コーポレート部門は保守派から“革新派”へ。 アップデートへの道筋とは【コーポレートテック会議 座談会】
「業務効率化そのものより、空いた時間でなにをやるかが重要だ」
「サーベイの点数が高いといい組織だが、業績が伸びているとは限らない」
「ツール導入の決め手は費用対効果よりビジネスの成長ストーリーが描けるか」
「いいSaaSにはいいユーザーコミュニティが存在する」
……さまざまな金言が飛び出し、のべ300名にご参加いただいた4日間のオンラインイベント『コーポレートテック会議2021 winter』。
当記事は、ファシリテーター4名による振り返り座談会の様子をまとめたものです。
「攻めのコーポレート部門」がいま求められている
▲ DAY1の様子
脇村:総勢13社にご登壇いただいた『コーポレートテック会議』では、「コーポレート部門が使うツールはどう選ぶべきか」「コーポレート部門は今後どう変わらなければならないのか」などのテーマで4日間にわたり議論しました。各回どんなことが印象的でしたか?
栗原:イベントが始まる前は、「コーポレートテック」というと業務効率化やコスト削減の話にフォーカスが当たるものだと思っていました。しかし「お客様の利用体験を向上させたい」「業務効率化によって手が空いた人員を顧客体験をよりよくする部門に回したい」といった理由でコーポレート部門にツールが導入されるケースもあると聞き驚きました。なるほど、 “攻め” のツールにもなり得るのだなと感じましたね。
相原:僕が一番心に残ったのは、コーポレートテックの推進を担うということは、つまり部門だけでなく会社全体を動かす力が求められるという部分です。だから仮に上場準備をしないにしてもコーポレート部門には優秀な人材が必要不可欠で、保守派よりも “革新派” を採用しなきゃいけないと強く思いました。
脇村:栗原さんや相原さんにとってもコーポレートテックに対する認識が変化するきっかけとなったようでなによりです。どの回もおもしろい話が盛りだくさんでしたよね。
茂野:コーポレート部門のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは全社を巻き込む話であり、営業の生産性や顧客体験をも変える……という話題は僕が参加した回でも出ましたね。
印象的だったのは、途中で視聴者の方からいただいたコメントです。「コーポレート部門をデジタル化してクリエイティブな仕事をしようと言いますが、実際はクリエイティブな仕事は少なく、営業へ異動させられることが多いのが現実です。デジタル化は大事ですが、いざ自分が営業へ異動になると思うと……」といった内容で、そのお気持ちは非常によくわかるなと。
しかしながら、労働生産人口が減っていくなかでノンコア業務はますますツールに代替されますし、デジタル化の波は絶対に避けられません。コーポレート部門の方々は自分自身をアップデート・適応していくことが問われていると思います。積極的に革新してほしいですし、経営はそのプロセスをきちんと評価しなければならないですよね。
脇村:そのコメントは私もよく覚えています。イベント全体を通じてコーポレート部門のあるべき姿が見えてきましたが、理想と現実の間にはまだまだ大きなギャップが存在することを改めて感じましたね。
正社員 VS 業務委託?コーポレート部門はどう組織すべきか
▲ DAY2の様子
脇村:「デジタルに強いコーポレート人材が重用されるようになっていく」というお話もたびたび出ましたよね。今後は専門性の高い支援会社やフリーランスが業務委託でコーポレート部門を担うスタイルも増えていくのではないかと思っています。たしか栗原さんの会社は業務委託でしたよね?
栗原:そうですね、我々の会社は入社手続きや契約書類まわりなどコーポレート業務を外部パートナーへ委託しています。その方は某スタートアップのコーポレート部門を経て独立し、弊社のような小規模な会社を複数支援していると聞いています。
茂野:終身雇用の時代は人事異動が主なキャリアの選択肢でしたが、現在は中途で採用することも、栗原さんの会社のように社外のプロフェッショナルへ委託することもできる。コーポレート部門をどのように組織するかによって打ち手が広がり、ますます人員配置が難しくなっていますよね。
脇村:コーポレート部門で働く人たちは、いままでよりも競争の波にさらされるようになっていくんでしょうね。
もちろん会社の状況によって正解は変わると思いますが、「コーポレート部門は正社員がいいのか?業務委託のほうがいいのか?」という議論についてはどう思われますか?
茂野:正社員である理由が薄れているとは言いつつも、仕事内容によっては社内メンバーが適するケースも多々あると思います。たとえば僕の前職にはオフィス環境作りを担当する「ファシリティ部門」がありましたが、その会社のカルチャーを理解している人間じゃないと気持ちいいオフィスはなかなか作れない。このような仕事はおそらく正社員のほうがいいでしょうね。
いま栗原さんがコーポレート業務を委託できているのは「こういう業務をしてほしい」という要望が明確だからこそだと思います。「コーポレートテックをどう推進していくのか?」ということから考えてほしい場合、きっと正社員のほうが、能動的に取り組んでくれるように思います。この辺りが切り分けのラインではないかと思います。
栗原:私が実際にアウトソースして難しさを感じるのは、外部パートナーは会社の文化づくりに巻き込みにくいという点です。たとえば、弊社ではカルチャー形成に有意義となるよう日々の朝会を企画しているのですが、それに「参加してください」と言えるかどうかでいうと……無理ではありませんが、やはり心理的ハードルがあります。
ただ業務をお願いしたいのか、組織を動かすところまで踏み込んでもらいたいのかに応じて判断するのがよいと思いますね。
脇村:なるほど。会社の文化や価値観への深い理解が必要な仕事を正社員へ集約していくのがよさそうですね。
いざ、革新の一歩目はどう踏み出す?
▲ DAY3の様子
脇村:理想のコーポレート部門の在り方についてお話ししてきましたが、いざ組織を変えていこう!という場合、どういうきっかけでスタートするとよいでしょうか?
相原:弊社の場合、デジタルに強いコーポレートメンバーを新しく採用したことがきっかけになりました。当時会計ソフトやG Suiteなど使うツールが増えていたので、「これらツールの利用経験があること」を求める人物像に入れていたんですよ。
さらにその入社してくれたメンバーには「あなたの仕事は売上を作ることです」と僕から最初に伝えました。経理業務っていうのはクレジットカードの乗り換えでキャッシュフローをよくしたり、予実管理を改善して営業活動に好影響を与えたりできるクリエイティブな仕事なんですと。その結果、とてもアグレッシブに動いてくれています。
たとえば、コロナ禍でオフィスの一部を使わなくなった瞬間、彼女はそのフロアをレンタルスペースとして貸し出したんですね。本当に売上を作りにいってるっていう(笑)。このとき、なにを目標にするかによって視点が変わるんだなと改めて感じましたね。
脇村:すばらしい働きですね。やっぱり採用する人物像やKPIから変えちゃうのは大事ですよね。
一方で、まだあまりデジタル化に対応できていない既存のコーポレート部門の人たちが一歩踏み出すにはどのような工夫があるでしょうか?日々の業務もあるなかで、デジタル化に踏み出す時間やエネルギーを捻出するのは結構大変だと思うんですよね。
相原:自社の話ばかりで恐縮ですが、うちの場合は「仕組みができてルーティン化したらアウトソースしよう」と伝えています。なので領収書の入力業務なんかは社内ではやっていません。ルーティンワークが業務を圧迫しないようにしていますね。
脇村:経営側が先んじてそういったルールを作ってしまうのはいいですね!すぐにマネできそうです。
茂野:コーポレート部門の人たちが自ら起こせるアクションでいうと、今回のコーポレートテック会議のようなイベントに参加して情報をキャッチアップするのは第一歩ですよね。各SaaSベンダーがもっているユーザーコミュニティへ参加するのもおすすめです。誰かを巻き込むよりも、まずは誰かに巻き込まれる方が気軽に踏み出しやすいですから。
脇村:おっしゃる通りですね。我々としては、今後もコーポレート部門のみなさんを対象としたイベントを継続的に開催していこうと思います!
成功事例を流通させコーポレート部門を盛り上げよ
▲ DAY4の様子
脇村:コーポレートテックをテーマにしたイベント、どんな企画だったらまた参加したいと思いますか?みなさんからもぜひアイデアをいただけないでしょうか。
栗原:コーポレートテックの導入って、比較的規模の大きい企業様であれば情報システム部門が絡むケースが多いですよね。SaaSベンダー各社の営業・マーケティングを支援する私としては、情シス目線でのコーポレートテック導入話をお聞きしてみたいです。
あとは、経営者がコーポレート部門にどういうことを期待しているのかはぜひ知りたいですね。たとえば相原さんの会社だと「売上を作ろう」というお話でしたが、他にもいろいろパターンがありそうだなと。
脇村:経営者とコーポレート部門のトップの方にセットで登壇いただいて、どんなコミュニケーションを取っているのか知れたらおもしろそうですね。
相原:コーポレート部門を元気にするムーブメントを起こすって、ものすごく大きな意義を感じますよね。ただ、まだまだ日本中にコーポレートテックの成功事例が足りていない気がします。だからこそ現場でくすぶっている方が多いのかな、という印象です。
茂野:実際にコーポレート部門を変革しているリーダーをお呼びしてお話しいただくのがいいのではないでしょうか。どのような背景でどのようにコーポレートテックを推進しているのか、具体的な成功事例こそコーポレート部門の方々が一番聞きたい情報ではないかと思います。
脇村:そもそもコーポレート部門の成功事例が少ない、情報が出回っていないというのは間違いなくありますよね。今回のイベントは「コーポレート部門」と大きくくくり過ぎてしまったので、今後は職種や企業規模で切り分けながら、成功事例の発信を続けていこうと思います。
相原さん、栗原さん、茂野さん、お忙しいところファシリテーターから振り返り座談会へのご参加まで、本当にありがとうございました!
まとめ
労働生産人口が減っていくなか、コーポレートテックの導入は今後ますます進んでいくでしょう。それらを主導するには当然デジタルの知見が求められます。ただし、業務をデジタル化するだけでよいのであれば、外部パートナーに委託するという選択肢もあります。
よってコーポレート部門に求められるのは、自分の仕事がデジタルに代替されることを恐れるのではなく、ツール導入によって手が空いた時間をなにに投じれば会社がよりよくなるのかを考え、実行すること。
……そんな気づきが得られたイベントだったのではないでしょうか。
コーポレート部門の変革を進めるために、fondeskはこれからもコーポレート部門を盛り上げる情報発信を続けていこうと思います。
もしもピンとくるイベントがあれば、ぜひ今後もご参加ください!
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▼ 今回のイベントレポート
コーポレートテック会議2021 winter レポート前編
コーポレートテック会議2021 winter レポート後編
文章:まこりーぬ(@makosaito214)