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【理事長コラム『最良の接客とは?~ある有名フレンチでの出来事』】
緊急事態宣言や東京アラートも解除され、ホストクラブやキャバクラも営業自粛を求めないステップ3に移行しました。ちなみにパチンコ屋でのクラスターは起こりませんでしたね。なぜか。
おそらく誰もしゃべずに黙々と玉を打っているので、ちょっとぐらい密でも飛沫感染しなかったのかもしれません。かといってコロナ前の平和な暮らしに戻ったわけでもなく、やはり新宿や銀座の人出は少ないです。
それにしても、新型コロナに罹患したら極悪人か犯罪人みたいに扱われ、ご近所から後ろ指を差されそうな雰囲気です。飲食も自粛明け直後ということで非接触体温計で検温したり、席どうしの間隔を確保するなど、密状態を回避した店舗運営を模索しています。
しかし、店舗経営をはじめとする今の経済は、密であることが前提です。
感染症というのは、コウモリやセンザンコウなどの特定の生物と共存していたウイルスが宿主を失って、新しい宿主の人間に取り憑くことで発生するもの。そして人間が地球上にこれだけいる以上、人間の未来はウイルスとの共存しかありません。
ところでこれからの店舗運営は、さきほど少し触れた「飛沫感染」をいかにコントロールするかが大きいようです。店内でもなるべくしゃべらない、飛沫が飛ばない、という運営を考える必要がある。しかし、これが大変です。
◆ある有名フレンチでの出来事
銀座にある超有名なフレンチは、サイレントな接客で有名です。
スタッフが大声で「世界で一番の美味しいビールをお持ちしました!」
「はい!喜んで!」「ご一緒にポテトはいかがですか」なんてことは、もちろん言わない。
何年か前、その店にお酒が強くない取引先の方と行った時の話です。
コースはウン万円からで、ワインも一杯3,000円から。遅刻しかけて走って店内に入った私は喉がカラカラ。注がれたファーストワインを3分の1ほど一気に飲みました。
実は一流の飲食店というのは、ワインでもウイスキーでも、グラスの残り3分の1になると継ぎ足すか、そうでなければ「おかわりはいかがですか」
とスタッフがたずねるのが鉄則です。グラスが空になってからでは失礼に当たるからです。
悪い予感がしました。ワイングラスから目を上げると向こうにいたメートル・ドテル(ウェイター)と目が合いました。彼はニッコリ笑ってゆっくりと近づいて来ました。
「(この店だとワイン1杯5000円。ということはコースの基本料金にサービス料とワイン代を入れたら、2人で数万円は軽く超える。しかもこんなガンガン飲んだら会計は青天井。しかも支払いは接待する側の自分・・・どうしよう)」
メートルはさらに近づいて来ます。私は焦って、
「(もう一杯いかがですか?って言われてら、どうやって断ろう。でも勧められて断るのはカッコ悪い、ケチってるみたいで・・・)」なんて考えてしまいます。
「(フードアナリスト協会の理事長のくせにセコイとか思われないよう、断り方は重要だ。それにしても、いくら大切な取引先のお客様のリクエストとはいえ見栄張って夜に来なきゃ良かった。ランチだったら2人でも4分の1以下で収まったかもしれないのに)」などと、さらにアタマはパニック。
メートル・ドテルがついにやって来ました。そして「ゆっくり飲みたいので、(継ぎ足しは)もう少し待ってもらえますか?」と私が意を決して言おうとした瞬間、彼は何も言わずに通り過ぎて行ったのです。
◆一流の接客とは何か~メートル・ドテルが私をスルーした理由
これが「サイレントな接客」です。彼は私が考えていることを想像し、そして察し、通り過ぎて行ってくれた。私が苦しい言い訳をして恥をかかないように、あえて声をかけなかった。大人の接客です。ワインが減っていることに気が付かなったわけではありません。
「声は大きく元気だが基本的な所作がなっていない」「言葉だけは気遣いに満ちているけど、自分のサービスに酔ってしまっている」というのは
のホスピタリティではありません。レストランがホスピタリティを自慢したり売りにすれば、その時点でそれはホスピタリティではないのです。
サービスの担当が全面に出て来るようなホテルやレストランはアウトです。
主役はあくまでも食べ手である客側。ですからサイレントな接客が一番の接客です。利用者が自然にリラックスできる空間を演出するのが真に一流のメートル・ドテルです。もちろん、サービスを受ける客側も謙虚でなくてはいけませんが。
高級レストランの中には、ふんぞり返って偉そうに接客するメートル・ドテルもいます。特にワインを説明する際、説明がくどかったり上から目線のメートル・ドテルは多い。なけなしの金で接待をして、さらに恥をかいて、なんてことになったら最悪ですよね。
この出来事があったフレンチは、接客も世界一の日本最高級のフレンチです。フードアナリスト講座の中で私もよく触れています。
(日本フードアナリスト協会 理事長:横井 裕之)