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こんな本はいかが⑯ トキワ荘の時代 梶井純

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします🐍

自分のこと書くのは恥ずかしいので、今年も当面は書評で行きたいと思います。

トキワ荘関連本その2。その1はこちら

タイトルからしてトキワ荘に関わった色々な漫画家を紹介する…訳ではなく、トキワ荘の兄貴分として知られる(まんが道のテラさん、といった方が伝わりやすいであろう)「寺田ヒロオ氏」にガッツリフォーカスを当てた一冊である。タイトルに少々語弊がある気がする。

寺田ヒロオ氏は藤子不二雄のまんが道&愛しりそめし頃に…(以下、愛しり)ではトキワ荘の頼もしい兄貴分の漫画家として描かれているが、こちらは本人へのインタビューや寺田ヒロオの漫画史、またまんが道ではあまり触れられなかった漫画家(つげ義春氏や棚下照生氏など)からの寺田ヒロオ評をレポートしたものが主となっている。

そのせいか、まんが道をはじめとする「後輩たちから慕われたテラさん」とはまた違った、等身大のテラさんが見えてくる。

上京し孤独に清貧漫画家業をしていたテラさんにとって藤子不二雄(特にA)の上京がなくてはならないものだったこと、自分と全く正反対の棚橋照生氏と気が合ったこと、映画や小説があまり得意でない、また生活習慣も品行方正だったテラさんにとって後輩たち(石ノ森やら藤子コンビやら赤塚やら)の人並外れた好奇心や金銭感覚について行けなかったこと、週刊誌が生まれ漫画の生産ペースが上がりついていけなくなったこと、漫画表現がエスカレートし(テラさんから見て)子どもたちのためになる漫画を描く場がなくなったため自ら筆を折ったこと…
(これは愛しりでもディフォルメ気味に描かれていますね。時期は漫画で描かれているほど前ではなかったみたいですが)

「雑誌がキタナクなったから…」
漫画が刺激を求めてエログロナンセンスが夢になりはじめた頃。驚いた。僕らはなだめすかし、なんとか続けさせようとした。その作品を惜しんだ。出版社が何度も足を運んだ。しかし…無駄だった。(石ノ森章太郎氏談)

頑固すぎて目まぐるしく変わる当時の漫画の時流(発表ペースも表現も)に乗れなかったしついていけなくなった漫画家、と言えばそれまでだが、漫画=子どもたちのためのきれいなもの という理想を頑なに持ち続けた姿勢はやはり美しい。
(逆に、石ノ森章太郎氏はじめ後輩たちは時流に「乗ってしまった」ことを後悔している面もあることが本人たちの書籍から見受けられる。)

だからこそトキワ荘の後輩たちはテラさんを慕い続けたし、こういうテラさんメインの本が生まれるのだろうと思った。

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