朝を食し、雨と踊る

暗い空間に光るのは夜の月だけでいいと思っていた。いつの日か夜を返せと言われたことがあった。貸した記憶もないのにそう言われ、唐突に、困った顔をしてみると、罵倒が飛び交った。

雨の朝はどうも気分がいい。それが冬なら尚更。屋根に跡をつけるようになる音は自分の脈よりいくらか早い。君は私たちのことを魚醤だと言った。熱を与えれば美味しいのに手を加えないと臭い。雨の日にへこたれる洗濯物が情けなくて好きだ。肩を落とし、だらんと垂れた袖に失恋を思い出す。

7畳と少しの部屋に漂う湿気でタバコの火を細める。寝不足とは違った倦怠感にアンジーストーンを流して無理やり起こす。起床から遡って睡眠時間を計算する。大体5時間だと気持ちが良くて3時間は少し辛い。7時間は罪悪感。

靴は黒だと安心する。光沢もなく渇いた黒だ。雨が跳ね返り艶やかに地を踏む。いつ買ったか覚えてもないキムチの寿命を片目で見る。思っていたより元気でホッと一息。

季節に抗わずに楽しむことができたならどんなに楽なんだろうか。悔しくもいつも季節に不満を持って暮らしをするしかない。忖度をやめて奮発した珈琲は朝が似合う。滴を垂らし待つ時間にもどかしさを感じながらも歯磨きをするのがいい。今日も生活が始まる。

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