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LINEグループ抜け出して、思い出もぜんぶ燃やすから

LINEグループ抜け出して思い出も全部燃やすから
一生かけて恋をしよう
クライマックスな毎日にバテて
僕はクラクラ
帰りたい家があるんだ

超新世代カステラスタンダードMAGICマジKISS。大森靖子ちゃんの歌詞。流れるように気持ちを言葉にしていく生々しさとパワー。暗号のような合言葉のような素敵な言葉選びに惹かれて、高校生の頃の私は靖子ちゃんの曲を狂ったように聴いていた。彼女の歌に出てくる女の子やSNSで呟くファンの子たちみたいに過酷な人生を生きていないから正直、「こんな甘ったれた私が彼女の曲に感動する資格はあるのか」みたいな謎の葛藤があった。それでも靖子ちゃんの曲にはそんなわたしのことも見つけてくれるみたいな優しさがあった。久しぶりに彼女のミュージックビデオを見ると夢みたいで幻想的に見えたものは、意外とはっきりとした現実で。綺麗じゃない東京も本物で。私はもう田舎の高校生ではなかった。

いわゆる「病み」と呼ばれる属性の対極にいるようなわたしにももちろん闇の部分はあるようだ。何がどうしてこうなったかわからないけれどわたしは自分に自信がない。寒くなってから特にそれが顕著だった。すごい人は周りにたくさんいて。わたしじゃなくていいな、と思うことは沢山あって。親はキラキラした「できる女」を期待しているし、友達は真面目で裏切らない安定感のあるわたしを求めている。被害妄想かもしれないけどこっちの方がいいことに間違いはない。時々自分が何をしたいのか、必要なのかわからなくなってぶわっと溢れて動けなくなってしまう。

先週のことだった。出かけようとしてるけど家から出られなくてとりあえず泣いた。1時間半遅れで合流した朝。決定的に辛いことは何もないのにお風呂で泣いた夜。その日私はSNSを消そうとした。でも、あとから面倒なことになるな、とか告知したストーリー消したらもったいないな、とかぐちゃぐちゃになりきれない気持ちがどっさりと残っていてできなかった。それもってしても苦しい気持ちは消えなかったのだけれど。とにかく、謎理性を保ったままアイコンの写真だけ消した。仮想の死みたいでちょっとすっきりした。LINE自体も消したいけど後々困るのでせめてグループを抜けたかった。指一本で出来る精神的な断捨離はとてつもなく魅力的だった。でもいざグループ一覧を見てみると思い出は捨てられそうになかったし、仕事でお世話になった大人への礼儀は保ちたいし、わたしが退会できるグループはそんなになかった。未来のことを心配するくらいには希望を持っているっぽかったのでとりあえず送られて来るLINEは全て返している。

本当は旅行にでも行って、手紙以外の全ての連絡を一時的に断ちたい。一昔前はデジタルデトックスが推奨されてたことさえあったのに今はスマホがないと何もできない。デジタルデトックスなんて人に、組織に迷惑がかかる時代。いつもは網に絡まっているみたいなことに気が付かず生きていて、気がついた時に無理やり切ったら死んでしまいそうで。蜘蛛の巣みたいにへばりついて気持ちわるい時も上手くつきあっていくしかない。この時代に正しく健康に生きていくのは案外難しいことかもしれない。


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