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An invitation that connects the past (Before) ~From FOX WORKS stage17 Magician’s Worth~

「あー⋯しみるぅー⋯」

たまに来る、新幹線に乗らないと来れない場所。
この場所は僕の住んでるエリアとは打って変わって、羨ましいほど天気がよく心地いい。

次にこれるのは、またいつか。
真冬の時期に冷えた身体を内側から温めてくれたテイクアウトのオーガニックティーに名残惜しさを感じつつ、空いたカップをゴミ箱に捨て帰ろうとした。

『そこの若いの。』と後ろから声がした。

僕はもう、若いという年齢ではない。
僕の事じゃない別の誰かを呼び止めているんだろうと無意識に思い、足を止めずに進んだ。

だけど。
次は『君の事だよ』という声がした。
その時。

ざあっ⋯と白く深い霧が立ち込め、あっという間に辺りが真っ白くなった。
霧に包まれた僕と、もう一人。

スーツ姿でハットを被り。
足が悪いのか、杖をついている初老の男性。
ただ、ハットを目深に被っていたために表情が全部分からなかった。

『そんなに警戒しなくてもいい。君を迎えに来た。』
「⋯む、迎え?」
『招待状をお持ちだろう?』

何の話だかさっぱり分からない僕に、老人は胸あたりをトン、トンと指さした。

僕は老人が指をさした場所と同じ場所あたりにある、左側の胸ポケットに恐る恐る指を入れて探ってみた。
すると⋯何かが手に当たった。
薄いけど少し丈夫そうな⋯四角くてペラペラした⋯

ごそっ、と取り出したそれ。

「⋯トランプ?」
だが、ただのトランプではなく、何か英語でメッセージが書かれていた。

『さぁ、来なさい。すぐそこだ。』

老人はそう言うと、今度は反対を向いて斜め上空あたりをステッキで指し示した。

その途端、周りを白く囲んでいた霧が晴れ⋯
建物が姿を現した。

「⋯え」
数分前や、それ以前にこの場所に訪れた時、あんな建物なんてなかったはずだ。

『幻影城だ。私が設計したものだよ。』

幻影城って⋯
江戸川乱歩の小説雑誌?昭和時代の⋯
それしか思い浮かべる事が出来なかった。

『あの中へ入り、入口の者にそのトランプの招待状を見せなさい。
そうすれば⋯再び、私と会う事が出来るはずだ。』
「えっ、待って下さい!どうゆう事!?」
『君はその招待状を手に持ち、観客席から事の顛末を見届けるだけでいい。』

僕は再び招待状と呼ばれたトランプに目線を落とし見つめた。

「Magician’s Worth(マジシャンズ・ワース)⋯」
直訳すれば、“奇術師の価値”という意味になる。

「⋯あの」と目線を老人に戻した時はもう遅く、老人は姿を消していた。

夢だった?いや⋯
夢でもなければ白昼夢でも、デジャビュでもない。
現に、手にこうしてトランプがある。

“君は真面目過ぎるほどだから、もう少しゆるく考えてみたらどうだ”

タイミングがいいのか悪いのか、いつか仕事の上司に言われた一言が、僕の頭の中に聞こえてきた。

その言葉に今、応えるかの様に。
僕はもうそれ以上何も考えず、城の入り口に立つ。

あの老人に言われた通り、入り口にいた人間にトランプを見せると部屋に通された。
だが、部屋の景色が日常と違う。

僕の様に洋服⋯世間一般的に言われる様な“普段着”を着ている人間がいないのだ。
スーツにマントを羽織っていたり。
あれは、袴?着物にブーツを合わせていたり⋯

明らかに僕と違う。
いや、正確には多分⋯
今は僕の方が、異質な姿形をしている。

何かがおかしい。何かが。
その事に気づいた時。

外は雨がぽつ、ぽつ、と少しずつ。
やがてザアザアと音がするほど降り出した。

僕の感じている違和感を洗い流す様に。
これから起こる“真実はひとつではない”という事実を痛いほどぶつけられる様に⋯

『ようこそ、マジシャンズ・ワースへ。』

この時代は昭和11年(1936年)
マジシャン達の聖地と呼ばれていた建物へ一人の青年記者が辿り着く所から始まる。

僕はやはり、タイムスリップした様だ。

そこには、さっき僕に招待状を渡したあの老人。
老人の名は、芥岡武臣という名らしい。
青年記者は、赤瀬川と名乗った。

青年記者は老人に声をかける。
その時代(昭和11年)から16年前の大正9年、表舞台から姿を消した天才マジシャンと、6人のマジシャン達が姿を消した事件の真相に触れようとしていた。

ここからは2人と共に、時間を辿る事になる。

時は遡り、大正9年(1920年)。

幻影城⋯あの老人が設計したカラクリ屋敷。
この場所へ集められた6人のマジシャン達。

『おや⋯このカードは機嫌が悪い様だ⋯でもこちらのカードは⋯ほら!』
カードマジシャン・石戸隆昌。

『あっはは!油断するなよ!』
スライハンドマジシャン・伊志巣董一郎。

『Ladies and Gentleman⋯貴方の心を見せて頂きますよ?』
メンタルマジシャン・大戸宏洋。

『⋯さぁ、消えたコインは何処へ⋯?』
コインマジシャン・大屋奄蔡。

『私はマジシャンって言うより⋯ここにいてもいいの?』
手品道具製作師・風木雨水。

『さぁ、私の蝶たち!美しく舞いなさい!』
手妻師・天乃桔梗。

そんな6人の前に、天才マジシャン“D”が舞い踊るカードの中から姿を現した。

Dは全く正体が見えない人物だった。
ボイスチェンジャーで声を変え、バイクのヘルメットの様な仮面を被っていたのだから。
男性なのか女性なのか、若いのか年老いているのか⋯

Dは6人を集めた目的をこう伝えた。
“私の挑戦を受け、3日後に勝ち残れば私の全てを継承する。全てだ。”

6人のマジシャン達は歓喜した。
だがその挑戦に失敗すれば、マジシャンとしての命が永遠に絶たれる可能性も秘めている事実に6人は混乱する。

徐々に始まる頭脳戦、暴かれていく過去や傷、事件、そしてDが残した暗号の解読⋯

だが約束の3日後、6人はDから一方的に敗北を告げられてしまう。

⋯時代は再び16年後の昭和11年。
これまでの事を聞いていた記者は矛盾に気づく。
それと同時に老人、6人の奇術師、D達のリンクが始まる。

6人は確かに姿を消した。
Dに⋯というより“混乱していた当時の時代”によって。

『マジシャンは、いつでも観客の驚く顔が見たいのさ。』
そう言い残し、老人も姿を消していった。

『ありえない!たかがマジックじゃないか!』
そう叫び、混乱したままの記者を残して。

⋯舞台での話は、ここまで。
観客席から拍手が起こった後、一人またひとりと客人達が席を立ち姿を消していった。

僕は何故か席を立てずにいた。

あの記者の言う事が多分正解だろう。
⋯ひとつの正解。
でも、正解はひとつじゃないとしたら⋯?

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