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多分私はもう音楽を求めていない

 音楽家としてフリーランスの仕事を請け負っている立場で言ってはいけない発言だとは重々承知をしているつもりだが、考えれば考えるほどこの言葉がしっくり来てしまう。そういう心境に居るのだ。

 私が音楽を作っている理由として、やはり伝えたい事があり、それを世に広めたいと考えいてた。となれば、本来は作曲家ではなくアーティストとして活動をする事が筋だったのだが、それ以前の話だと最近は感じている。

 作曲家を目指し始めたのは中学3年の頃なので、時期としては全然早い方だし、一人でやるのも良いしバンドを組むのも良いし、選択はいくらでもあった。そして、リスナーとしてもこの当時はまだまだ好きになる事が出来る曲、今でも聴いている楽曲が豊富にリリースされていた時期である。

 最近音楽を聴いていて思った事が、そもそも音楽をそんなに聴いていないという身も蓋もない状況である事に気づく。そして聴いたとしても学生の頃によく聴いていた楽曲や歌の無いインスト物が多い。特にLo-Fi系の楽曲は私も作る事もあって、そっちを多く聴く。それか音楽ではなくラジオでトーク番組を優先して聴くようになっていた。

 聴きたい音楽が無ければ作ればいいじゃないかというのが私の考え方であったはずなのだが、創作意欲もはっきり言うともうそんなに無い事に気づいてしまった。

 だがその答えはシンプルで、要するに私はもう誰かに何処かへ自分の作品として出してまで、何かを伝えたいと思う気持ちがもう無くなっている事に気づいたのだ。

 何かを伝えたいと思ったり、何かを広めたいと思う気持ちというのは、大人になった今よりもきっと、子供の頃の方が多いんじゃないかなと。特に何かに不満を持っている場合、その怒りを音楽に、作品にする事で私は表現をしてきた人間だ。最近作った楽曲と学生の頃に作っていた頃の楽曲を聴いてみると、メロディーセンスも意外と変わっていたし、歌詞に関しては本当に年齢を感じる事が多い。

 少なくとも愛だの恋だのというテーマの曲を、30代になってからは一度も作っていない気がする。作ったとしてもそれは「愛してる」なんて安直な言葉ではなく、「愛してる」という状況をどう表現するか?という考え方で歌詞を書いており、少なくとも「愛」とか「LOVE」とかいう単語は絶対出てこない。

 というより、恋愛事や夢を語るもの、そういった事を表現したいと思わなくなっていた。では何を表現したいのだろう?と思った時点で、私の表現力はかなり世界を狭めてしまった。勿論今でも何か作ろうと思わない訳ではないし、その時のノリで楽曲を作る事もあるが、やはりそういう時は今も昔も感じる「不満」の中に表現したいものがあって、それ以外に表現をしたかったものというのは、歳を重ねる事で概ね自分の中で満足してしまったのだと思っている。

 それにより、私は昨今の楽曲が嫌いだと言い続けていたのだが、嫌いとまでは言わずとも、とても共感する事が出来る楽曲に出会えなくなっている。昔と違って、共感したいと思える立ち位置に私はもう立っていない。誰かの伝えたい事、表現したい事の世界に私の立つことの出来る場所は用意なんてされていない。

 それだけじゃなく、色々満足をしてしまった事で、学生の頃に良く聴いていた一部の楽曲は自分にとって恥ずかしく感じて聴けなくなってしまった楽曲もある。あれだけ好きで共感をして聴いていたのにも関わらずである。恋愛を歌った曲よりも、夢を語った楽曲は特に堪えてしまう。挫折感とかそういうのではなく、うすっぺらさを感じてしまうのだ。これはまあ誰の何の曲かは言わないが、この歳になると流石に恥ずかしいと思う。これは夢が叶ったか、挫折したかは関係なく、ダサさとはこういうものかと思ってしまった。

 勿論懐かしくて、寧ろ今聞いたらより良く感じる楽曲もあるので、もしかしたら逆に共感出来る楽曲が昨今の楽曲から生まれる可能性もあるが、どちらかと言えば昔聴いても何を伝えようとしているのか、何の歌なのか良くわからなかった楽曲が、この歳になって理解する事が出来るようになる方が多い。

 楽曲を聴く側であれば今でも感情は動かされるし、それが楽しくもあるのだが、作る側という意味ではもう人生それなりに生きてきて、自分の中で色々結論が出てしまった今、新たに伝えたい事訴えたい事というものを失ってしまったように思う。

 そう考えた時、私はもう歌物を作りたいと思う欲求を失ってしまった。そして私の音楽に対する創作意欲というのは、誰かの求める物を作ったり、人の為になるようなものではなく、自分の思っている事を世に訴える事が全てだったんじゃないかと思っている。

 とはいえ人生はまだ残っているし、この先また歳を取れば今感じている気持ちが180度変わることだってあるかもしれない。何なら若い頃よりもずっと、伝えたい事や表現したい事があふれる可能性もあるだろう。

 だが、少なくとも今の私は歌よりもインスト物の楽曲で、ただひたすら心地よいメロディーを生み出す事が、一番の音楽の向き合い方だと思っている。

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