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Photo by
amihijikata
優しい人間に囲まれて
僕は平凡な人間で、ひとに自慢できることなんてほとんどない。
でも一つ自慢できることがある。
僕は、優しい人間に囲まれて生きているということだ。
いろんな後悔や失敗を経験して人生に絶望して、生きる意味を見出せなかった時に優しい人間に助けられた。
僕は優しい人間に囲まれて生きているんだと実感することができた。
人生初めての恋愛と失恋。部屋に閉じこもった1ヶ月。今が昼なのか夜なのかわからない暗闇の生活。光を浴びるのが怖くなっていた。
クラクションが鳴った。
「乗れよ」
友人が僕の家まで車を走らせてきた。
閉じこもった世界から抜け出すには、まず外からの力がなによりも重要だ。小さな穴から漏れ出た光。真っ暗な世界を照らした一筋の光だった。その光を抱きしめるように僕は車に乗った。
その後どんな風に過ごして、どんな言葉を交わしたかほとんど覚えていない。けれども次の日、部屋のカーテンを開けて光を吸収しようとしていた。あんなに怖かった光が欲しくてたまらなくなった。
「乗れよ」
という平凡な3文字だけど。
「大丈夫か?」
「辛いな」
「俺がいるぞ」
「いつまでもウジウジするな!」
「引きこもっても何にもならない」
心配する優しさ。慰める優しさ。寄り添う優しさ。引っ張りあげる優しさ。厳しい優しさ。
全部同じ「優しさ」だけど、全部違う「優しさ」がそこにはあった。
人生で一番カラフルで優しい「乗れよ」だった。
僕は優しい人間に囲まれて生きている。
優しい人間から貰った優しい言葉。僕はちゃんと返せているだろうか。
これから返していけばいい。