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教員への残業代支給は長時間労働の解消にはつながらない
こんにちは、ラマです。
今朝のYahoo!ニュースにこんな記事がありました。
公立校教員に残業代支給を検討 定額廃止案、勤務時間を反映共同通信
公立学校教員の処遇改善を巡り、残業時間に応じた手当を支払う仕組みを導入する案が政府内で浮上、関係省庁が検討を始めたことが3日分かった。採用すれば、残業代の代わりに一定額を給与に上乗せ支給する現行の「教職調整額」制度は廃止する。教員の長時間労働の解消が課題となる中、勤務時間を反映した賃金体系へ変え、管理職に過重労働を抑える動機が働くようにする狙い。(以下略)
今回はこのニュースに対する個人的な見解を述べていきたいと思います。
コスト意識のない学校現場
今の学校現場は先生たちの「サービス残業」ありきで支えられています。一応教員調整額があるとはいえ、平均残業時間で割ると時給数百円程度です。この「コスト意識」がないのが今の教育現場です。それくらい先生の仕事量は多いですし、なにより時間的制約がきついのです。
2021年に「教員に残業代が出ないのは労働基準法違反」としてある埼玉県の公立小学校教員が国を訴えた裁判に対して、さいたま地方裁判所で出た判決の内容では、次のような内容で教員の業務時間が「定義」されました。
・教室などの掲示物の作成→月30分
・授業準備→1コマ5分
・朝自習の準備→10分
・テスト採点→60分
・週案の作成→週30分
・学校花壇の管理→月1回10分
などなど…。これ以上の時間は「教員の自発的行為」とみなされました。
授業準備が5分などと不可能なことを根拠に、裁判所は原告の訴えを退けたのです。
いや、不可能ではないかもしれません。手抜きをすればですが。現場のほとんどの教員はそんな不誠実なことはしません。教員の「誠実さ」につけこんだ判決だと個人的には思っています。
結局持ち帰り仕事が増える
では、実際に残業代が支給されるようになったらどうなるか。管理職は新たに「コスト管理」が求められて、職員には今まで以上に早く帰るよう促します。そのとき根拠となるのはは先に述べた「判例」です。しかし仕事は終わりません。見出しの通り、「結局持ち帰り仕事が増える」だけになってしまうと私は考えます。
今でさえ授業準備やテストの採点、宿題等の丸つけを自宅に持ち帰っている先生は多いです。そこには当然ながら「残業代」は発生しません。そして管理職は今まで以上に残業に対する規制をかけてきて、就業時間(学校に滞在する時間)内にこれらの業務をこなすことが不可能になります。
コスト意識が浸透した結果、今まで学校でしていた事務的な業務も成績管理など個人情報につながる仕事、金銭管理の仕事以外はできるだけ自宅などで行うよう規制がかけられるようになる、と私は見ています。
給与改善より労働環境改善を
残業代が発生するようになっても教員の働き方の変化にはつながりません。それどころかコスト管理のために「子どもと向き合う」ことができなくなり、本末転倒です。残業代を支給するより、教員でなくてもできる仕事(会計事務、環境整備業務など)は外注化して、教員の時間を生み出すほうが先なんじゃないかな、と私は思います。
多くの教員が欲しいのはお金ではなく、時間です。
日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さんは本記事の冒頭で紹介したニュースに対して、以下のような解説をつけています。
現状政府が検討している教職調整額の引き上げは一見待遇改善に繋がり良さそうに見えるかもしれませんが、いくつかの問題があります。①実際の残業時間よりは低い額になり実態には見合わない、②長時間労働を是正するインセンティブが働きにくい(むしろ現状より待遇が良くなるため今より長時間労働が推奨されかねない)、③業務内容の削減には繋がらない、④教員志望の学生や教員が求めているのは待遇改善より労働時間の削減など。現状の学校現場は、教員も生徒も明らかに疲弊しており、もっと余裕のある環境に変えるためには、カリキュラムオーバーロードの是正、過度に競争的な教育環境の是正も欠かせません。(太線部は筆者による強調)
私の前記事『今見直されるべき「ゆとり教育」』で書いた通り、残業代による労務管理ではなく、ゆとりある教育に転換すべき時期が来ているのではないかな、とこのコメントを見て改めて感じました。
現場の先生、またこれから先生になろうという人はそのほとんどが「子どもに対する愛情」を持っています。それがないと教員なんて続けていけません。コストカットの名のもとに教員のやりがいを奪うことは決してあってはならないのです。
求められることが多すぎるのが今の教員です。残業代の支給によって「やりがい搾取」の方向がますます進んでいくことに大きな懸念を持ちつつ、今回はここまでにしたいと思います。
それでは!