悪魔の取り分
働けど働けど把猶わが生活(くらし)楽にならざりぢっと手を見る
キングオブビンボこと石川 啄木の歌集『一握の砂』に収録された名歌とされる短歌です。
我が国のビンボと云えば彼と宮沢賢治がその双璧と言えましょう。
まぁ、実情は人並み以上の収入はあったもののその大半を女郎屋につぎ込んだというのが真相のようですが、結果としてキングオブビンボであったことは事実のようです。
赤貧の生活に疲れ、薄汚れた暗い部屋の隅に敷かれた万年床の薄い布団の上で、絶望した彼が自分の手をまじまじとみつめている姿を想起させるようなこの歌は、まさに名歌といえるのではないでしょうか。
それにつけても、この歌、まさに我が事。
数えども数えどもわが英世くん2人しかおらずブッと屁をたれる
これが現代の啄木こと、私、小鎬 風奔の現実でございます。
女郎屋(風俗)通いをしているわけではありません。
なのに何故か常にビンボ!
一生懸命働いて、やっと少しお金が貯まったと思っても必ず貯まった分と同程度の出費が我が身を襲うのです。
ない袖を振り酒を飲みにいけば更にお金はなくなります。
でも飲みにいかなくともお金がなくなるのだから不思議です。
何故お金がないのか家計簿のような簡単な出納記録を付けたことがあります。
無駄(と思われるよう)な出費はなく、収入と支出の計算にも間違いはなかったのですが、不思議とお金が残らないのです。
私の感覚ではまだあの通帳には数万円あると思っていても、記帳すると数千円しか残っていないのです。
確かに妻の病院の検査費用や交通費はいつもより掛かっていたが……とは思うのですが、それにしてもお金が残っていないのです。
もちろんギャンブルは一切やりません。
パチンコは嫌いだし競馬、競輪、競艇もわかりません。
ときどき宝くじ当たらないかなぁなんて夢想しますが、そもそも宝くじを買わないのだから当たるはずもありません。
着道楽でもなければ趣味にお金を使うこともありません。
ネットの「節約レシピ」を参考に鶏むね肉ともやしばかり食べているのですが、お金は残りません。増えるのはプリン体ばかりです。
ちゃんとお金は稼いでいます。振り込まれもします。人並の金額が通帳には記載されるのです。
でも気付くとお金がないのです。
牛丼屋に入れば一番安い牛丼の並に大量の紅ショウガを盛りつけて食べています。
決してスシローにもしゃぶ葉にもCoCo壱番屋にも近寄りません。最近は日高屋の前でさえ目をつぶって通っています。
税込380円牛丼並盛り一直線!
でもお金は逃げていくのです。
先日、コストコに買い物に行きました。
購入品は一番安いミネラルウォーターとロティサリーチキン(798円だったような気がする)だけ。
私の分も含めた数万円の支払いをカードで済ませた妹が私に言いました。
「いいよ、奢るよ」
そうはいきません。兄としての威厳が保てません。
私の財布から皺クチャになった英世くん1枚と小銭数枚がいなくなりました。
その日の夕食はもちろんロティサリーチキンです。
妻は床に伏していることが多く買い物と夕食の調理は私の役目なのですが、その妻の「また鶏~」と言う嫌な顔が忘れられません。
ロティサリーチキンとは要は鶏の丸焼きで、私と妻の二人では持て余してしまい、結局次の日も残りのロティサリーチキンを食べたのです。
「余っ程鶏が好きなのね」と妻に嫌味を言われたことをご報告しておきます。
話が少しズレましたが、とにかくお金がなくなるこのような現象を私は「悪魔の取り分」と称しています。
「天使の取り分」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
ワインやウイスキーの製造工程で熟成中に製造量が目減りすることで、その減少分を「天使の取り分」と呼ぶのですが、生活の中でいつのまにやらなくなる我がお金のことを私は「悪魔の取り分」と呼んでいます。
この悪魔の搾取を阻止すべくバカはバカなりに考えました。
そして意外に簡単な事実に気付かされました。
「悪魔の取り分」がどこに消えているのかわからないのでは手の打ちようがないという事実です。
搾取を阻止することができないのであれば、搾取によって受けるダメージの縮小化を図るしかないということに気付いたのです。
ではどうしたらよいのか。答は簡単でした。
それは、より稼ぐ!
私は所得倍増計画を実行すべく賃金の高い仕事を選択し単純に労働時間を増やしました。
私の収入は極々短期間に計画以前に比べ約1.5倍にアップしました。
その結果……………………
お金がないのです。
私の所得倍増計画の成果に気付いたのか、悪魔も搾取分を増やしたようなのです。
いいでしょう。悪魔を養ってやっている、そう思うことにしようではありませんか。
いつの日かこの地球を悪魔が支配するそのときこそ、悪魔はこの私を重用してくれることでしょう。なにせ私は悪魔を育ててあげたのですから。
いつの日かコストコでプルコギが買える日が来ますように。
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