ラブレター Chapter2『I witness you』
私は孤独を好む人間だ、と他者から評される。
私としては群れで行動することが苦手で、それを避けた結果なのだけれど。
なにも最初からそうだったわけではない。
小中学生の頃は活発な部類の人間だったし、その頃は友人もクラスに複数人存在していた。
変わったのは高校生になってから。思春期を迎えて新たな環境に移ったことで周囲の人間の関わり方が一変したのだ。異性を意識した関係が増え、ヒエラルキーが色濃く反映されるようになった。
損得勘定で展開される友情に嫌気がさした私は能動的に友人を作らなくなった。
そこから、人と心を交わす機会は減っていった。
家族がいても、それは全てを曝け出せる関係ではない。
幼馴染がいても、それは寄り添ってくれる存在ではない。
近しい間柄だからこそ心配させたくなくて言えないことがある。
近しい間柄だからこそ面倒に思われたくなくて言えないことがある。
それって、あなたにとっての私みたい? なんて。
兎角、そんな誰にも己を曝け出せない時間は私を陰鬱な人間にしたんだ。
次第に心が鈍くなった。
世間で高評価を得ている作品も、新たな体験も私に刺激を与えなくなった。
次第に心が麻痺していった。
独りでいることに寂しさを感じなくなった。世間や他者への関心が減った。
善いことにも悪いことにもあまり心が動かなくなった。
きっとそれは過去の私が望んだ通りになったのだろうけれど、同時に未来の私が手に入れるはずだった可能性を殺してしまった。
何をしても虚しかった。息が詰まっているような毎日だった。
そんな日々を良しとしている自分にも、つまらない環境にも辟易としていた。
なんだか厨二病みたいなことを述べているけれど、そんな風に感じてしまうような毎日を送っていたんだ。
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2022年の8月、あなたに出会った。
初めて会うタイプの人間だった。
ドライな言動の中に相手に対する思いやりがある。人前で強い人間のように振る舞うくせに寂しがり。自身の不調を隠したがる割にすぐにボロを出す。他者の気持ちを汲み取れるのに自身に向けられる感情に鈍い。誠実なのにひねくれている。
とても不安定な人だ、と思った。
それでもあなたは『確固たる自分』を持っていた。
理想の自分で在ろうと奮闘するあなたの姿がとても魅力的に映った。
鈍麻した心でも、あなたは魅力的だった。
「Joker」や「Cruella」が好きな私はどうやら『弱くとも逆境に抗う人間』が好みらしい。
故に。特に心惹かれたのは弱いくせに強く在ろうとするあなた。
いや、抗っている時点であなたは強いのだけれど。
しかし、その頑張りが不穏でもあった。
世間一般の人間が子供であるはずの時期にあなたは大人になることを強制された。
独り立ちすることを強いられた。
そうした経験があなたに虚勢を張らせるようになり、己に限界を強いるようになった。
生きるためにそうせざるを得なかったのだろうと邪推する。
あなたは年齢に対して言動と行動が大人びている。反面、言動・行動から読み取れる深層にある欲求は幼少期の子供と変わらない。甘えたい、我儘を言いたい、気持ちを受け止めて欲しいetc…
私はそれらの捌け口になりたかった。あなたが自分を赦せるようになってほしかった。
私が踏み入る領域でないことは重々理解しているけれど、そう思わずにいられなかった。
あなたはいつもどこか寂しそうだったから。
あなたは私の醜態を。浅い思慮を。空虚な過去を。私の尊厳を踏み躙ることなく受け入れてくれた。「くだらない」の一言で一蹴されてしまうような私を受け入れてくれた。
私はあなたに救われた。
だからあなたの力になりたかった。あなたを支えたかった。あなたの味方でありたかった。
長い間自身の心情を吐露してこなかったであろうあなたは、最初は私に対しても全然自身のことを話さなかったね。
私はあなたの気持ちが知りたかった。いつも陽気を演じていたあなたがどういう経験を経てどんなことを感じる人なのか知りたかった。だからnoteを薦めてみたんだ。
他者に向かって言えないことでも虚空に向かってなら吐き出せると思ったから。
あなたはいつも己の弱さが露呈することで他者に失望されることを懸念していたけれど、後々聞いてみるとどうやら周囲の人間にはあなたが弱々なことはバレバレだったみたい。 笑える。
あなたの本質がどれだけ弱かろうと、暗い過去を抱えていようと、そうしたものを抱えたまま気丈に振る舞っていたということでしょう?
それって、あなたの本質が弱ければ弱いほどにあなたは『努力家で優しい人』だという表明にしかならないのにね。
自分の気持ちを言葉にして伝えるには相手がうけとりやすい言葉に変換して伝えなければならない。その言葉を考えたり選ぶことは膨大なエネルギーや勇気を要する行為だけど、そのエネルギーを割くことこそが相手への愛の表明になるのではないかと私は考える。
己を晒すことを不得意としているあなたにとって、このエネルギーの消耗はとても激しいのだと思う。
私は散々己の弱さを晒しているわけだけど、あなたは私のことを嫌いになった?それとも失望した?大方あなたは「そんなことはないよ。」と答えるのだろうけれど。
同様に私のあなたに対する解も同じだよ。
あなたは己のような人間はどこにでも居るという。
あなたのようにユーモアがあって、思いやりがあって、優しさがあって、毒があって、広い分野の知識を持ち合わせていて、少し間の抜けた部分があって、自分に厳しくて、実は寂しがりで、他者に弱みを晒すことを苦手とする人物。
確かにそうした要素を持ち合わせた人間はどこかに存在するのだろう。
それでも、私が好きになったのは類似した人間ではなくあなただけだった。
唯一無二の「あなた」だった。
私はあなたが忌み嫌っているあなたの弱ささえも魅力的に感じる。
私は責任を取れる立場にいないので軽率なことは言えないけど。
あなたね、もっと感情を露わにして良いんだよ。人前で泣いたって良い。わがままを言ったって良い。 十二分にあなたは強いよ。
あなたがみっともないというだけで離れていくのならその人とは元々希薄な関係なのだろう。
まぁ、あなたは私から離れていったんですけど。わはは。
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現在の私はあなたと過ごした日々の残骸が活動源となっている。
あなたの言動を一日の中で何度も反芻している。
あなたのことを考えると喪失感と寂しさが胸に溢れる。
光を失った今、私の心は再び鈍くなっていくだろう。
そうなる前にあなたに連絡してみようかな。
私はあなたを愛している。あなたが救われることを望む。
あなたは過去を愛している。己が救われることを望まない。
私が連絡することでその決意を鈍らせてしまわないか怖い。
あるいはその決断を揺るがすことであなたに嫌われるのを恐れているのかも。
私は自分に甘々なので結局自分のことしか考えていないってわけ。
今度はあなたに朝が来るまで付き合うからさ、また夜明けまでお話ししようね。
それでは、この辺で。
続