でした。

UEFA Financial Report 21/22

このように、女子サッカーの収益化は道半ばです。W杯や欧州選手権など国際大会の規模を地道に拡大し、赤字に耐えながら、競技人口が増えていくのを待つしかない状況です。5~10年スパンの計画と言えるでしょう。

突き上げるビッククラブをかわすには”中東融合”が有効手段

こうなると、UEFAに短期的に売上高を伸ばす手当はありません。UELとECLの放送権料が上がってくれるのを祈るのみです。
これは危機的状況です。とん挫した”スーパーリーグ”構想に代表されるように、欧州のビッククラブはより高い放映権、分配金を求めて動き出しています。UEFAからの分配金が増えなければ、再度”スーパリーグ”設立に向けた動きが出てくる恐れがあります。

そうなった時、UEFAに残されているのは中東との融合です。オイルマネーで潤うサウジ、UAEやカタールを取り込むのです。具体的には、スペインのラ・リーガやイタリアのセリエAがしているように、スーパーカップ戦を毎年中東で開催することが考えられます。あとは中立地開催が必要となった場合に、中東で戦うということも考えられます。そうして地固めしつつ、サウジリーグのUEFA参入が不自然ではない状況を作り出す。これが大きな流れだと考えます。

クリスティアーノ・ロナウドの融資を最後に欧州カップ戦で見られるかもしれないですね。サウジの力もいずれ分析しようと思います。

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