「なぜ今、コーポレートテックを導入するのか?」 コーポレートテック会議 2021winter【イベントレポート前編】
2020年、多くの企業が新しい働き方にチャレンジする一方、「ハンコ」「郵送物」「電話」といった障害に阻まれその波から取り残されたのが、総務や経理を担うコーポレート部門でした。
「企業の土台を支えるコーポレート部門の改革なくして明るい未来はない」
そんな思いから2021年2月、SaaSベンダー企業を迎えたオンラインイベント「コーポレートテック会議2021winter」が4日間にわたって開催されました。
今回の前編では、コーポレート部門における「テック導入」や「人材」に主眼を置いた、以下2回のトークセッションの様子をお伝えします!
「なぜ今、日本中の会社がコーポレートテックを導入するのか」
「これからのコーポレート人材に求められる『SaaS選定力』とは」
なぜ企業は今、コーポレートテックを導入するのか
コロナ禍による働き方の変化でコーポレート部門の課題が浮き彫りになるなか、課題解決のために多くの企業がコーポレートテックの導入に注目しています。
月額10,000円で利用できる電話代行サービス「fondesk」は、コロナ以降の1年間で契約者数が300社から2,000社へ急増しました。
「コーポレート部門の電話業務に関する課題の顕在化を実感した」と話す、株式会社うるる 執行役員 fondesk事業部管掌の脇村瞬太氏(写真左上)
脇村氏
「ここ数年で企業はSlackやChatworkをや中心にワークスペースを整え、コミュニケーションの活性化や情報の見える化を推進するようになりました。そんななか、電話のやりとりだけは以前と変わらず『誰からの電話で、どんな用件なのか』その内容が電話をとった人にしか分からない状況で、そこに気持ち悪さが残っていたんです。コロナ後はリモートワーク移行してオフィスの電話に出られない企業が増え、一気に需要の裾野が広がっていきました。」物理的に出社できないという緊急事態は、電話やハンコ、郵送物などを扱うコーポレート部門にとって、業務を妨げる大きな問題となりました。
コロナ禍においてもうひとつトレンドになったのが「三密回避」という視点。密を避けるためにオフィス環境そのものを見直す動きもありますが、多くのスタッフがワンフロアで働くカスタマーサポート業務では、ツール導入による課題解決のニーズが高まっているようです。
「カスタマーサポートの課題を感じている」と話すのは、検索性能に優れたFAQシステム「Helpfeel」を提供するNota Inc.の代表取締役CEO 洛西一周氏(写真右下)
洛西氏
「2020年、とあるコールセンターで新型コロナウイルスのクラスターが発生したとニュース報道で話題になりました。コールセンターは密を避けるためにオペレーターの出勤人数を減らさざるを得なくなり、その結果として電話対応が遅れ、顧客満足度が低下するという悪循環に陥ってしまったんです。もともとコールセンターは慢性的な人材不足が叫ばれてきた仕事。コロナがそこに追い討ちをかけたのです。こうした課題をテックタッチで解決するとともに、UX・CXを向上させていこうというマーケティング視点のニーズも増えています」
どう選び、どう使うか?SaaS選定の考え方
コーポレートテックを導入する際、担当者はどのように推進していけば良いのでしょうか。
「そこにはコーポレート部門特有の課題がある」と語るのは、経営管理クラウドサービスLoglassを開発・提供する株式会社ログラスの代表取締役CEO 布川友也氏(写真左下)
布川氏
「バックオフィス業務は、穴なく隙なく、継続的にやり続けることが求められる仕事。だからこそ、部門担当者自らが業務改革を推進する動きをつくらないと、待っているだけではその機会は訪れません。日々の業務に終始してしまうのではなく、社会の動きにアンテナを張って改革のきっかけを捉える感覚や、自ら声を上げて改革を進めるマインドが大事だと思います」
「改革のきっかけ」という意味で、コロナ禍の今がまさにその時なのかもしれません。
セールス側からの視点で「まずは課題の棚卸しが必要」と話すのは、国内初の人事向けプラットフォームサービス「jinjer」を提供する株式会社ネオキャリアのSaaS事業本部 本部長 本田 泰佑氏(写真右下)
本田氏
「SaaSの選定で迷っているお客様は、課題感がぼんやりしていることが多いと思います。業務を分析してペインを具体化し、さらに優先順位を付けることで、それを軸にサービスを比較し、自社の課題解決に最もマッチするものを選ぶことができるでしょう」
自ら機会を作り、課題の優先順位を明確にしてSaaSを選んだあと、どう使いこなしていけばよいかも迷うところではないでしょうか。
洛西氏
「私もこれまでいろいろなSaaSを使ってきましたが、各サービスには、提供するベンダーがもつノウハウが全て詰まっています。そのノウハウを一度受け入れてみることが大事なんじゃないかなと。使い方だけでなく、背後にある哲学的なところまで理解してインプットすることで、それを自社のノウハウとして吸収できます」
コーポレートテック導入までの道のり。経営層の理解を得るためには?
コーポレート部門がテック導入を推進するうえで越えなければいけない大きな壁……それが「経営者の決裁」です。
セールスやマーケティング部門とは異なり、テック導入による費用対効果を数値で示しにくいのがコーポレート部門の辛いところ。
「現場の担当者が抱える課題感と経営層の課題感がフィットしていることが大切」と話すのは、オンラインマニュアル作成ツール「Teachme Biz」を提供する株式会社スタディスト プロダクトマーケティングマネジャー 木本俊光氏(写真左下)
木本氏
「当社のTeachme Bizはマニュアル作成・共有ツールとして、人事や経営戦略、情シスなど、さまざまな部門からのニーズがあるわけですが、うまく活用することで、部門を跨いで横串で何かを浸透させることが可能です。コーポレート部門の担当者が、『現場レベルでの課題感』と『経営者が抱えている会社全体の課題感』を結びつけて捉えていれば、ボトムアップでも経営層に刺さる提案ができ、テック導入は大きく前進するのではないでしょうか」
木本氏同様、「具体的に数値で費用対効果を示すことよりも、経営視点に立つことが大切」と語るのは、経費精算システム「RECEIPT POST」を提供する株式会社BEARTAIL 代表取締役社長 黒﨑 賢一氏(写真右上)
黒崎氏
「結局経営層として興味があるのは『会社成長に一番寄与するサービスは何か?』ということではないでしょうか。会社が成長するプロセスは『戦略』『人材』『業務プロセス』の3つだと思っています。
戦略は経営層がつくるもの。人材が戦略に沿って業務プロセスを実行することで、会社が成長していきます。このなかで企業がもっとも苦しむのが人材の育成です。育成がうまくいかないと人材が成長せず、戦略を実行できません。SaaSを導入することは業務プロセスのを標準化や効率化に直結し、その結果として人材の育成が高速化され、戦略の実行力が上がります。こうしたストーリーをしっかりと説明できれば、具体的にROIで示さなくても経営層の理解を得られるのではないかと思います」
一方で脇村氏は、コーポレート部門ならではの費用対効果の示し方とともに、また違った視点から経営層に訴える策を語りました。
脇村氏
「SaaSは『人の代わりに働いてくれるもの』。誰かが働くことでかかっていたコストをカットし、生産性向上に関わる別の業務にそのリソースを向けることができるというロジックで、ビフォーアフターでROIを説明できると思います。また、もともと人がやっている業務をテック化するのだから、導入してみて成果が出せなかったとしても、元の業務フローに戻すだけ。リスクはないですよね?トライアル期間なら費用もかかりませんし、『未来の生産性向上のためのコストとして、まずはチャレンジしていきましょう』という方向性で前向きに話をしてみてはいかがでしょうか?」
これからのコーポレート人材に求められるスキルやマインドとは?
コーポレートテックの導入や選定に関する話題から発展し、第3回目のセッションの後半では「人材」がテーマに。
コーポレート部門の担当者には、簿記をはじめとして一定の資格や要件が求められますが、仕事を始めてしまうと、セールスやマーケティング部門とと比べて学ぶ機会が少なくなりがちです。
SaaSの導入推進や業務改善を担う、これからのコーポレート人材に求められるスキルやマインドとは?最後に第3回目のセッションに登壇したパネラー御三方の言葉をご紹介します。
布川氏
「非常に難しいテーマですが…『ITやデジタルトランスフォーメーションで成果を出せる人材』と、定義を絞って考えると、『システムの相対感をもっていること』と『最低限データベースの構造を理解していること』は大事な要素だと思います。システムを導入すると、データベースに何かしらのデータがたまります。データベースにどうやってデータが入っていると取り出しやすいのか、データを流すとどういうテーブルができるのか、イメージがもてていないとシステムを導入する際に選定の判断ができません。例えばExcelでVLOOKUPやパワーピボットを使ってみたりするだけでも、データベースの構造や概念がわかると思います。テック化が進むこれからの時代は、バックオフィスでも『コーポレート × 情シス』といった人材が求められるのではないでしょうか」
本田氏
「これまでセールスとしていろいろな企業のコーポレート担当者さまを見てきて大事だと思うのは二点、『目的』と『主語』です。コーポレート部門の業務範囲はある程度セグメントされているなかで、担当者が感じる課題感は『業務効率改善』といった狭い視野になってしまいがち。売り上げの向上など、もう少し会社全体の大きな目的に目を向けたうえで、課題を捉えることが重要だと思います。関連して、問題と向き合うときの『主語』を誰にするか…これによっても結論が大きく変わります。『自分たちのため』ではなく、従業員にとって、ユーザーや取引先にとってどんなメリットがあるのか、広い視点が今後求められると思います」
黒崎氏
「RECEIPT POSTをご利用いただいている、とある企業さまを例に挙げますが、コーポレート部門の方がさまざまな経営課題に対して理解し、事業部側の課題感とリンクさせて改善に取り組んでいます。ただタスクシュートとしていくのではなく、会社成長にコミットメントすることに意識が向いているだけで、別次元で魅力的なコーポレート部門になると思います」
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「テック導入」や「人材」をテーマとした前編に続き、後編では、人事総務部の未来や組織づくりについて、経営層のパネラー人を迎えたトークセッションの様子をレポートしていきます!
▼後編はこちら
▼ファシリテーターによるイベント座談会の様子はこちら
(文章:下條信吾)