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7.3 レンナー —FUTURAの誕生—
伊藤「FUTURA誕生の経緯がそろそろ知りたいです」
山田「事の発端は発表の3年前、1924年だ。『校了(Imprimatur)』という雑誌の創立者が、ヤコブ・ヘグナーという出版・印刷会社を営む人物と一緒にレンナーのスタジオにやって来た」
渡邊「『校了』って、これまたすごい名前ですね!」
大野「『Imprimatur』とあるので、ローマカトリック教会の出す『出版許可』といったものが本来意味するところですね。和訳の過程でニュアンスが付けられているようです」
伊藤「なるほど。さすが大野さん! ヘグナーはどうしてスタジオにやって来たんですか」
山田「ヘグナーは、時代の精神に合った近代的な活字書体の設計ができるデザイナーを探していたらしい。それも、有名なカリグラファやタイポグラファでは『多くの偏見で仕事に取り組むかもしれない』と考えて、歴史や伝統に縛られない『画家』みたいな人を探してさまよっていたんだって」
大野「ヘッドハンティングのようなイメージですね。レンナーのスタジオを訪れた段階で、競争相手はいたんですかねえ?」
山田「いた。バウハウスの教師、ライオネル・ファイニンガーと画家、カール・シュミットの二人にすでに依頼していたようだよ。ヘグナーは最初レンナーが芸術家であるとは知らなかったようなんだけど、スタジオに来てそうとわかるとこのプロジェクトに加わってほしいと懇願したんだ」
渡邊「その場で! いかにレンナーが優れた画家だったかが伝わってくるエピソードですね……!」
伊藤「ふむふむ。それでは、ヘグナーのこのコンペ(プロジェクト)で勝ち抜いた書体がFUTURAということですか?」
大野「……あれ? 私の記憶だと、確かFUTURAはバウワー活字鋳造所から出ているはずなんですよね」
山田「そうそう、レンナーは、その翌日から原図を描きはじめて、ヘグナーにそのうちのいくつかを送ったんだけど、まさかの “なしのつぶて”。結局レンナーは原図を返してもらうようお願いをした」
渡邊「切なすぎて涙が出そうです。コンペって、いまも昔もそういうところありますよね……」
伊藤「厳しい世界ですね……。『FUTURAのもと』がその後どうなったのか気になりますね」
山田「レンナーは、この取り返した原図を、元教え子で、バウワー活字鋳造所のアートディレクター兼タイプデザイナーであるハインリッヒ・ヨスト(1889—1948)に送ったんだ。バウワーのオーナー、ゲオルク・ハルトマンは見るなりそれを気に入り、バウワーから発表することが決定した」
大野「よかった……! めでたしめでたし、ですね」
渡邊「ひとつの書体にも、いろんなドラマがあるんですね……。本当におもしろいです! 次は私から、FUTURAという書体自体について、ちょっと語ってもいいですか?」
山田「お、珍しいな! いいよ。やってみな」
渡邊「レンナーの考えたFUTURAのデザインは、単に幾何学的に構成されたサンセリフ体ではなくて、その影には驚くほどに練られた視覚的配慮があるんです。ステムとカーブの画線や、鋭角に交わる交点では、カーブなどが薄くされ、スミっぽくならないように工夫されたり、『p』などのボール部分は中心点をずらしてステムと接する部分が視覚的に同じ太さで見えるように調整されたりしているんです!」
大野「組んだときに、誌面(紙面)が均質にグレーっぽく見えるところがきれいですよね。この後渡邊さんが言おうとしていたら申し訳ないのですが、レンナーはFUTURAがドイツ語で組まれることを想定していたので、ドイツ語特有の現象に配慮し、独自の工夫を施しているようですよ」
渡邊「本日2回目ですが、さすが大野さん……。詳しくお願いします!!」
大野「(笑) では! ドイツ語の単語って、『CHAOS(カオス)』や『CHARAKTER(キャラクター)』、『BACKENGRÜBCHEN(えくぼ)』『AKTENDECKEL(書類ばさみ)』など、『C』の次に組まれる文字が左ステムの『H』または『K』になることが多いのですが、そのままでは文字間に大きな穴ができてしまうんですね。そのためFUTURAの『C/c』の終筆は垂直に切られ、次の文字と接してもレター・スペースの破綻を軽減できるようになっているようですよ」
山田「なるほどねえ。特定の言語に特化した特性ってのもおもしろいね! 和文だと縦組みにしたときと横組みにしたときの差異(違和感)を減らす工夫がされていたり、漢字とかなのバランスだったり、そんなところにもつながりそうだね」
伊藤「FUTURAはやはり盛り上がりますね。まだ話すことあります……?」
渡邊「あります!!」
今回は3回でまとめたかったというテキスト係・伊藤の不安は的中し、4回目が確定した。次回、乞うご期待。
(謝辞:座談会企画の更新は、不定期でやらせてもらっています。)
参考
『普及版 欧文書体百花事典』(組版工学研究会)
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