「女王様」
ふと仕事中に記憶の底に沈めたはずの黒歴史を思い出した。
この記憶を自身の内に抱え込んだまま過ごすことは中々にキツいので外部に放出することで楽になれればと思う。
中学に入学すると共に部活が始まった。
私が所属していたのはゆるゆるな部活で、先生に無断で来ない人もいれば部活の時間に鬼ごっこをしている人もいるような部活だった。
そんな部活でも1年経つと後輩が出来た。
親や先生からは子供扱いされることが多い環境下で初めて公的に自身よりも身分が下の者が出来た!!と、当時の私は喜んでいたように思う。
喜んでいたのもつかの間、今まで後輩がいなかった私は「○○先輩」と呼ばれることに慣れておらず、そう呼ばれる度に鳥肌が立っていた。
小っ恥ずかしい気持ちや嬉しい気持ちが混ざり私をゾクッとさせるのだ。
ある日、我慢できずなかった私は後輩達に「○○先輩って呼ばれるのが恥ずかしいのでそう呼ぶのは辞めて貰いたい。 呼び捨てでも○○さんでも良いのでなるべく変えて貰えると有難いな。」と告げた。
後輩達を困惑させるような自分勝手なお願いをしてしまったなぁ…という自己嫌悪もこの記憶を封じた理由の一つである。
そんな中、仲の良かった後輩が「○○さんはなんて呼んで貰いたいんですか?お望み通りの呼び方をします!!」と聞いてきた。
○○先輩と呼ばれることを避けられればなんでも良かったが、私は少しの間を置いて
「……女王様。」と答えた。
いや、なんで? ホントになんでこんな返答したの?????
こうして、私のクソみたいな願いは従順で素直な可愛い後輩ちゃんに受け入れられてしまい「女王様」と呼ばれる日々が始まってしまったのだ。
最初はやはり恥ずかしかったが、仲間内のあだ名みたいな感じでそう呼ばれることを楽しんでいる私がいた。そもそもそう呼ぶように頼んだのは他でもない私だしやっぱ女王様って呼ぶのも辞めてほしい!って頼むのもまた我儘過ぎるし…という思いもあり、晴れて私の呼び名は「女王様」になった。
…それだけならまだ良かった。いや、良くないけどね。まだ被害は最小で済んでいたと思う。
あろうことかその呼び名は後輩中に広まり、私の呼称は「女王様」で統一されてしまったのだ。
その後、女王様呼びは次第に同級生にも感染し、卒業する頃には学校での私の呼び名は女王様になっていた。むしろ本名で呼んでくれたのは先生や部活の顧問だけだった気がする。
卒アルの寄せ書きですら女王様呼びは固定されていたし、LINEでも中学の同級生にはそう呼ばれている。
私が産んだ女王様の呪いは今も尚私を苦しめている。
近頃、中学の頃の同級生で集まろ〜!!と画策している方々がいるらしいが、私は成人しても尚面と向かって女王様と呼ばれるのが恥ずかしいからという女王様らしからぬ理由で欠席しようと思います。
学生の皆様はその場のノリで発言すると自身を一生辱めることになることをゆめゆめ忘れぬようお過ごしくださいませ。女王様との約束ですよ。
それでは今回はこの辺で。