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水面湛えるその森に
『私』がそこにやってきたのは、ただの偶然だった。
そこは公園であり、水源地である。たまたま休みだった私は、言われるがままに車を走らせた。途中、コンビニで食べ物を購入し、しばし行くと分かりづらい横道から公園に入る。
木々が生い茂る入り口付近には小川もあり、水の音が心地よく耳に届く。バックパックを背に、ペットボトルを手にして、古い造りのダムへと向かう。公園というだけあって、噴水の前にベンチがいくつか点在していた。
ダムの上には登ることができる。
足場としては整備されている、階段状の道を歩き、止まっては写真を撮った。背の高い木がいくつも上に伸び、足元には草花がひっそりと咲いている。この花はなんというのだろう。この植物はなんというのだろう。私はわからぬままに、歩を進める。
やがて、空が開けた。
――時が止まったようだった。
静かすぎる。人がいないのもあるだろうが、鳥がダムの縁に止まり、トンボが飛び、空は広く雲が羽衣のように一面に広がっていた。
「まるで、別世界みたい」
『君』が言う。
私が近寄っても鳥は動かず、留まり続けた。試しに指を立ててじっとしていると、トンボが当たり前のように止まった。
「なんでー? 私がやっても止まらないし、鳥も逃げるのに。貴方にだけ?」
不服そうにも面白がっているようにも聞こえる声音で文句を言う。
どのくらい、ここに居ただろう。
君が言った。
「歓迎されてるんだね」と。
また来たいと思った、小春日和の日。
私がここに来たのは、必然だったのかも……しれないな。
また、雪が溶けたら。
あの場所に行こう。