
フォントかるたドイツ紀行/Klingspor Museumとブラックレター編
グーテンターク!(ドイツかぶれ感)フォントかるた2号です。
2022年の末に念願の『フォントかるた 欧文版』を完成させたわたしたちは、スーツケースいっぱいにかるたを詰め込んで、2023年10月1日〜11日ドイツに行ってきました。その様子をいくつかの項目に分けてnoteで書いていきたいと思います。
Klingspor Museum(クリングシュポールミュージアム)
今回は、オッフェンバッハにあるKlingspor Museum(クリングシュポールミュージアム)に行ったときのレポートです。
わたしたちが滞在していたEssenからKlingspor Museumまでは、高速鉄道ICEを利用すると最短で2時間半くらい。東京から新幹線で神戸あたりまで行く感覚でしょうか。今回は4号の希望によりライン川沿に走るICEを選んだので、川辺や古城の風景を楽しみつつ、3時間半かけてフランクフルト中央駅へ向かいました。

フランクフルト中央駅は駅舎がものすごくかっこいい。ICEを降りて振り返ったらこのブラックレターが目に入ったので、すっかり駅名が表示されているものと思い込んでテンション高く写真を撮っていましたが、帰ってからよく見たらこれは新聞の広告?でした。新聞名は伝統や信頼感が感じられるからか、よくブラックレターが使われている様子。日本の新聞の題字が隷書体で描かれているのと似た理由なのかもしれません。

ちなみにフランクフルト中央駅付近はあまり治安がよろしくない感じで、お昼ご飯を求めて外に出た我々もヤバイ空気を感じてすぐに駅に引き返し、そのままUバーン(地下鉄)に乗ってMarktplatz駅へ。駅から徒歩5分程度のところにKlingspor Museumがありました。全く知らない土地でも、Google マップがあれば交通機関も調べられるし、迷わずたどり着けるのはありがたいですね。


目指すはミュージアムの2階にあるライブラリの閲覧室です。
実はMonotypeのタイプディレクターでドイツ在住の小林章さんが、我々のためにこの日のライブラリの予約をとってくださっていました。ライブラリの情報はインターネットでも調べられますが、どのような資料を見たいのかをあらかじめ予約(電話で!)しておかなければなりません。これは私たちにはかなりハードルが高い…。本当に助かりました。
「何を見たいですか?」と聞かれてお願いしたのは、Rudolf Koch(ルドルフ・コッホ/1876–1934)さんの作品、でした。
Rudolf Koch(ルドルフ・コッホ)
Klingspor(クリングシュポール)は、1890年代に創設された活字鋳造所でKabelやKoch Antiquaなど優れた書体を生み出したことで知られています。現在では企画展などを行なっているミュージアムと小さなショップ、そして数多くの資料を持つライブラリとなっています。
Klingsporで最も有名な書体デザイナーはおそらくこのRudolf Kochさんであり、『フォントかるた 欧文版』にも収録したWilhelm Klingspor Gotisch(ウィルヘルム・クリングシュポール・ゴティッシュ)も、Rudolf KochさんがKlingsporのために制作した書体です。
ということで、まずはRudolf Kochさんのカリグラフィ作品、原字、切り絵、版画などを見せていただきました。
写真は、SNSやブログ等での使用の許可をいただいています。




Wilhelm Klingspor Gotischのの資料を見せてもらう4号





コッホさんの作品の最後に見せていただいたのが、ミュージアムの方が「koch cross(コッホクロス)」と呼んでいたカリグラフィの作品。言葉がないですね。


Rudo Spemann(ルドー・シュペーマン)
小林さんには、もうひとかたRudo Spemann(ルドー・シュペーマン/1905-1947)さんの作品を推薦していただいていました。






ほんとうにじっくりと、たくさんの書を見せていただきました。
正直、こんなにも文字が美しいと思ったことはありませんでした。わたし自身はグラフィックデザイナーとして、世の中に豊富に用意されたフォントを使って仕事をしています。時には自分で描くことも、書家の方に書いていただくこともあります。文字って美しい。言葉の意味も含めて美しい。と思っていましたが、Rudo Spemannさんの作品はひとつも読めないし、意味はわからない。けれども文字によって、紙の上に強い祈りや心が描き出されている。そしてその蓄積に圧倒されました。
見終わってから、ご案内いただいたKlingspor MuseumのStephanie Ehret-Pohl(シュテファニー・エーレト・ポール)さんにいくつか質問もさせていただき、本当に素晴らしいコレクションに圧倒されたこと。素晴らしい体験をさせていただいたお礼をお伝えし(拙い英語でどこまで伝わったかわかりませんが)、日の傾きかけたライブラリーを後にしました。
本当にありがとうございました。
Klingspor Museumの常設展
他の用もあって4号とは途中から別行動になり、2号はKlingspor Museumの常設展やミュージアムショップを拝見。常設展示では、カール・クリングシュポールとヴィルヘルム・クリングシュポールの兄弟の活字鋳造所を中心とした博物館の歴史と、執筆、印刷、本、イラスト、ポスターなどが展示されていました。






ブラックレター考
正直に言うと、これまでわたしはブラックレターと呼ばれる書体のグループについて、よく知りませんでした。「(和文のそれとは違って)欧文の世界ではこれをゴシック(体)と呼ぶ」「平ペンで描いた線」「最も古い金属活字書体」「聖書などの古い本で用いられていた」「横幅が狭くて沢山の文字が1行に収まる」「荘厳」「ビジュアル系のミュージシャンが好む」「ゴスロリファッション系にもよく見られる」「読みにくい(っていうか読めない)」などなど…。この程度の認識です。
小林章さんの著書『欧文書体 その背景と使い方』には、
13世紀から14世紀のゴシック様式として、ヨーロッパのアルプス山脈より北側では文字の幅が狭くなり黒みを増し、角ばっていきます。これらの書体はいずれもヒラペンの筆記体で、その黒みのためにblackletterと呼ばれたりします。ドイツでは20世紀中頃まで本文として標準的に使われていたため、日本では「ドイツ文字」とも呼ばれます。
とあります。
Wikiには、ブラックレターの中でも最も有名な「フラクトゥール」に詳しい解説が書いてありました。
『フォントかるた 欧文版』を制作する際には、ブラックレターを最低でも1つは入れたい。とは思ったものの、デジタルフォントのブラックレター書体は実際に使ったことがなく、書体名も数えるほどしか知りません。使われている例というのもあまり見たことがない…そこで我々の強力なブレーンである、監修のAkira1975さんに相談し、Wilhelm Klingspor Gotischを推薦していただいたのです。

Wilhelm Klingspor Gotischのデジタルフォント版は、いくつか作られていますが、フォントかるたではAlter LitteraのALOT WKlingspor Schriftを使わせていただいています。
今回、ドイツに行って感じたのは、ブラックレターはカリグラフィの文字であるということ(当たり前すぎてごめんなさい)。黒々とした縦のラインと、繊細なカーブの細い線とが切り絵のように強い強いコントラストを生み出し、用紙と文字とを切り分けていること。そのコントラストによって、薄暗い室内でも、力強く光り輝いて見える美しい文字であること。
もっとたくさんのブラックレターを見てみたくなりました。ドイツ語も少しはわかるようになりたいです(道は遠い…けど…
ちなみに、フォントかるたのWilhelm Klingspor Gotischの書体名の表記や音読は、初見の人にとって最大の難関です。しかし一度覚えてしまうと簡単に取れるサービス札でもあります。もしブラックレターが他にもたくさん入っていたらどうなるでしょうね?
またドイツの文字には、合字や異体字?があるようで…

フォントかるたでも当初は、Wilhelm Klingspor Gotischの書体名を上のように表記していましたが、監修のAkira1975さんにご指摘を受けて、下のように修正しました。アルファベットの並びは同じなのですが、単語の中の「s」は縦に長い形の「s」(チンアナゴみたいなやつ)に、「ch」は合字になっています。
より読みにくくなっているようにも思えますが(笑)、並んだときの形はすっきり美しく見えますね。
今回はここまで。また次のレポートをお楽しみに。
そして知り合いでもないのに勝手に申し訳ないんですが、渡独前に読んで参考にさせていただいたnoteがあったので最後にペタ。美しい写真のnoteをありがとうございます。
(2号)
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