「アストシティ阿見」は本当に便利か
少子高齢化による人口減に歯止めがかからない。「一年で千葉県船橋市が一つ消える」ほどの人口減少社会の中、首都圏郊外の茨城県阿見町だけが転入が増えている。平成初期から四万人台で推移してきた同町だが、令和四年の人口移動報告では全国で最も人口が増加した町となった。宅地開発も進み、不動産デベロッパーが宅地開発を手がけるなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、七年度の市昇格を目標している。その中で現在行われているのが不動産会社ノーブルホーム(福井英治社長、茨城県水戸市)の「アストシティ荒川本郷」計画。その宣伝と実際を検証する。
□ 東京まで58分の実情
広告サイトでは、最寄りのJR荒川沖駅から東京までの所要時間を五十八分とうたう。ところが、その下にある「特別快速使用の場合」に注目すると、多くの会社員の働き方とは沿わないものとなる。常磐線の特別快速は令和四年のダイヤ改正でそれまで六往復あったのが二往復に削減されている。一般的な会社の働き方で、九時始業十八時終わりと考える。特別快速の一本目が荒川沖駅を出るのは九時五分。勤務先を北千住と仮定しても到着時刻は九時四十八分。上野着九時五十七分。東京十時四分。終点の品川着は十時十五分。到底間に合わない。特別快速で東京へ通勤するのは現実的とは言い難い。
実際に東京都内に通勤することを考えると、遅くとも荒川沖駅を七時四十分に出る上り中距離電車に乗らなければ間に合わない。それに通勤時間も歩行距離も入れれば一時間以上は最低でもかかる。うたい文句としては、少し誇張しているように感じられる。
□ 行きはよいよい・・・、帰りの足の実情
では、東京から阿見への帰りはどうだろう。十八時終業として、定時退社とする。常磐線の下り線は取手止まりの快速電車と、そこから先の土浦、水戸、勝田、高萩方面へ向かう中距離電車に分かれるが、始発着の多い上野駅から荒川沖駅まで行く下り便は毎時三〜四本程度。中距離電車でも最低一時間弱を要する。同駅で下車して帰宅する足を考えれば、上野近辺の勤務としても最低でも一時間半程度を要するだろう。東京への通勤の可否だけを考えれば、可能ではあるものの、かなり難しいと言わざるを得ない環境といえる。
常磐線には特急ひたち・ときわと二種類の特急列車が走るが、荒川沖駅は現在特急は朝方と深夜の一部の便しか止まらない。「ちょっと疲れたので・・・」と考えても、なかなかそうはいかない。えきねっとなどを使わずに特急に乗ると片道だけで千八十円の特急券代が必要となる。
統括していえば、「不可能ではないが楽ではない」といったところだろう。
□ 車社会前提の阿見近郊
阿見町だけでなく、隣接する土浦、牛久、竜ケ崎各市にいえることだが、基本的には車移動を前提としている。前述の通勤だけで考えても、駅まで徒歩なら四十分以上かかる。場所は荒川沖駅とひたち野うしく駅のほぼ中間に位置するが、どちらへもアクセス性が優れてるとは言い難い。
また、長年同地域の足を支えてきたバス便は、運転手不足による減便が相次いでいるため、増便は望めない状況にある。基本的には車移動を前提とした考え方にならざるを得ない。
日常の買い物程度であれば近辺にカインズホームやカスミなどのスーパーマーケットがあるが、急病などによる診察時には、一番近い中規模病院である東京医大茨城医療センターまで徒歩で一時間強。車であれば約十分と、「万が一」のことを考えると車がなければ厳しい。
日常生活の手続きでも、町役場ですらかなり離れた位置にあるため、バスなどで移動することも現実的とは言い難い。
□ 将来展望の有無
現在、阿見町は転入が増えている一方で、町の開発が人口増に追いついていない現状がある。近郊地域自体の設計が、現在では車移動を前提としている状況となっていることを考えると、現時点では必ずしも便利と言い切ることはできない。今後の宅地開発で交通網の利便性が上昇する可能性は否めないものの、現時点ではまだ利便性が高くない。また、大手スーパーやショッピングモールの出店計画も、今のところ浮かび上がっていない。
あえて言えば、土浦近辺の市町村(かすみがうら市、美浦村、阿見町など)自体「なにもない茨城」を象徴するかのような光景が広がっている。
人口増が頭打ちとなってしまえば、いわゆる「限界ニュータウン」と化す可能性も十分にある。販売価格自体は九百七十万〜千百三十万と比較的安価だが、安易な「移住先」として選択肢に入れるのは考えが早いだろう。
自身の勤務先、目指すライフスタイルなどを改めて熟考した上で、後悔しないか検討して選ぶべきだ。