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最後の晩餐 ーそれは最後の一枚ー

まめおやじです。

お好み焼き 好きですか?

最後の晩餐と聞かれたら迷わず「お好み焼き」
そう答えます。
できれば自分でつくって食べたい。
最後の晩餐を自分で作るって変かな。

出会いは14歳の春。
引越し先の学校で仲良くなった友人に教えてもらった。

家で食べるものとは全く別物。こんなうまいものがあるんだ。衝撃をうけた。

駅の改札を降りるとソースの焦げる、お腹が空く香りに導かれる。駅前の小さな店。この字型の大きな鉄板カウンターに夫婦が二人で営む。

ごま塩頭にハチマキで小太りなオヤジさんが鉄板で次々と焼いていく。奥さんはパーマ頭で丸顔。

2人で口喧嘩しながら客をさばき、お好み焼きが焼いては食べ、胃袋に消えてゆく。

豚モダン小 

ほとんどの客が注文する、暑さ2㎝直径25㎝の代物。

当時価格は400円 1000円でもおかしくない。

親父の手元に目を奪われる。両手に大きなコテを自在に操り、カチャカチャ鳴らしながら量産されていく姿は圧巻。

電車が到着する音や振動は気にならない。
オヤジも客もお好み焼きに集中している。

焼き上がりに時間はかかるが見ているだけであっという間に時は過ぎる。飽きない。ショーをみてるよう。

12席で満席。食べているものはお好み焼きに一心不乱に、待っているものは親父のコテさばきと鉄板に釘づけ。

あ、次のあれかな、俺のやつ、親父の手元の3つ奥にあるやつ。

しばらくして

「にいちゃん!ソースは多め普通少なめ?
カツオ、青のりは両方?」
「多めで両方で」
「マヨネーズは?」
「お願いします」

しばらくすると目の前の鉄板にアツアツのモダン焼が運ばれてきた。
「お待たせしました!長い間待ってもらってごめんなあ。はい、お冷おかわり〜。熱いからキィつけてやあ」

きた。

はみ出たソースが鉄板に落ち、湯気と共に美味しい焦げた香りを鼻いっぱい吸い込む。
いただきます。

モダン焼きを自分の正面から少し左へづらす。
コテを縦に小刻みに動かし一直線に切る。
本体から切り離し少し右へ移動。自分の正面に、
おき、コテを自分と並行に切って素早くコテに乗せてひとくち口に運ぶ。

美味い 熱い 旨い 熱い

食べながら少し口をあけ熱を逃しながら同時に給気をし、口の中に熱がこもらないよう、かつ、舌の上で移動させながら、火傷しないよう、入れ替えた空気と一緒に咀嚼。

一連の作業を繰り返す。
極力一口大の正方形になるよう慎重にカットしながら食べ進める。

はみ出したそばがカリカリになってればラッキー。

口の中は熱い。熱さも美味さの一部であり、口の中に美味さを残しておきたい。

のこり1/4位になったらさすがにお水を追加。
オヤジは注文がたてこんでいても、頻繁にお水を入れ替えてくれる。

ひとかけらづつ丁寧に食べ進む。
名残り惜しい。
あぁ、美味しく楽しい時間が終わる。

ごちそうさま。
「おあいそ」

友人、同僚、親、顧客、様々な人とこの店に通った。ポイントカードもない時代。一体今まで何枚食べたのだろうか。

食べるたびに感動する、こんな店はなかなかない。

15年後、
オヤジの腱鞘炎がひどくなり、後継者もいないので、店をたたむと聞いた。

最終日、会社を休み遠方から駆けつけた。
最後の一枚を食べ終え、
「ありがとうございました」
オヤジと奥様と握手

時は過ぎ、

世界中にコロナが蔓延し、緊急辞退宣言が出された頃、私は自宅であの豚モダンの再現に成功した。

貴方にとって良い一日を~まめおやじ


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