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揺れた後にいつも滲む
「ちょうど今せっせっと泣いてたとこなんだよ」
彼女は笑いながら涙を拭いていた。
猫背をなおすように背伸びをして僕の方を見た。
「ちょうど肌寒いじゃない、大塚愛のプラネタリウムが染みちゃってね」
少し照れながら俯くまつ毛があまりにも綺麗で無意識に毛束を数えていた。
「絶対今言うべきじゃないと思っているんだけどさ、言ってもいいかな、
絶対なんてないの分かってるけど、
絶対このタイミングじゃないとは思うんだけどね、
今言わないともう言えなくなってさ君が死んでしまいそうなんだよ」
胸元をへこませながら、大きく息を吐いて文字を丁寧に置くように、つま先を丸めながらそう言った。きまり悪そうにつま先を丸めてそう言った。
「うん」
「別れたいの、何となくとかじゃなくて、確固たる意志を持って別れたいの。」
「うん」
「うん、だけでいいの。楽な関係だね私たち」
「うん」
「「うん」」
縫い針の穴に風が通るような鋭く冷たい痛みを顔に出さないように出さないようにとしていたら、「うん」の2文字を口にするのが精一杯だった。せっかく君の綺麗なまつ毛を数えていたのに、また1から数え直しじゃないか。今更なにを言っても変わらないのなら鼻毛の一つくらいは見つけてやろうと思って顔をじーっとみていた。揺れない、滲まない、ぼやけない、はずの視界が、揺れて、滲んで、ぼやけた。揺れて揺れて揺れて滲んでぼやけて揺れて。気付いた時には僕のまつ毛は全部抜け落ちていた。
また1から数え直しじゃないか。