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明治大学現代中国研究所編『文化大革命〈造反有理〉の現代的地平』

明治大学現代中国研究所編『文化大革命〈造反有理〉の現代的地平』を読む。

これを読んだきつかけは先月、バーチャルで開催された第十九屆臺灣同志遊行(TAIWAN LGBT PRIDE 2021)をネットでチラ見したら明治大学の鈴木賢教授が同性婚についてネットで対談されてゐて鈴木先生が現代中国政治も専門であることを知つて、その著作からこの文革本を選んで読んでみた次第。同研究所が主催した文革に関するシンポジウムをまとめたものだつた。面白いことは面白いがやはり文革はとても我々が総括できるやうな運動ではない。

中国の政治家には毛沢東を崇拝している人が多い。彼らが文革で学んだ策略と手段は、必要があれば自分の同僚も攻撃して、あらゆる悪事をライバルになすりつけ、政治制度の弊害を彼らの過ちや恥ずべき行為だと言いくるめて、自分を人民の庇護者に仕立て上げるというものだ。そうしたやり方は、彼らが権力を奪取したり、あるいは政治的な危機を乗り越えるのに効果的だ。中国では、第二の毛沢東になりたいと考えている人はひとりに留まらず、実際のところ、心の奥底はプチ毛沢東だという人が多い。(徐友魚「文革とは何か」)

矢吹晋先生の指摘。毛沢東により修正主義、社会帝国主義と断罪されたソ連が1991年に崩壊したのに対して文革で大混迷した中国は解体することもなく計画経済体制に市場経済を全面的に導入する超修正主義!が軌道に乗るどころか成果を上げ米国に迫る経済大国となつたこと。

鄧小平による資本主義の導入は一党独裁の体制を守るためなのだから豊かになれば民主化が起きるなんてことはありえない。経済格差が解消されるはずもない「いびつ」なもので「差別と収奪による体制の維持」で、それがサステイナブルなはずはない。(鈴木賢)

鈴木先生は「崩壊がもう近づいている」とすら指摘する。それを受けて矢吹先生の指摘。共産党体制がいずれ崩壊することは間違ひないが今はむしろ「簡単には潰れなかった」事実に注目すべき。これは重要。韓国や台湾などの規模であれば経済発展で中産階級が生まれ社会も変化するが中国の大規模では中産階級の成長=民主化は成り立たない。(以下、矢吹先生が引用する劉暁波(2010年ノーベル平和賞)の指摘。文革時期よりも「開明的な」一党独裁、社会主義によつて文革期の暴政さを否定して「真の社会主義」社会建設と映してゐる。中国を根本的に改造できないどころか専制主義の寿命を延緩させてゐる。歴代の統治者同様に中共指導者の考へることは一党独裁の権力保持でしかない。文革後の名誉回復の「平反」も文革の真の否定ではなく「平反」の判断に公正な法律もなく独裁的な先生権力による平反。

専制者たちは自らの利益に基づいて誰を打倒し、誰を「平反」するかを決定している。打倒も平反もいずれも「無法可依」。仁政と暴政、恩典と懲罰は同一の専制体制の両面に過ぎず仁政と恩典では根本的に専制体制の性質を変えることはできないばかりか専制体制の腐爛したプロセスを延緩させるだけなのである。(劉暁波)

さうした楽観的な中国社会変革への見方もあつて胡錦涛まで若干その希望があつたが、それを完ぺきに否定したのが習近平の体制。薄熙来もさうだつたが習近平の時代になつて文革を知つてゐる世代が「貧しかつたけど平等で良かつた」となる。敵対意識、仇敵意識や階級の憎悪などが歴史的な事象に留まらない。あらゆる意味で文革の「造反有理」の信念は今の共産党、司法から中国の特色ある社会主義の体制にまで根付いてゐる。


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