10. 思考/思想のパケット化
そして情報と思考の量の少なさとそれのアウトプットが短期間に行われることで、端的で規模の小さい思想が連発されることになります。ネット以前の環境では、明暗白黒良し悪しなど一見矛盾する要素が思考の過程を経て合わさって一つの思想として意見表明されていたものが、細かく分かれて連発される思想のパケット化が起きます。この分割された小さなパケット型の思想は、ネット以前の環境では思想を構成する要素や素材であって、ある問題に対して肯定的であったり、否定的であったりしますが、ネット空間では意見表明の発言者を離れて、それぞれが独立した思想単位となり、その性質ごとに雪だるま式にまとまります。個人の思考の中で、二つの対立する考えを整理して一つの思想にまとめるのではなく、それぞれ異なる二つの思想として極端なままネット空間に表明された小さなパケット型思想が、ネット空間でその性質ごとにまとめられるため、一人の意見表明者が複数の対立しあう極端な思想双方の成立に同時に加担することが可能になります。またこの思想のパケット化によってネット空間のコミュニケーションで重要度を増すのが“エモさ”です。“エモさ”とはエモーショナル(感情)さ、ということですが、パケット化により小さな規模の思想が短期間に少ない情報から連発される状況では、理屈や理性にうったえる情報よりも感情にうったえる情報の方がその瞬時のリアクションにたいしては影響力が大きいと考えられるためです。