ブルーダイヤを探して__1_

野良猫が一目惚れした家猫のために”指輪”を探す話

こんばんは、fukaです。本日は、オリジナルシナリオの投稿です。

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【タイトル】

ブルーダイヤを探して

【あらすじ】

人(猫)が良い野良猫のトラは、平凡で平和な野良猫ライフを過ごしていた。
ある日、トラは家猫のユキに一目惚れする。しかし、家猫と野良猫では、まともに話すことすら叶わない。
そんな時、ユキの飼い主が大切な”指輪”を失くしてしまったと知るトラ。
ユキに喜んでほしい一心で、指輪探しを手伝うことにするトラだったが……。

【企画意図】

☆『バンビ』や『ライオンキング』のようなクラシカルな動物擬人化をイメージ。
☆愉快な野良猫仲間たち、年老いた蛇、中二病のカラスなど個性的な登場人物たち。
☆動物たちの魅力的な世界観と日常。好きな相手への思いと、エゴの葛藤。(ファミリー向け)

【登場人物】


トラ   主人公、トラ柄の猫(♂)
ユキ   青目の白猫(♀)由梨の猫

クロ   黒色の猫(♂)
サビ   サビ柄の猫(♂)
ウシ   ウシ柄の猫(♂)

ヘビ   老いた蛇(♀)
ナイト  カラスの親玉(♂)

レッド  シャム猫(♂)
ハチ   八割れ柄の猫(♂)
タビ   足先が靴下の様な柄の猫(♂)

ペガサス アルビノのカラス(♂)
ミケ   三毛猫(♀)

由梨   ユキの飼い主(32)、OL
透哉   由梨の婚約者(35)、獣医

【シナリオ】

○レストラン・厨房
魚をさばいているシェフ。

○同・裏口・外
倒れたゴミ箱を漁っているトラ、「!」と目を輝かせ顔を突っ込む。
引っ張り出したのは、身が残っている大きな魚の骨。
ニッと笑うトラ、魚にかぶりつく。
子猫の声「ミャ~……」
振り向くトラ、子猫が潤んだ目で見つめていて、
子猫の腹の音「ぐぎゅるる……」
「!」となるトラ、口の中の魚を飲み込み「……」となる。
しゅんとして去って行く子猫、目の前に魚の身が飛んでくる。
振り返ると、トラが居て、
トラ「あげる」
パァッと笑顔になる子猫。
微笑んでゴミ箱に戻るトラ。が、魚が無くなっていて「!?」となる。
振り向くトラ、ぽつんと置いてある魚の身。子猫はいない。
ハッと逆に振り向くトラ、魚を運んでいく猫たちと子猫が見えて。
こちらに気付く子猫、口の動きで「バーカ」と去って行く。
呆然と立ち尽くすトラ。

○スミレ公園・外観

○同・芝生
落ち込んだ様子でやってくるトラ。
毛づくろいしてたウシ、気付いて、
ウシ「あ、トラ。おかえり」
トラ「ウシ……ただいま」
ウシ「? 元気ないじゃん」
トラ、自嘲気味に、
トラ「僕の今日のごはん、子猫サイズの魚だけだ」
ウシ「? カリカリ、食べればいいのに」
サビとクロ、やってきて、
サビ「あ、いたいた!」
クロ「よお。飯行こうぜ」
ウシ「あ、サビとクロだ。今行くー」
クロ「トラはまたいつものコースか?」
トラ「うん、これから病院いく」
クロ「病院なんて覗いて、何が楽しいんだか」
トラ「楽しいさ。この間なんて、ほら、なんて言ったっけ……大きくて、蛇みたいで、でも足があって……」
サビ「恐竜?」
トラ「そう! 恐竜がいたんだ」
サビ、しかめ面で、
サビ「嘘だね。恐竜はもうみんな、土に埋まってるって本に書いてあった」
トラ「嘘じゃない。見たんだ」
ウシ「それって美味しい?」
と、穴を掘りだす。
トラ、呆れたように、
トラ「食べられないよ。たぶん」
サビ「どうかな……それは本には書いてなかったから」
クロ、歩き出しつつ、
クロ「おい、早く行こう。レッドたちが来たら面倒だ」
ウシ「うわぁ、それは嫌だ」
と穴掘りをやめて、手足を振って、
ウシ「あいつらには敵わないよ」
   ×   ×   ×
イメージ。
キラキラ光るガラス、アクセサリーやガラクタに囲まれ、ふんぞり返っているレッド。
その両脇に、ニヤリと笑うハチとタビ。
   ×   ×   ×
サビ、顔をしかめて、
サビ「あいつら、最近さらに調子にのってる」
ウシ「でもさ、クロなら勝てるだろ? 頭いいし」
クロ「無理だね。レッドは俺より賢い。仲間も多い」
サビ「俺よりはバカだけどねっ」
トラ「サビは頭いいけど、ビビりだから」
ムッとするサビ。
ウシ「あ、トラは勝てるだろ? 足速いし」
トラ「足が速いだけじゃ勝てないよ」
クロ「トラは駄目だね。お人好しバカだから」
トラ「なんだと」
と、クロと睨みあう。ニィッと笑って飛び掛かり、じゃれ合う二匹。
ウシ「まーた始まった」
サビ「置いてこ」
クロ、トラを押さえつけつつ、
クロ・トラ「置いてくな!」

○同・入口
袋を片手に、しゃがんでいる婦人。
ドライフードを食べているウシ・サビ・クロ。
婦人「ウシちゃん、もっとゆっくり食べなさい」
ウシ「ニャーン」

○路地裏
歩いて行くトラ。猫の咀嚼音が聞こえてきて、曲がり角を覗く。
盗られた魚にかぶりついている子猫。と、やせ細った猫たち。
「……」と見ていたが去るトラ、やれやれと微笑む。

○動物病院・外
生垣から、こっそり顔を出すトラ。
大きな窓から中を覗くと、ハーネスをつけたイグアナと目が合って、
トラM「いた! やっぱり恐竜だ……」
とウキウキ顔で窓に近づき、中を見渡してハッとする。
由梨(32)の膝の上に座っているユキ。
「……」と見惚れるトラに気付き、振り向くユキ。
赤面し顔を引っ込めるトラ、「……」となっていたが、恐る恐る顔を出す。
ユキが居なくなっている。
慌てて辺りを見回すと、キャリーバッグを抱えてドアから出ていく由梨が見え、急いで出口へ先回り。
透哉(35)、ドアから飛び出てきて、
透哉「由梨!」
「!」と振り返る由梨、嬉しそうに、
由梨「透哉さん、大丈夫なの? サボって」
透哉「サボってないよ、少しだけなら。ねえ、今度の週末さ……」
キャリーバッグを一生懸命覗き込もうとするトラ。
気付くユキ、トラに微笑む。
「……!」と真っ赤になって言葉に詰まるトラ。
由梨「……うん、楽しみにしてる」
と車の後部座席にキャリーバッグを乗せ、自分は運転席へ。
透哉「気を付けて」
と、後部座席を覗き込んで、
透哉「またな」
ユキの声「ミャー」
発進して去って行く車。
トラ「待っ……」
と、追いかけようと飛び出るが、去って行く車を見つめて立ち尽くす。

○道路
「はぁ……」と歩いているトラ。
ナイトの声「よぉ、耳無し」
ムッとするトラ、見上げると塀の上にナイトが居て、
トラ「……ナイト。耳無しじゃない、欠けてるだけだ」
ナイト「まぁまぁ、怒んなよ。どうしたんだ、しょぼくれて」
トラ、「……」となっていたが、
トラ「この辺で白……青目の白猫が居る家、知らない?」
ナイト「青目の? なんで?」
トラ、微かに赤面して目を逸らし、
トラ「いや……」
ナイト「青目は知らないね。なんだよ」
トラ「いや、いいんだ。ありがとう」
と、去ろうとする。
ナイト、「ははーん?」となってニヤリと、
ナイト「恋路の応援なら協力するぜ」
ブンブン!と尾を振って去って行くトラ。

○路地裏
歩いて行くトラ。
子供たちの声「あっ! ねこー!」
と、路地裏に駆けてくる子供たち。
「げっ!」となって逃げるトラ。しかし、どんどん追いかけてきて、慌てて塀を上って向こう側へ。
その先は、急斜面! 勢いあまって転がっていき、生垣に突っ込むトラ。

○由梨の家・庭
トラ「いたた……」
と、起き上がって生垣の中を進んでいく。
トラM「どこだ……ここ……」
と生垣から顔を出すと、ベランダに出ているユキが。
「!?」と顔を引っ込めるトラ、生垣の中から「……」と見つめる。
由梨の声「ユキー」
ユキ「ミャァ」
と、部屋の中へ。
「……」と見ていたが、こそこそと去るトラ。

○由梨の家近くの藪・外
トラ「……びっくりしたー」
と、顔を洗う。
カサカサ……と藪が揺れて、「!」と構えるトラ。
シュル……と地面を這う音。
横目であたりを見渡し、警戒態勢のトラ。じりじりと後ずさり、何かにぶつかって「シャーッ!」と飛び上がる。
ぶつかったのは、年老いた蛇。
ヘビ「ふふ、そんなに驚かなくても」
トラ「……ヘビ? 久しぶりだ。どうしてここに」
ヘビ「……色々あってね。それより、見てたわよ」
「?」となるトラ。
ヘビ「家猫に恋するなんて、愚かね。結ばれるわけがないのに」
トラ、赤面して、
トラ「はっ!? いや、それは……」
ヘビ「悲しい恋。早く忘れたほうがいいわ。私からのアドバイスは、それだけ」
と藪の中へ去ろうとして、振り返り、
ヘビ「あと、帰り道はあっち。階段に沿って進めばあなたのお家よ。スミレが咲いてる公園でしょ? じゃあね」
と、去る。
トラ「……」

○スミレ公園・芝生(夜)
猫集会。
ウシ「ミケちゃーん」
と、ミケにすり寄っていくが前足でブロックされて、
ミケ「はいはい、そこまでー」
「んん~」と幸せそうなウシ。
サビ「ミケちゃん、ほんと可愛いよな」
クロ「ああ」
と、ぼーっとしているトラを見て、
クロ「見ろよ、失恋ネコちゃんだ」
トラ、一瞬ムッとするが、すぐにしょんぼりして溜息。
サビ「うわぁ」
クロ「どうせ明日も、遠くからその『青目の天使』を眺めて、溜息ついて帰ってくるんだろ。あきらめろっての」
「……」となっているトラ。

○由梨の家・庭
生垣の中から、こっそりと見上げるトラ。
悲しそうにうつむいているユキ。
「……?」となるトラ、迷うが意を決して、
トラの声「あの……」
と、生垣から現れる。
ユキ「きゃ!? ……あ、あなた……」
トラ「あ、ああ、えと、突然ごめんなさい。その、えっと」
ユキ、部屋の中を気にしつつ、
ユキ「早く行った方がいいわ。由梨、野良猫が庭に入るのを嫌がるのよ。ほら、早く」
トラ「え? ああ、うん。ごめ……」
と、真っ赤になって逃げるように去る。

○由梨の家近くの藪・外(夕)
ばつが悪そうに歩いていくトラ。
ヘビの声「ねえ」
トラ「! ヘビ?」
ヘビの声「……良い事教えてあげるから、おいで」
怪訝そうにしつつ、藪の中へ入るトラ。

○同・中(夕)
ニヤリとしているヘビ、警戒しつつ入ってくるトラに、
ヘビ「あの子、なんだか落ち込んでいたでしょう」
トラ「!」
ヘビ「……あなたも諦めが悪いわね」
トラ「(ムッと)……帰る」
ヘビ「待ちなさいよ。あの子の飼い主、外で『指輪』をなくしてしまって元気が無いんだそうよ」
トラ「ユビワ?」
ヘビ「ええ、探しても見つからないんですって。大切な物らしいけど」
トラ、「……!」と何かを閃いて、素っ気なく、
トラ「……ふうん」
ヘビ「蛇って結構、耳がいいのよね」

○由梨の家・庭
生垣に潜んでいるトラ。
由梨、ドアを開く。
出てくるユキ。
トラ、由梨が部屋の中へ戻っていくのを見届け、
トラ「あの」
と、ユキの前へ。
ユキ「! あなた……」
トラ「ごめんなさい。あの、ユビワを」
ユキ「えっ?」
トラ「ユビワ、探してるんですよね? 僕が……僕が代わりに探しましょうか」
ユキ「! なぜそれを?」
トラ「それは……」
   ×   ×   ×
フラッシュ。
ヘビ「蛇って結構、耳がいいのよね」
   ×   ×   ×
トラ、格好つけて、
トラ「トラ猫って結構、み……」
と、ハッとして言葉に詰まる。
ユキ「み?」
トラ「み……みんな、勘がいいから」
ユキ「? (小さく吹き出して)変なの」
「……!」と嬉しそうなトラ。
ユキ、ハッとして部屋の中を気にして、
ユキ「でも、気持ちは嬉しいけど……えっと……」
トラ「トラ」
ユキ「トラ。私はユキ。由梨も……私の飼い主も、ずっと探してるのに見つからないの、難しいと思うわ」
トラ「大丈夫。猫は人より、探し物が得意だ」
ユキ「……悪いわ。どうしてそこまで?」
トラ「うーん……ユキって呼んでいい?」
ユキ「え? ええ」
トラ「ユキに喜んでほしいから」
きょとんとしているユキ。

○スミレ公園・芝生(夜)
猫集会。
ミケにまとわりついてガードされているウシ。
その後ろから羨ましそうに見ているサビ。
クロ、機嫌よく毛づくろいしているトラに気付き、
クロ「おい、ご機嫌じゃねえか」
トラ「え? ああ、そうかな。へへ」
クロ「例の青目の白猫か?」
トラ「まあね」
と、間をおいて、
トラ「ユキっていうんだ、あの子」
クロ「へえ」
トラ「ユキの為に、ユビワってやつを探すことになった。丸くて、小さくて、キラキラ光る石がくっついてるらしい」
クロ「なんだそれ?」
トラ「さあ」
サビ、いつのまにか聞いていて、
サビ「ユビワ? 興味深いね。(偉そうに)調べておいてあげよう」
トラ「いいよ……いや、うん。お願いする」
サビ、意外だなと目を丸くして、
サビ「しおらしいね」
トラ「どういう意味?」

○由梨の家近くの藪・中
尾の先で葉っぱをいじっているヘビと、入り口にちょこんと座っているトラ。
ヘビ「で、あの白猫の飼い主がいつも通る道を知りたいって?」
トラ「ああ。クロが、失くし物は通り道を探すのが一番だって」
ヘビ「まあ、確かにそうだね。でも私があんたに教えて、何か得があるのかい」
トラ「え……それは……」
と、うつむく。
ヘビ、クスクス笑って、
ヘビ「まあ、あんたには恩があるからね。それくらい教えてやるよ」
パァッと笑顔になるトラ。

○道路・橋
橋の手前、緊張した様子のトラ。
トラM「この先か……」
と、一歩踏み出そうとする。
瞬間、リンリーン!と自転車のベルの音に飛び上がるトラ。
自転車が通り過ぎていく。
トラ、しっぽの毛を逆立てたまま、
トラ「びっ……くりしたぁ……」
と、足元を見ると橋の上。
「!……」となるトラ、橋の向こうを見てニッと笑って歩きだす。

○サクラ公園
大きな人口川が流れている。
川を覗き込むトラ、泳いでいる魚に思わず手を出すが、逃げられ我に返る。
遊歩道の脇を見回しながら歩いて行くトラ。

○駅前・大通り
見回しながら路地を抜けてくるトラ、前を見て「!」となる。
車通りが多い。歩いて行くたくさんの人たち。
トラ「うわぁ……」
と、意を決して歩きだす。
靴屋のショーケース。ネズミの模型が針を持っている。
「?」と見つつ通り過ぎるトラ。
ジュエリーショップ。指輪をつけたモデルのポスターが張られている。
トラ、店内を覗きつつ、
トラ「すごい、キラキラだ」
   ×   ×   ×
信号前。
立ち止まっている人たちの足元を外から覗き込んでいるトラ。キラリと光が見えて、
トラ「!」
と、足元を縫って進んでいく。
サラリーマンの声「うわ」「猫?」
と、避けていく。
青信号になる。一斉に歩きだす人たちの足元。
トラ「!? なんだよ、ちょっ」
と、蹴られそうになりつつ間一髪で避けていく。
人混みが捌ける。
げっそりしているトラ、光の元を探し、
トラ「あっ……」
と見つけたのは、空き缶のプルタブ。
トラ、手で転がして、
トラ「違うか……」
とプルタブを蹴飛ばして、周りを見渡し歩きだす。

○由梨の家近くの藪・中(夕)
トラ、溜息を吐きつつ入って来て、
トラ「ヘビ、残念だけど教えてもらった道には無かった」
ヘビ「あらそう。今日聞き耳を立てていた限りでは、確かに通り道で失くしたらしいけど」
落ち込んでいるトラ。
ヘビ「……そんなにあの子に喜んでほしいの?」
「!」となるトラ、赤面して目を逸らしつつ、
トラ「うん……」
ヘビ「……」
トラ「ユキに喜んでほしい。悲しそうだし……」
ヘビ「あなたはろくに話もできないのに?」
トラ「……」
ヘビ、やれやれと笑って、
ヘビ「そういえば、カラスが光る石のついた丸いものをくわえて飛んでいくのを見たわね」
トラ「カラス! ああ、そうか。あいつら、光るものが好きだし……ありがとうヘビ!」
ヘビ「いいえ」

○スミレ公園・芝生
リラックスしているクロ・サビ・ウシ。
帰ってくるトラ。
クロ「あったか?」
トラ、首を横に振り、
トラ「無かった。丸くて小さいのはあったんだけど、キラキラ光る石はついてなかった」
サビ「そうだ、指輪について調べたんだけどさ」
トラ「さすがサビ!」
サビ「というか……トラ、橋の向こうまで行ったんだろ?」
トラ「え? うん」
サビ「やたらキラキラ光る家がなかったか?」
トラ「ああ、あった」
サビ「それだよ! 人間が指にはめてるやつ!」
   ×   ×   ×
フラッシュ。
ジュエリーショップ。指輪をはめたモデルのポスターが張られている。
   ×   ×   ×
トラ、ハッとして、
トラ「あれか! やっと正体が分かった! 絶対見つけてやる」
サビ「何か手がかりはあるのかい?」

○カラスの住む林への道
向こうに林が見える。
歩いて行くトラとクロ。
トラ「なんでクロがついてくるんだよ」
クロ「お前、絶対騙されてるって。まさか蛇の言うことを信じてるとはな」
トラ「ヘビは悪い奴じゃない」
クロ「猫を食うだろ」
トラ「食べない蛇だっている」
クロ「はいはい。あいつらはズルいからな。何かあった時のための付き添いだよ」
トラ「ご丁寧にどうも」
クロ「人がよすぎるのも、どうかと思うぜ。野良のくせに」

○カラスの住む林
林を歩いて行くトラと、緊張した様子のクロ。
木々の上から訝し気に睨んでくるカラスたち。
トラ、林の中心で、
トラ「おーい、ナイト! 居るか?」
やや間があって、
ナイトの声「これはこれは、やってくるとは珍しいな。耳無し猫ちゃん」
と、飛んできて木にとまる。
トラ「耳無しじゃない、欠けてるだけだ。そもそもナイトがやったんじゃないか……片目無しカラス」
ナイト「ははっ」
と顔を傾けると、右目には大きな引っ掻き傷。
ナイト「お互い様な」
トラ「聞きたいことがあって来たんだ。指輪を持ってないか?」
ナイト「ユビワ?」
トラ「丸くて、小さくて、キラキラ光ってる」
クロ「石が」
トラ「そう、キラキラ光る石がついてる」
ナイト、きょとんとしていたが、
ナイト「ああ、あれか。持ってるぜ」
と、カラスAに、
ナイト「おい」
頷き飛んでいくカラスA。
トラ「それが、どうしても必要なんだよ。くれないか?」
ナイト「だめだね。レッドに渡して、生ごみの多いゴミ捨て場を譲ってもらうんだ」
カラスA、白いダイヤの指輪を咥えて戻ってきて、
カラスA「親分」
ナイト「ほれ、これだろ?」
トラ「……! 頼むよ!」
ナイト「駄目だ」
しゅんとするトラ。
見ていたクロ、ムッとして、
クロ「じゃあ勝負して、俺たちが勝ったら指輪をくれよ」
ナイト「ん?」
クロ「俺たちが負けたら……」
と、目を逸らしつつ、
クロ「俺の知ってる穴場を教えてやる。鳥肉のゴミが多くて、なかなか良い」
トラ「!? クロ、あの固いご飯しか食べないのかと思ってた」
クロ「俺だってたまには、肉や魚も食べたくなる」
ナイト「ほーう、いいぜ。何より俺は勝負が好きだ。その話、乗った」
   ×   ×   ×
切り株の上に結び目のある赤いタオルが置いてある。
少し離れたとこに並んでいる、トラ・クロ・ナイト。と、白いカラス。
ナイト「そっちが2人なら、こっちも2人だ」
と、白いカラスを顎で示して、
ナイト「ペガサス、だ」
白いカラスあらためペガサス「……よろしく」
会釈するトラとクロ。
ナイト「こいつは……まあ、なんだ、暗い奴だけど、とにかく飛ぶのが速い。夜を飛ぶ騎士ことナイト様と、純白の幻ことペガサスだ!」
と、決めポーズで、
ナイト「カッコいいだろう」
恥ずかしそうに目を逸らしているペガサス。
トラ「う……うん。カッコいいよ」
ナイト「フフン。ルール説明だが、あの赤いタオルを」
と、林の奥の大樹の虚を示して、
ナイト「あそこにゴールした方の勝ち。空を飛べない猫のために、オレらはあの木より上には飛ばない」
クロ「有難い」
ナイト「鈴が地面に落ちたら、ゲームスタートだ」
身構えるトラたち。
切り株の上空を飛んでいるカラスA、咥えていた鈴付きキーホルダーを落とす。
リン! と鳴った瞬間に駆けだすトラたち。
先頭で競って走るトラとペガサス。
後方から追うナイト、クロにぶつかって妨害。揉み合う。
先にタオルを取ったのは、トラ。咥えて大樹まで疾走。
高度を上げるペガサス、羽をたたんで鋭く滑空してトラに突っ込む。タオルを落としてしまうトラ。
後方から飛んできたナイトがタオルを取って飛ぶ。
ナイト、後方にうずくまっているクロと、揉みあっているトラとペガサスをチラ見し、
ナイトM「余裕だな」
と、一気に大樹へ接近。
と、木の陰からクロが飛び出て、タオルに食らいつく。
ナイト「なっ!?」
と後方を見ると、クロだと思っていたのは、物陰で黒く見えた石。
地面に落ちるナイトからタオルを奪うクロ、後ろへ投げて、
クロ「トラ!」
飛んでくるペガサスの前に、木の枝からジャンプしてタオルに食らいつくトラ。
クロ「よっしゃ!」
クルッと背を捻って着地するトラ、大樹へ疾走。
ナイト「させるかっ!」
と、トラの前に飛び出る。
トラ、跳躍してナイトを踏みつけ、跳んで、そのまま虚へゴール!
トラ「やった!」
クロの声「トラ! 前!」
トラ「!」
と、大樹に激突。
   ×   ×   ×
目を覚ますトラ。顔が腫れている。
クロ「大丈夫かよ」
トラ「ああ……」
ホッとしているペガサス。
木の上から、
カラスA「お、起きたぞ」
カラスB「おい猫ども~いい勝負だった」
カラスC「やるなお前ら」
少し照れて見上げるトラとクロ。
指輪を咥えたナイト、跳ねて来て、
ナイト「ほらよ、約束通り」
と、指輪を渡す。
トラ「! ありがとう、ナイト!」
ナイト「いいってことよ。しかし、お前がこんなもの欲しがるなんて珍しい」
クロ「好きな相手に喜んでほしいんだと。その子の探し物なんだ」
トラ「クロっ」
ナイト「……! ああ、この間探してた! おいおいおい、やっぱりラブかよ! かーっ、好きな子のために、身体張って……たまんねえな」
カラスA「やべえ、惚れる!」
カラスB「ロマンチックな……」
カラスC「漢だ」
トラ「いや、そんなんじゃ……」
ナイト「いやいや、いいんだ。照れるなって。困ったらいつでも協力してやるから、なっ」
真っ赤になって目を泳がせるトラ。
クロ、ニヤニヤとトラを見てから、
クロ「おう、頼むぜ」

○カラスの林・外
去って行くクロとトラ。
カラスたちの声「頑張れよ~」「応援してるぞ~」「幸あれ!」
赤面しているトラと、ニヤニヤしているクロ。

○由梨の家・庭
落ち込んだ様子でベランダに居るユキ。
トラの声「ユキ!」
ユキ「! トラ?」
と部屋の中を気にしてから、生垣に近寄る。
トラ、生垣から顔を出して、
トラ「やあ」
ユキ「わっ、顔……どうしたの?」
トラ「ちょっとね。それより! 指輪、見つけたんだ!」
ユキ「本当に!?」
生垣に顔をつっこむトラ、ダイヤの指輪を咥えてドヤ顔で出てくる。
「!」と駆け寄るユキ、指輪をまじまじと見て肩を落とし、
ユキ「……あ、ああ……トラ。ごめんなさい。それじゃないわ……」
トラ「えっ」
と、口からポトリ。
ユキ「探してる指輪は……青い石がついているの。まさか、白い石の指輪もあるなんて知らなかった」
トラ、ガーンとなっていたが首を振って、
トラ「いや、いいんだ! 青い石、だね? 分かった。次こそは」
心配そうに見つめるユキ、少しキュンときて、
ユキ「あまり無理しないで……私が探しに出れればいいんだけど……」
トラ「いや、外は危ないから。野良の僕にまかせて」
ユキ「……ありがとう」
と、トラの頬を舐める。
トラ「(赤面し)!?」
ユキ「(赤面し)あっ、ごめんなさい!」
と、うつむいて、
ユキ「その、毛が、飛び出てたから」
トラ、目を泳がせ、
トラ「いぇ、あっ、いや、ありがとう」
しばしの沈黙。
優しい眼差しのユキ。
   ×   ×   ×
フラッシュ。
ユキを抱いている由梨。
ユキと由梨を抱きしめる透哉、嬉しそうに指輪を見せる。
幸せそうに笑う由梨。
   ×   ×   ×
ユキ「あの指輪はね、大切な指輪なのよ。あれじゃないといけないの」
トラ、恐る恐る顔を上げて、
トラ「……その……また来てもいいかな」
ユキ「……ええ」
トラ、慌てて、
トラ「その、もちろん、指輪を見つけたら」
顔を上げるユキ、微笑んで、
ユキ「ええ」
キュンとするトラ、去りつつ振り返り、
トラ「次こそは必ず」
と、生垣の中へ。

○由梨の家近くの藪・中(夕)
トラ、入ってきて、
トラ「ヘビ。居る?」
ヘビ、奥から這って来て、
ヘビ「おやぁ、ひどい顔だね。カラスにやられたのかい?」
トラ「いやこれは、自分で……。そう、カラスたちが持ってたのは、探している指輪じゃなかった」
ヘビ「あら」
トラ「残念だけど、しょうがない。次を探すさ」
と、ユキに舐めてもらった頬を気にして赤面する。
顔を曇らせるヘビ、「……」と見ていたが、
ヘビ「前の道を真っすぐ行ったところに、恐ろしい大きな犬がいるだろう?」
トラ「え? ああ」
ヘビ「あの犬が大事そうに抱えているのを見たんだよ、指輪を」
トラ「本当か! ……探してるのは、青い石がついている指輪らしいんだけど」
ヘビ「ええ、青い石だったわ」
トラ「蛇は猫より探し物が上手だ」
ヘビ「フフ、そうね」
目を輝かせるトラ、頬をぐりぐり掻いて傷を毛に隠し、
トラ「よぉし!」
ヘビ「でも、簡単には渡してくれないでしょうね」
トラ「(ニヤリと)僕は、野良猫だぞ」

○狂犬のいる家・庭(夜)
大きな犬小屋。
鎖に繋がれた大きな犬、涎を垂らし寝ている。
そっと塀の陰から覗き込むトラ。
犬の前足の間に、指輪がキラリ。
トラM「あった……!」
と、忍び足で目の前まで行き、
トラ「いける……」
と、手を伸ばす。
犬「(寝言)ブゥゥゥウン……」
「!」と硬直するトラ。
寝続けている犬。
が、前足を胸元に寄せ、指輪が毛の中に埋もれる。
「……」と悔しそうなトラ、そっと手を伸ばすが……
犬の毛に触れた瞬間、
犬「っんだゴルァ!?」
と、牙をむく。
トラ「うわ、ごめんなさいっ!」
と、下がろうとするが殴り飛ばされる。
犬「泥棒猫! 失せろ!」
転がるトラ、起き上がり、
トラ「その……その指輪を、渡してほしいんだ」
犬「聞こえねえのか!? さっさと失せろ!」
トラ「頼む、話だけでも……」
と、近づくが殴り飛ばされる。
ボロボロのトラ、起き上がれない。
犬、バウッバウッと吠えていて、
犬「泥棒だ! 泥棒!」
トラ「っ……」
と、よろよろ立ち上がる。
ウシの声「いた!」
クロの声「トラ!」
サビの声「トラーッ!」
と、駆けてくる3匹。
クロ、犬に向かっていくトラを遮り、
クロ「もうやめろっ。帰ろう」
トラ「……」
と、進もうとする。
クロ「お前……」
サビ「ヘビが嘘ついてたんだ」
トラ「!」
サビ「探してる指輪は、レッドが持ってる」

 
○スミレ公園・芝生(夜)
倒れ込むトラ。
水に濡らしたドクダミを咥えたサビ、トラの傷にそっと乗せる。
トラ「うっ……」
サビ「これが一番よく効く」
トラ「くさい……」
不機嫌そうなクロ、「……」とトラを見ていたが、
クロ「蛇の言うことを信じるから」
トラ「……」
クロ「お前が帰ってこないから、みんなで探しに行ったら……このザマだろ」
トラ「ごめん……」
クロ「ヘビに聞いたら、犬のとこに行ったって」
   ×   ×   ×
フラッシュ。
由梨の家近くの藪・中。
喧嘩腰のクロ・ウシ・サビ。
ヘビ、フフフと笑って背を向け、
ヘビ「その犬が持ってるのは、ただの鉄の輪っかさ。どっかで拾ったんだろう。あの子が探している指輪じゃない」
クロ「(怒り)は?」
ヘビ「……道は教える」
と、振り返り、
ヘビ「助けに行ってくれるかい?」
   ×   ×   ×
「……」となっているトラ。
ムッとして顔を背けるクロ。
気まずそうなウシ、いやに明るく、
ウシ「で、探してる指輪はレッドが持ってるんだってさ! あはは! あいつも、キラキラしたの集めるの好きだもんね」
沈黙。
「ハハ……」と小さくなるウシ。
サビ「明日レッドのアジトに行って、本当にあるのか見てくるよ」
「!」となるトラ。
クロ「またヘビの嘘かもしれない」
サビ「うん。……だから、もうトラが痛そうなの見たくないから」
ウシ「うん」
トラ「……ごめん」
クロ「……」

○同(朝)
寝ているトラ。
クロの声「飯行ってくるから」
しばしの間。
目覚めるトラ、起き上がるとドクダミの葉が落ちる。傷は良くなっている。
「……」となるトラ、意を決して、歩いて行く。

○由梨の家近くの藪・中(朝)
カサッと草木が揺れる。
振り返り、「……」となるヘビ。
入り口には、トラ。
トラ「ヘビ……」
ヘビ「……(やれやれと)まさか本当に犬から取ろうとするなんて」
トラ「……」
ヘビ「なぜそこまで?」
トラ「……」
ヘビ「あんたは野良猫。あの娘は、家猫だ。指輪を渡して、それで?」
トラ「それは……」
ヘビ「あんたとあの子の間に何が残る? 指輪が無いと、あんた、ろくに話してももらえなかっただろう」
トラ「!……」
   ×   ×   ×
フラッシュ。
ユキ、部屋の中を気にしつつ、
ユキ「早く行った方がいいわ。由梨、野良猫が庭に入るのを嫌がるのよ。ほら早く」
   ×   ×   ×
うつむくトラ。
ヘビ、引きつった笑みで、
ヘビ「なら……そうだ、指輪を探してるフリをして、ニセモノを渡して会えばいい。そしたら、あんたはあの娘と会えるし、話も出来る。ずっと」
トラ「……だめだよ……人間は探し物が下手だし、僕が探さないと……ユキは……」
ヘビ「良い奴すぎるのは、損だよ」
トラ「……」
と、去る。
「……」と見送るヘビ。

○由梨の家・庭
生垣の中を忍び足で進むトラ、庭を覗き込む。
ベランダに出ているユキ。
由梨の声「ユキ、透哉が来たよ。おいで」
ユキ「ミャーン」
と、戻ろうとして。
カサリと生垣が揺れる。
ユキ「!……」
と、振り返る。
誰もいない。トラの毛が落ちていて、
ユキ「……」

○スミレ公園・芝生
「……」とうつむいているトラ。
サビ・ウシ・クロ、帰ってきて、
サビ「トラ! あった! レッドが持ってる。ブルーダイヤの指輪だ」
トラ「ブルーダイヤ?」
サビ「青くて、キラキラ光る石のこと。そうだな……」
と、青っぽいスミレを示して、
サビ「あんな色」
トラ「! ……ユキの目の色と一緒だ」
ウシ「でも、レッドのすぐ近くに置いてあったから、あれじゃ無理だね」
クロ、割って入り、
クロ「俺らで力を合わせればいい」
トラ「クロ……」
クロ「お前に怪我されると、こっちも迷惑するんだ。とっととケリつけろ」
ウシ「うんうん」
頷いているサビ。
クロ「指輪さえ渡せれば、もう危険なことしなくて済むんだろ?」
ハッとするトラ。
   ×   ×   ×
フラッシュ。
ヘビ「指輪を返してしまえば、あんたとあの子の間に何が残る?」
   ×   ×   ×
「……」となるトラ。
クロ「決まったな。あいつの弱点は……汚いものだ」
と、ニヤリ。
サビ、げっ……という顔で、
サビ「オーケー、オーケー。大体わかった」
ウシ「え? なに?」
トラ「待って」
「?」となるクロたち。
トラ「その……いいよ、指輪。大丈夫だ。レッドから取り返さなくていい」
クロ「は?」
トラ「いいんだ……」
クロ、やれやれと、
クロ「めんどくせえな、遠慮すんなよ」
トラ「いいんだってば!」
「!」となるクロたち。、
トラ「ごめ……でも、ほんとに、もういいから」
クロ「……勝手にしろ」
と、去る。
困惑している、サビとウシ。
「……」とうつむいているトラ。
   ×   ×   ×
曇り空。
ダイヤの指輪をスミレの花にこすりつけているトラ。
青い汁でダイヤが汚れる。
トラ、しばし迷い咥えて行く。

○由梨の家・外
遠くで雷鳴。
やってくるトラ。
由梨と透哉、あたりを見渡しつつ、
由梨「ユキー! ユキー!」
透哉「ユキー! どこだ!?」
トラM「ユキ……!?」
と咥えていた指輪を置いて、駆けだす。
   ×   ×   ×
ポツポツと雨が降り始め、指輪の青い汚れが落ちる。

○通り
臭いを嗅ぎつつ、駆けていくトラ。
チラリと通り過ぎる、タビとハチ。
いよいよ土砂降りに。
トラ、あたりを見回しつつ、
トラM「臭いが……」
と、ぐっと息をのんで、
トラ「ユキーーッ!」
   ×   ×   ×
びしょ濡れで走っているトラ。
脇を通り過ぎるトラック。
泥水をかぶるトラ、顔を拭って、
トラ「うわ……」
とトラックの行く方を見て、目を見開いて駆けだす。
道路に飛び出るユキ。トラックのライトに気が付いて、「!」と立ち尽くしてしまう。
クラクションの音。
瞬間、飛び出るトラ。ユキを咥えて道脇に転がる。
ユキ、「……」と驚いていたが、
ユキ「トラ……?」
トラ「……良かった」
ユキ、力が抜けて、
ユキ「私……指輪を……でも……。ごめん……なさい……」
微笑むトラ。

○由梨の家・外
雨は弱まっている。
歩いてくるユキとトラ。
由梨の声「ユキーっ!」
ユキ「! 由梨っ」
トラ「心配してる」
ユキ「……トラ、ごめんなさい。私、自分が何もできないのが、もどかしくて……」
トラ「……」
と、うつむいて、
トラ「僕、君に嘘つこうとしてた」
ユキ「え?」
トラ、顔を上げ、
トラ「僕は、悪い奴だ。……でも、今度こそ指輪を持って来るから」
ユキ「(困惑)?……」
去って行くトラ。
雨が止む。晴れ間。

○由梨の家近くの藪・中
入って来るトラ。
ヘビ「おや」
トラ「ヘビ、僕は……ユキのために本物の指輪を手に入れる」
ヘビ「……ユキと話せなくなるとしても?」
トラ「うん」
ヘビ「……そうかい」
と、背を向け、
ヘビ「せいぜい頑張りな」
トラ「……ありがとう」
と、去る。
「……」となるヘビ。
   ×   ×   ×
フラッシュ。
カラスに襲われているヘビ。
トラ、ヘビを咥えて草陰に駆けこむ。
トラから逃れ、威嚇するヘビ。
「……」と見ていたが、去るトラ。
   ×   ×   ×
目を伏せるヘビ。

○スミレ公園・芝生(夕)
クロ・サビ・ウシに頭を下げているトラ。

○森林公園・レッドのアジト
グラスや金属のゴミ、アクセサリーなどが山積みになっている切り株の上、毛づくろいしているレッド。
タビとハチ、しょんぼりと、
タビ「例の白猫、あの土砂降りの中で見失ってしまいやした」
ハチ「気付けばまた家に戻って……」
レッド「役立たずめ」
と、枝に引っ掛けているブルーダイヤの指輪を撫で、
レッド「やっと外に出てきたチャンスだったというのに。あの美しい毛並み……透き通った青い瞳。家猫にしておくべきではない。人間から、解放を……」
と、爪を光らせる。
「……」とうなだれているタビとハチ。
トラの声「レッド!」
「!」と顔を上げるレッド。
そこには、泥まみれのトラ・クロ・サビ・ウシ。
トラ「その指輪を、渡してくれないか」
レッド「なに?」
トラ「それを、探している子がいるんだ」
レッド、ニヤリと、
レッド「ああ、知っている。あの青目の白猫だろう」
トラ「!」
レッド「この指輪は、あの白猫を人間のもとから解放する鍵だ……渡せない」
トラ「……なら、奪い返す!」
と、駆けだす。
続くクロ・サビ・ウシ。
レッドの前に立ちはだかるタビとハチ。
駆けつける子分A、ウシに飛び掛かる。
駆けつける子分B、サビに飛び掛かる。
揉み合って離れるウシ、子分Aに思いきり体当たり! 吹っ飛ぶ子分A。
子分Bから、走って逃げるサビ。ふと、振り返ってニヤリ。
と、落とし穴に落ちる子分B。
タビと揉み合っているクロ。
トラ、飛び掛かってきたハチを押さえつける。
レッド、鏡の上を爪で引っ掻く。
「!」となるトラたち。
どこからともなくレッドの子分たちが集まって来る。
トラ「多すぎる……!」
カラスの群れが飛んできて、子分たちに飛び掛かる。
トラ「!?」
隙に、逃げるハチ。
ナイトの声「正義の味方は、遅れてやってくるんだぜ?」
トラ、空を見上げる。ナイトが飛んでいて、
トラ「ナイト!?」
ナイト「雑魚はオレ達が押さえる! レッドの指輪を奪え!」
トラ「ありがとう!」
と、レッド目掛けて疾走。

○カラスの住む林
地面には、蛇の這った跡。

○森林公園・レッドのアジト
レッド目掛けて駆けるトラ。
レッド「くっ……汚い格好で近づくんじゃねえ!」
トラ、レッドに飛び掛かり、
トラ「指輪は渡してもらう!」
顔に泥が垂れて、身震いするレッド。トラを引っ掻く。
間一髪避けるトラ。レッドと対峙。
後ろから、トラに飛び掛かるハチ。
トラ「!?」
と、転がる。
レッド「はは! 油断したなぁ」
と、指輪を咥えて逃げる。
トラ、ハチと揉みあいつつ、
トラ「くそっ……」
と、目の前を白い影が横切る。
ペガサス、レッドの口元をかすめると、指輪を咥えている。
レッド「!?」
トラ「ペガサス!」
瞬間、駆けだしていたハチがペガサスに飛び掛かる。
ペガサス「っ!」
と、地面に落ち際、指輪を放る。
同時に駆けだすトラとレッド。
トラ、寸で指輪を咥える。飛び掛かってきたレッドと揉みあって、押さえつけ、
トラ「僕の勝ちだ」
レッド「……クソ野郎が」
トラ「ユキは、人間を愛してる」
レッド「人間なんて信用ならん。コロッと手のひらを反す、醜い生き物だ」
トラ「……悪い奴ばっかりじゃないよ」

○由梨の家・庭
ユキ、ベランダに出てきて何かに気付く。
芝生に落ちているのは、ブルーダイヤの指輪。
ユキ「……! トラ?」

○スミレ公園・芝生
とぼとぼと歩いてくるトラ。
クロ、迎えて、
クロ「渡してきたか?」
トラ「ああ」
クロ「喜んでたか?」
トラ「(弱々しく笑って)ああ」
クロ「良かった」

○同・入り口
満開の紫陽花。
屈んでドライフードをまく婦人。
食べているウシ・サビ・クロ・トラ。
「……」と心配そうにトラを見るサビ。

○同(夜)
猫集会。
ミケとじゃれているウシ。
ぽつんと座っているトラ。
離れて「……」と見ていたサビ、クロに耳打ちで、
サビ「ねえ、トラ。ずっと元気ない」
クロ「……ああ」
サビ「なんで?」
クロ「さあ」
「……」となっているトラ。

○同(朝)
毛づくろいしているトラたち。
クロ「飯行こうぜ~」
ウシ「いこういこう!」
トラ「ああ」
クロ「お前は、ほら、久しぶりに病院でも見に行けよ」
トラ「なんで。……嫌だよ」
サビ「まーまー、行ってきなよ」
トラ「なんだよサビまで」
ウシ、さっさと歩いていて、
ウシ「早くー」
クロ「じゃ、またあとでな」
トラ「……」

○通り
とぼとぼ歩いているトラ。
ナイトの声「おー、耳無し猫」
トラ「……ナイト」
塀の上、小さな花束を咥えているナイト。
トラ「久しぶり」
ナイト「今日のオレは、騎士ではなく、キューピッドとしてここに現れた」
トラ「キュー……何?」
トラの前に降りるナイト、花束を落とし、
ナイト「あの、青目の白猫さんからだ」
それは、小さなカミツレの花束。
トラ「……!」
と、ナイトを見上げる。
ナイト「俺にできるのはここまでだぜ?」
駆けだすトラ。
ナイト「ああ、あと……」
トラ「?」

○由梨の家近くの藪・中
入り口に立っているトラ、白いダイヤの指輪を咥えている。
「……」と気まずそうなヘビ。
トラ、指輪を投げ渡し、
トラ「ダイヤ」
ヘビ「なに?」
トラ「キラキラ光るもののことを、そう言うんだって。サビが言ってた。ヘビの名前に、ぴったりだと思って」
ヘビ、背を向けると鱗が光って、
ヘビ「ずいぶんと、気取った名前だね」
トラ「あの時、カラスたちを呼んでくれたんだろ。ありがとう」
ヘビ「……知らないね」
トラ「指輪は、大事な人に渡すらしいんだ」
ヘビ「……」
微笑むトラ、去る。
やれやれと微笑むヘビ。

○森林公園・レッドのアジト
「……」と考え込んでいるレッド。
心配そうにみているタビとハチ。
タビ「レッド親分……?」
レッド「俺の本当の名は、ブルーだ」
タビ・ハチ「へ?」
レッド「昔、俺を飼っていた人間が名付けた……」
と、青い目を伏せる。
タビ・ハチ「……」
レッド「忘れようとしていたのにな」
と、立ち上がる。

○通り
駆けていくトラ。
トラM「ユキ……!」

○スミレ公園・芝生
痩せているウシ。ミケがすり寄っている。
毛づくろいしているサビ・クロ。
クロ「ウシも変わったよなあ」
サビ「痩せるとなんだか、ウシっぽくないよね」
クロ「トラなんかは、まあ、相変わらず……」

○由梨と透哉の家・中
赤ん坊を抱いている由梨。指には、ブルーダイヤの指輪。
透哉、庭を見て、
透哉「由梨、ほらあのトラ猫」
由梨「ほんとにもう……」

○同・庭
ユキと幸せそうに笑っているトラ。
由梨の声「幸せそう」

(おわり)

サポートは、シナリオの勉強代に使わせていただきます! 面白いお話をたくさん書けるように頑張ります。