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ないものねだり

昔は「変わっているね。」と言われることが多かった。
祖父によると、幼い頃の私は「変わっているね。」と言われる度に嬉しそうに微笑んでいたそうだ。
変わっていると言われることが特別視されていることのように感じていたので嬉しかったのだと思う。 

意味を理解したのは大人になってからだった。それらは私の常識から逸脱した行動や言動を指しており、軽蔑をオブラートに包んだ表現であることを知った。
特別視ではなく、怪訝な目で見られていたことを知った。
面白い存在ではなく、疎まれる存在であったことを知った。
母親がよく泣いていた意味を知った。

「頼むから、普通にしていてくれ。」
幼い頃の記憶を探る度に、母の言葉が蘇る。



大人になった私は。周囲から度々「つまらない人間だな。」と言われるようになった。
そう言われる度に、微妙な笑みを浮かべてやり過ごしている。
そう言われる度に、どこか安心している自分がいる。
そう言われる度に、一瞬悲しくなる。

帰省する度に母親は、私の近況を聞いては「あんた、つまんない生活送ってるわね。」と言う。続けて、「もっと人と違うことにチャレンジしてみれば?夜間学校通うとか調理師免許を取得するとかさ。」とも言う。
そんなことを言いながらも、社会人として普通に生活している私に向かって微笑んでくれる。


その度に、形容しがたい感情が胸いっぱいに溢れ出る。
人はこれを「愛情」と呼ぶのか。「憎悪」と呼ぶのか。

それでは、この辺で。

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