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好奇心が宇宙を照らす至高の宇宙探査ADV『Outer Wilds』

 「ADV(アドベンチャーゲーム)」というジャンルはここ十数年のうちにずいぶん進化した。

 和製ADVの名作といえば『428』や『逆転裁判』シリーズなどが挙げられるが、これらの多くはテキストベースであり推理小説に近い形態だ。この形態は今も根強く、ADVといえば紙芝居ゲーを想像する人も多いだろう。

 一方で、ゲーム機の性能向上により海外を主として3Dグラフィックを駆使したアクションベースのADVが発達してきた。その代表作と言えるのが『Heavy Rain』だ。この作品は選択肢ではなくQTEをベースにキャラクターの行動を選択するが、その操作自体もただボタンを押すだけでなく、キャラクターの動きに合わせてコントローラーを振るというようなもので、直観的な操作を行うことで没入感を深めることに成功した。このシステムを発展させた『Detroit Become Human』はADVだけでなくゲーム史に残る名作として名高い。

 では、インディーズのADVはどうだろうか。やはり予算と開発規模の問題でテキストベースのゲームが多いが、アクションベースのゲームも少なからず存在する。そしてそういったゲームの多くからはゲームシステムと世界観をマッチさせようというこだわりを感じる。例として猫の挙動を細部まで作りこんだ『Stray』や、メタフィクションを前面に押し出した『OneShot』などが挙げられるが、今回紹介する『Outer Wilds』もそんなゲームの一つだ。

 『Outer Wilds』は数々の賞を受賞した3Dベースの宇宙探索ADVだ。プレイヤーは宇宙飛行士の主人公を操作して宇宙の謎を解明するのだが、ゲームシステムストーリーグラフィック音楽全てのクオリティが高く、かつそれらの要素が噛み合っており、私が今までプレイしたADVの中で最も面白い作品の一つと断言できる。

 そんな神ゲーである本作の魅力は枚挙にいとまがないのだが、この記事では特に素晴らしい点、本作でしか味わえないユニークな点に絞って紹介したい。ネタバレは極力控えて書いたつもりなので未プレイの人も安心してください。


あらすじ

 主人公は太陽系探査プログラムの初飛行を目前に控えた新人宇宙飛行士。ついに探査艇で母星を飛び出し宇宙の冒険が始まったと思ったのもつかの間、謎の大爆発に巻き込まれてしまう。
 早くも冒険は終わりかと思われたその時、主人公の脳裏に走馬灯のような映像が流れ出し、目を覚ますと初飛行直前に時間が巻き戻っていた。
 主人公は再び宇宙に出ては事故や爆発で死亡することを繰り返し、そのうち自分が太陽系消滅直前の22分をループしていることに気づく。
 ループの原因は一体なんなのか?ループを終わらせることができるのか?そして、太陽系の消滅を回避することはできるのか?ループする22分のなかで宇宙を探索し、謎を解き明かす冒険が今始まった…

リアリティを追及することで描かれる宇宙の神秘

 このゲームの物理演算にはかなり力が入っている。宇宙空間は完全に無重力かつ慣性が支配しており、上も下もない空間を自由に飛び回ることができる。惑星が近づいてきたと思ったら減速しきれずに突っ込んで爆散するのは誰でも一度はやるミスだ。宇宙空間を重力が存在しないだけの3次元空間程度に表現するゲームが多い中、ここまでリアルに宇宙を描写した作品はあまりないのではないだろうか。

 さらに、ゲームのビジュアル面もリアリティにこだわっている。ブラックホールの周囲には重力レンズが現れ、彗星の尾は常に太陽と逆の方向を向いている。太陽フレアや大竜巻といったダイナミックな自然現象も表現されており、宇宙の美しさ、スケールの大きさを実感することができる。

 こういった細やかな描写によりリアルに表現された宇宙を旅することによって、プレイヤーは最高の没入感を得ることができる。まさに「神は細部に宿る」という言葉がふさわしい神ゲーだ。

ある惑星の中心に位置するブラックホール。星の外殻をどんどん飲み込んでいく。

 また、物理演算ゲームならではの特徴として、ゴリ押しで謎解きを突破できてしまうのも面白い(通称ゴリラーワイルズ)。マップには普通にやっても到達できない地点があり、どうすればたどり着けるか頭を捻るわけだが、ブラックホールのスイングバイを利用したり探査艇で無理やり乗り付けたりしてたどり着くこともでき、これも立派な「別解」なのだ。作者の裏をかくことに快感を覚えるひねくれたゲーマーには是非挑戦してほしい。

個性豊かかつ時間変化する緻密なマップデザイン

 このゲームのマップである太陽系全体はオープンワールドになっており、シームレスに探索することができる。遠くからは球体に見える惑星でもダイレクトに地上に降り立つことができ、惑星ごとのユニークな環境を歩き回ることができる。

宇宙から見れば緑っぽいだけの惑星も…
その内部には竜巻が荒れ狂う雄大な光景が広がっている

 更に、惑星の環境は各ループ中の時間経過によってダイナミックに変化する。惑星によっては徐々にブラックホールに飲み込まれていったり、砂の中に埋もれて行ったりする。当然この変化によって行けなくなる場所が出てくるが、逆に行けなかった場所に行けるようにもなることもある。ループというゲームシステムをうまくマップデザインに落とし込んでおり、プレイヤーが飽きずに探索できるよう工夫されている。本作の特に優れた点の一つだ。

登場人物のセリフも時間経過で変化することがある

 また、惑星に攻略順が存在しないのも本作の特徴だ。探索の仕方はプレイヤーに委ねられており、その方法は十人十色だ。一つの惑星を調べ尽くしてから次にいくのもいいし、各惑星を一通り回って情報を集め、気になる星から探索するのもいい。どうせ死んでもループするんだから自分のやりたいようにやればいいのだ。

太陽系に属する様々な惑星

全ての謎がつながり答えが導かれる圧倒的快感

 このゲームの一番の魅力が謎解きだ。プレイヤーは最初右も左もわからず宇宙を飛び回って情報を集めることになるが、それらは断片的で全体像をつかむことができず、まだ面白さを見いだせないかもしれない。実際レビューを見るとこのゲームを投げる人の多くが序盤でやめてしまっているようだ。

 だがもう少しだけ我慢してプレイしてほしい。様々な惑星で見つけた情報は次第に線を結び、この世界の謎の答えや隠された場所への行き方を教えてくれる。この段階になると、太陽系全体に散らばった謎と手掛かりを集めるのがこのゲームの醍醐味だと理解し、プレイヤーはもうこのゲームから抜け出せなくなる。

 そして更に探索を進めると、ループや太陽系消滅といった大きなテーマさえも実はつながっており、一つの答えを指し示すことに気付くだろう。この答えに気付いた瞬間の気持ちよさは筆舌に尽くしがたい。「脳汁が出る」という表現があるが、私自身快楽物質が脳から大量に分泌されているのを感じながら放心状態になってしまった。どんなに言葉を重ねてもこの快感を表現することはできないので、ぜひ自分でゲームをプレイして確かめてほしい。

 ここまで読んで「謎解きは得意じゃないから自分には向いていないかもしれない」と思う人もいるかもしれない。確かに本作の謎解きは一筋縄ではいかないが、プレイヤーを補助する便利な機能もあるので安心してほしい。探査艇のコンソールにアクセスすることでこれまでに集めた情報を閲覧することができ、情報同士のつながりや、まだ探索しきれていない箇所を教えてくれる。実は私自身このゲームを数年積んでいたのだが、この機能で情報を読み直すことで話のつながりを思い出すことができた。

集めた情報がどんどんつながっていくのを眺めるのは楽しい


 最後に、行き詰まった人に向けてアドバイスを送る。見たくない人は飛ばしてください。


マシュマロでチルしよう!



「未知のものにはとりあえず探査機を放り込んでみろ」
「シグナルスコープは超便利」


孤独な宇宙で感じる人の心の光(微ネタバレ有)

 主人公は一人で暗い宇宙を探索しながら太陽系を救うために奔走するのだが、不思議と孤独感は感じない。その理由は先住種族Nomaiの残した数々の記録のおかげだろう。

 太陽系にはNomaiの残した遺跡が各所に存在し、彼らは滅びてはいるものの生活の痕跡から彼らの人となりを窺い知ることができる。彼らは高い科学技術を持つ一方で、ユーモラスで好奇心旺盛なところがある。探索を進めるうちに彼らに親近感を覚え、また目的を知ることで、彼らと宇宙の真理を追い求める同志になったかのような気持ちになる。すでに滅びた種族の温かみを感じるのは不思議な感覚だった。

Nomaiが遺した記録は研究レポートだけでなく、日常のやりとりも見ることができる。

 
 このゲームを最後までプレイして感じたこととして、「知的好奇心こそが人の持つ最も強い力だ」という作り手の信念があった。Nomai達は好奇心に導かれて太陽系に飛んできたが、結局目的を成就することができずに滅びの運命をたどってしまう。しかし、彼らの遺した技術は主人公たちHearthianへと引き継がれ、Hearthian達も好奇心に導かれて宇宙へ飛び出した。そしてゲームの終わりには、主人公は遂にループを克服しNomaiに代わって悲願を果たすことになるのだが、これは好奇心を介して二つの種族が結び付けられ、連続した存在になったと言えるのではないだろうか。

 科学の発展の原動力は不思議を解き明かしたいと思う好奇心だと私は考えている。人の一生は短く一人で何かを成し遂げるのは難しいかもしれない。しかし、学問の進歩が「巨人の肩の上に立つ」と例えられるように、後に続く者のために成果を遺すことはできる。これはまさにNomaiとHearthianの関係ではないだろうか。私自身科学の世界に身を置いている者として、このゲームのテーマには大いに共感できるものがあった。

みんなも『Outer Wilds』ゾンビになろう!

 このゲームはクリアした瞬間の快感があまりに強すぎるため、脳を焼かれた人が続出している。本作のような謎がつながって正解を導き出すゲームを求めて永遠にさまよい歩くゾンビになってしまうのだ。下記のような記事が出るほどにはゾンビが発生している。(私自身この記事で紹介されたゲームをいくつかプレイした。)

 また、ゾンビ達はこのゲームの配信にも引き寄せられてくる。プレイヤー達が謎解きに悩み、答えが分かって絶頂する姿をニヤニヤ眺めるのが何より楽しいのだ。

 本作は攻略に順番が存在しないため、プレイヤーが100人いれば100通りの攻略ルートが存在する。そのため他のプレイヤーが自分と異なる順番で探索を行ったり、思いもよらない「別解」で謎を解いたりするのを見るのは新鮮な面白さがある。

 私も当然Twitchでこのゲームをフォローしており時々配信を見に行ったりするが、同じようなゾンビをよく見かける。彼らの民度は基本的に高く、配信者が求めればネタバレには極力配慮してヒントを出してくれるので安心だ。プレイするのとプレイを見るので別種の面白さがあるゲームなので、配信者にもそのリスナーにも是非プレイしてほしい。

『Outer Wilds』は各種ストアで絶賛販売中!

 なるべく簡潔に書いたつもりが、オススメポイントが多すぎて結構な長文になってしまいました。ここまで読んでいただきありがとうございました。この記事を読んでプレイしてみたいと思ってくれたなら嬉しい限りです。
 

以下各種コンテンツのストアページ

  • Steam

  • Switch

  • PS5/PS4

DLCも配信されており、太陽系の隠された秘密を解き明かすことができるぞ!

各配信サイトでBGMも配信されてるぞ!


みんなも宇宙飛行士になってゾンビ、なろう!

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