○最寄駅のお嬢様 ~ 格差 ~
通学時の朝、同じ時間に最寄駅へ行く。この時間にはもう1人ホームにいる人がいる。私立中学校の制服を来た女の子だ。
何となく気になってはいたが、会話することもなく別々の車両に乗っていた。
ある日、いつも通り車両に乗ると、女の子が同じ車両に乗り込んできた。この時間の電車はガラガラにも関わらず、なぜか私の正面の席に座った。
なんだろう?と思いちらちら見ていると、カバンから財布を取り出しながら声をかけてきた。
「お金恵んであげるから、足置きになってくれませんか?」
突然の申し出に言葉を失っていると
「あなたお金に困ってますよね?靴もカバンもボロボロだし、高校通うのもやっとなの知ってるんですよ」
「何でそんなことを…」
「ちょっと頼んで調べてもらえば、そのくらいのこと簡単に分かるんですよ。月10万でどうですか?」
確かにその通りだ。これまではバイトをして賄っていたが、大学受験に集中したくて先月辞めたところだった。
「私が電車に乗ってる10分くらいで10万なんて、おいしいですよね?あなたも知っている通り、この時間は誰も乗ってこないですし」
これ以上親に負担をかけたくないと思い、彼女の要望に応えることにした。そして準備されていた契約書にサインをして10万円を受け取った。
「これで契約成立ね。早くこっち来て」
私は彼女の足元に横向きで伏せる体制を取った。すると長い足を伸ばして背中の上に乗せた。
「あーいい気分、ずっと丁度いいのがいると思ってたんだよね~」
「それにしても恥ずかしくないんですか?年下の中学生の言いなりになって、家具として使われて」
「お金がないってみじめですよね。お金のために小娘の足置きになるなんて。ほんとにどうしようもない人ですね」
私は彼女と自分の格差を身を持って知った。私に取って10万はバイトで何時間も働いて稼いだお金。彼女に取ってはただのはした金。
これから1年間、彼女の足置きとして通学することが決まった。彼女の仕打ちが段々エスカレートしていくことは、まだこの時は気付かなかった。
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