ボサ・ノヴァ昔話し
むかし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが…
おじいさんは裏山のエスコーラでサンバ…
おばあさんは黒いビキニ姿でイパネマ海岸へ…
ボンキュッパで小麦色のおばあさん
白い砂浜にタオルを敷きその上に腹ばいに
後ろ手にブラの紐を解くと、まわりの男達から歓声
男たちはおばあさんを放っておいてくれません
…一緒にマテ茶どう?…と誘ってきます
サングラス越しにおばあさんはちょっと微笑んでみせるだけ…
手をひらひらさせて…
…坊や、あたしゃあんたの何倍も生きてきてるだよ
あっちに行ってなさい…
とセクシーな声で囁きます。
そうすると男達は残念そうに、
…オリャ・キ・コイザ・マイス・リンダ!(なんて綺麗な人なんだろう)…
と感嘆の声を上げ…
…ア〜・ポルケ・イストゥ・タゥン・トゥリスチ〜(なんで僕は一人ぼっちなんだろう)と悲しむのでした。
しばらくして人の姿もまばらになってきた夕暮れ
誰にもじゃまされず一人で
…今晩のおかずは何にしようか…
などとぼんやり考えながらと波打ち際を散歩していると、
どんぶらこ〜どんぶらこ〜と流れてきたのが大きなギター。
まあ、なんてことでしょう…
以前から、おじいさんがヂ・ジョルジョのギターをほしがっていたのを知っていたおばあさんは、そのギターを拾い急ぎうちに帰りました…
おじいさんもちょうどエスコーラから帰って来たところ…ドタドタと新しく習ってきたサンバのステップに夢中になっていました。
おばあさんが波打ち際で拾ってきたギターを見せると、
おじいさんは曲がった腰をずいっと伸ばし破顔一笑。
さっそく手に取るとコードを知りもしないのに、デタラメに弾いて喜びました。
そのコードに乗せてデタラメなメロディを歌うおじいさん
おばあさんがちょっと眉を顰めているのにも気づかず
もう、いっぱしのアーティストになった気分
すると、ギターの中から…ヘタクソ!…と云う声
驚いて楕円形のサウンド・ホールを覗くと、そこに小さな男の子。
なんだかひねくれたような、それでいて純粋な瞳をした子供です。
その子が弦をかき分けサウンドホールから出て来ると、
…貸してみろ…
とおじいさんのギターを取り上げました。
そしてゆっくりとしたサンバを弾き始めたのですが…
そのコード・ワークの美しいこと、
そして柔らかな歌声はまるで夢の中のように
聴く者を安らぎに満ちた世界に誘ってくれます…
おばあさんはその甘くなめらかに伸びる声にうっとり
おじいさんはゆったりとしたリズムに身を委ね夢心地
二人の心の底のどこかに触れる人恋しいような、
孤独のままでいたいような
不思議な浮遊感
二人だけの孤独な時間
…サウダージやなぁ〜…とおじいさんが囁くと
…そうねぇ…とおばあさんはおじいさんの胸に身をよせました
久しぶりにおじいさんはおばあさんの肩をだきしめた甘い時間…
…キ・イスト・エ・ボサ・ノヴァ(これがボサ・ノヴァさ)
キ・イスト・エ・ムイント・ナトゥラゥ(これが自然なんだ)
小さな男の子はそんな二人の様子を見ながら呟きました
後年その子供はジョアン・ジルベルトと呼ばれる男に育ちます。
あほらし
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