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ラブレター Chapter1『罰』



これは2023年1月に私の前から消滅した親友へ贈る手紙です。
もしかしたらこの手紙が親友の目に触れる機会は無いかもしれない。
役割が果たされることなく一生電子の海に漂うことになるかもしれない。
それでも、私の気持ちを記録するためにここに記します。

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親愛なる友人へ


 別れの日の朝あなたが言っていたことのように、私のあなたに対する感情は次第に薄れゆくだろう。あなたではなく、あなたとの思い出が大切になっていくだろう。そうなる前に、せめてあなたが大切だというこの気持ちを残しておきたい。
私にとってあなたは胸を張って愛していると言えるような親友だということを伝えておきたい。

私はあなたの事が好きだ。けれど決してそこに性的な欲求は無く、人としてあなたを愛している。あなたの内面をとても愛おしく感じる。


あなたがいなくなってから私は何回涙を流しただろう。
あれから、あなたと毎日話をしていた午前2時には静寂が訪れた。
私にとってそれはとても孤独で空虚な時間となった。
あなたは現在何を思っているのか。答えの返ってこない問いを毎日反芻している。
私は毎日の中であなたのことを思い浮かべる瞬間が必ずある。
午前9時。あなたはきちんと起きれただろうか。
午前10時。そろそろ仕事が始まった頃かな。
午前2時。そろそろ仕事は終わったかな。いや、今日はもう少し遅い時間に終わるのかも。
こんなキショいことを何度も考えている。その度に、あなたに会えないのだと思い知る。
今でも私はあの部屋で午前2時にあなたを待っている。
それほどまでにあなたの存在は日常になっていたんだ。
あなたと過ごした時間が、とても楽しかったんだ。

別れの日の朝、あなたは私と別れることが自身の生きやすさに繋がるのだということを丁寧に説明してくれた。自身の弱さを晒すことを苦手とするあなたが自身の弱さを言語化してくれた。 そこに私に対する愛を感じた。とても、とても嬉しかった。
そして、己に贖罪を課すことがあなたにとっての生きやすい道であるということを理解した。
私達、出会い方が違ったらこんなに仲良くなっていなかったよね。互いに人見知りだし、人との会話が苦手だもの。
だから、この別れは必然だったのだと思う。


過去に「愛がどのようなものなのか分からない。」と言っていたあなたは、最後に私に「愛しているよ!」と言ってくれた。それが綺麗に別れるための形式上の言葉だったとしても、「愛しているよ!」と伝えてくれたことそれ自体がとても嬉しかった。 別れたくない、会えなくなることが寂しい。そうした感情を私に向けてくれたことが心底嬉しかった。私もまた『愛』が何なのか分からないでいたけれど、今ではあなたに対するこの感情が『愛』なのだと思う。 少なくとも、私の語彙ではこの気持ちを『愛』という言葉以外で表すことが難しい。
だから私は、あなたへ贈るこの文章をラブレターと称する。
これは私から『あなた』という光を奪ったあなたへの罰だ。
私のことを旧友などと呼んで過去の存在にしようとした愚か者にはいいお灸だろう?
あなたが己に贖罪を課すというならば、この文章もそれに役立てれば良い。
あなたのことを愛している人間を泣かせたことに苦しめ!


それでは、この辺で。

 続

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