超使えるハリウッド脚本術:ブレイク・スナイダー・ビートシートの紹介
解説
ブレイク・スナイダー『save the catの法則』より。
私が何本もシナリオを作る際に使ってきた脚本術です。
ブレイク・スナイダーはハリウッドの脚本家です。「ブレイク・スナイダー・ビートシート」(以下BBS)は氏がヒットした映画の脚本の構成を分解し、その結果そこから見えてきた「面白い映画脚本の黄金比率」のようなものかと思います。
脚本家が既存の構成作法に従って書く場合は例外として……脚本家が何とかして多くの人にウケる面白い脚本を書こうと奮闘していくと、どういうわけかある普遍的な法則に従うように構成が固まっていく…… そのため、面白いヒットした映画は、なぜか不思議と、BBSに従って綺麗に構成を分析できてしまう。ということのようです。
これは逆に言えば、脚本のコンセプトやおおまかなあらすじがすでにあるならば、この枠組みに沿ってエピソードやドラマを考えていくと、それなりに面白いものができあがる可能性が高いということでもあります。
自分自身、6作品くらいでこのBBSを使用してみましたが、メリットとして書くための「ガイド」になるので、悩まずに展開を作りやすいです。
「ダレていないか?」などの診断がしやすいと感じました。
また、BBSを使って構成していくと、ユーザーに受けるシナリオになりやすいという実感があります。
ということで、自分なりにまとめたBBSです。自分なりの解釈がいろいろはいっていますのでご了承ください。
■ブレイク・スナイダー・ビートシート
※下記表題横の分数はだいたいそのくらいの分数の時に起こりますよという意味
※随時更新、ブラッシュアップしています
○オープニング・イメージ(Opening Image):開始0分~1分
映画の雰囲気、ジャンル、スタイルを提示する場面。ファンタジーかSFか宇宙が舞台か。
ここでは主人公の出発地点を示す。主人公は未熟か?それともすでにヒーローか?彼はどんな問題を抱えているのか?明確に、もしくは漠然と示される。
エンディングイメージとは対になっている。 つまり、主人公やその周辺世界に「変化」が起きる前のイメージ。
オープニングイメージとエンディングイメージの二つのシーンはプラスとマイナスのように真逆になっている。
エンディングがポジティブなら、ややネガティブなイメージが提示され、その逆もまた然り。主人公が傲慢から大人に変化するなら、主人公はオープニングでは当然ながら傲慢めに提示される。補足: 両者を比較することで、物語のテーマやキャラクターの成長が視覚的に強調され、ストーリー全体における劇的な変化や感情の振幅が見えるはずである。
○テーマの提示(Theme Stated):5分
構成のしっかりした脚本では冒頭から5分あたりで登場人物の誰かが問題を提起したりテーマに関連したことを口にする。優秀な脚本はどんなジャンルでも必ず、ここで何かについて主張しているはずだ。
セリフとして明言されることもあるし、それとなく示されることもある。その場合は、映画を見終わった後に見返さないと「テーマを暗示していたのか」と気が付かないことも多い。しかし、語らず示すやり方でも、巧みな脚本家はしっかりと観客の脳裏にそれとなく、テーマに対するイメージを植え付けるので、クライマックスでテーマが提示された時に、序盤のここが布石として生きてきて感動をもたらす。
補足: このテーマ提示は、物語全体の核心に関わり、物語が進む中で観客に潜在的に意識され続け、最後のクライマックスでそのテーマが再び強調されることが多い。
○セットアップ(Set-Up):1~10分
読み手が関心を持つかなくすかの境目となる場所。
起承転結でいうところの「起承」まで。主人公の目的と障害が設定される。
主人公、ストーリーのテーマや目的が生き生きと提示されている。
ほとんどの主要登場人物はここまでに何らかの形で提示されている(アナ雪など顕著。オラフも雪だるまでしっかり登場している:うろ覚え)。
登場人物の特徴や問題の原因となる行動も提示され、主人公が最後に勝つためには(目的を達成するために)なぜ、どのように変化すべきなのかが提示される。道徳的に未熟な人物で成長が必要ならば、その未熟な側面が描かれる。
主人公に必要なものや欠けているものがある場合、それもセットアップで示される。主人公に足りないものがしっかりと示される。
補足: セットアップでは物語の世界観やルールも観客に示され、今後の展開に必要な伏線やキャラクターの欠点、成長の余地が提示される。このビートが明確でないと、物語が進むにつれて観客が混乱しやすくなる。
ゲームシナリオの場合、遅くともセットアップまでにコアとなるゲーム要素を登場させることが多い。
○きっかけ(Catalyst):およそ12分
セットアップで示された変化の前の世界が、ぶっ壊される前の予兆。
主人公が冒険に誘われる上での何か決定的な(もしくは後に振り返ったときそれが決定的だったとわかるような)出来事が起こる。
いわば未知の世界へつながるドアがノックされる瞬間。主人公は多くの場合動揺したり戸惑ったりする。
「マトリックス」だと、モーフィアスから小包が届き、電話が中に入っており、電話が鳴る。「エイリアン」だと、未知の惑星から救難信号が送られてくる。
補足: このビートは、物語が動き出す重要なトリガーであり、主人公がこれまでの生活を続けられなくなる瞬間。多くの場合、冒険や新しい世界への最初のステップである。
○悩みの時(Debate):12~25分
やるべきことが示された後、それについて悩みかんがえるためのシークエンス。
冒険へ誘われるものの、すぐには踏み出さない。何かしら迷ったり、悩んだり、踏みとどまりたい欲求を見せる。スターウォーズEP4だと、ルークがドロイドを買って掃除していると、間違ってどこかを押して、レイアのAR影像が再生されてしまい、ルークはビックリする。事件が起こっていることがわかり、R2D2はやる気だがルークはまだ冒険に行く気はない。
悩みの時で重要なのは何らかの疑問を抱くということ。 それは人間らしさであり、観客が主人公に共感しやすくする効果があるものと思われる。
補足: この段階で、観客は主人公の感情に深く入り込み、主人公の迷いや葛藤が物語の次の段階へのテンションを高める。観客はここで主人公の選択に対する緊張感を共有し、次の決断がより大きな意味を持つようになる。
○第一ターニング・ポイント(Break into Two):約25分
何か決定的なことが起こる。冒険に踏みとどまっていた主人公が前に進まざるを得なくなるような出来事。もしくは決意のきっかけになるような何か。
古い世界を出て正反対の世界に進む瞬間。
主人公は誘惑に負けたり半分騙されたりして第2幕に進んではいけない。ハッキリと明確な意志を持って次の段階に進まければならない。
スターウォーズEP4だと、ルークが家に帰ろうとするとおじさん夫婦が帝国に殺されている場面に遭遇し、ルークは行き場がなり、宇宙に飛び出す。
ポイント・オブ・ノーリターン。 ここを超えてしまうと、もはや主人公は冒険前の世界(状態)には戻れない。賽は投げられてしまったのだ。
補足: ここでは主人公が自らの意志で冒険に飛び込むことが重要であり、物語が劇的に加速する瞬間となる。この決断によって、物語はよりリスクが高く、挑戦的な方向に進んでいく。
○サブプロット(Bストーリー):およそ30分
ハリウッド映画だと、ラブストーリーのパターンが多いが必ずしもラブストーリーである必要は無い。
作品のテーマを伝えたりメインプロットのターニングポイント後の衝撃を和らげながら、さらにストーリーを前進させるブースターロケット的な役割もする。
サブプロットにはそれまで登場しなかった新しい人物が出てくることが多い。新しい人物=新しいエピソードの予感となる。その人物は第1幕の世界の登場人物とは正反対(アンチテーゼ)になることが多い。スターウォーズEP4だと、ハン・ソロ?(おそらく……)
サブプロットは第一ターニングポイントで物語が解決に向かっていく際に、メインプロットと合流することが多い。
補足: サブプロットは単なる感情的な息抜きではなく、テーマを深化させ、Aストーリーに新たな視点や対比を提供する役割を持つことが多い。サブプロットの登場人物やイベントは、物語全体のバランスを保つために重要である。
○お楽しみ(Fun and Games):30~55分
PVなどで取り上げられるようなキャッチーな場面が多くなる。
そのテーマ、その葛藤、その物語上の目的で、そこにぶつけたときに最もわかりやすくキャッチーでときめくような場面のセットピースがここに入ってくる。
PVなどを見たときに観客やユーザーが「期待する場面」「約束されたエピソード」が挿入される。ひっくり返った第二幕の世界で、その状況を活かすようなエピソード。
バディ映画では大抵ここで喧嘩する。
「お楽しみ」といっても、楽しい出来事が起こるパターンばかりでは無い。主人公にとって辛い出来事が起こるパターンもある。大事なのは観客が「楽しめる」ことであり、主人公にとっては辛い出来事であることもある。
補足: 物語の中心となるアクションやコンフリクトが展開される場面で、観客が楽しむ「見せ場」を提供する。このビートで映画のトーンやジャンルが最も鮮明に表現され、観客を物語の世界に引き込む重要な部分である。
○ミッド・ポイント(Midpoint):55分
主人公はこのミッドポイントで絶好調になる(実は見せかけの絶好調)。もしくはこれ以上悪くなりようが無いほど絶不調になる。
起承転結の「承」でいうと、「承」は最も長いため、ミッド・ポイントを入れることでメリハリが出る。ここを押さえておかないと、退屈な脚本に。
いきなり危険度がアップする。
もしミッドポイントが見せかけの勝利の場合、主人公は望むものすべてを手に入れた気になっている。
つまり、「全てを失って」の瞬間と対になっている。 ミッド・ポイントが絶好調なら、全てを失っては、絶不調。その逆もまた然り。
全てを失っての瞬間が絶好調の場合、それは「見せかけの勝利」になっており、問題の解決(真の勝利)は第三幕でなされる。
ここで脚本上、大きな出来事が起こっているかどうか診断してみよう。
補足: ミッド・ポイントは物語のテンションが一度最高潮に達し、以降の展開に大きな影響を与えるポイント。ここでの「見せかけの勝利」や「見せかけの敗北」が、物語後半のドラマを引き立てる鍵となる。
○迫り来る悪い奴ら(Bad Guys Close In):55~75分
ミッドポイントで見せかけの勝利を収めたとしても、悪い奴ら(主人公の目的に対する障害、人だとは限らない)はここで体勢を立て直し、総攻撃を仕掛けてくる。
「悪い奴ら」は必ずしも人間の敵や敵対者だけを指すわけではありません。主人公の目的に対するあらゆる障害や問題が再び立ちはだかり、状況を悪化させることを意味します。
「迫り来る悪い奴ら」という表現は比喩的なもので、あらゆる形で主人公の目的を阻む要素を指していると考えるべきです。これは、ミッドポイントの後に物語の緊張感をさらに高め、主人公に対して新たな試練や困難をもたらす重要なビートです。
一方主人公の方も、見せかけの勝利の虚構性が次第に明らかになってくる。仲間と対立したり、結束力が弱まったりしてくる。
補足: この段階では、外的な敵だけでなく、内的な問題や葛藤も強まり、主人公が孤立することが多い。物語の緊張感がさらに高まり、全てが崩れそうな状況が描かれる。
○すべてを失って(All Is Lost):75分
ミッドポイントは真逆の状態。見せかけの絶不調。 第二ターニングポイントで克服されるべき絶不調だが、そうは思えないほどに主人公を突き落とす。
そこで、映画における古い考えが次々と死んでいく。
ここを通過することでテーゼ(過去の世界)とアンチテーゼ(過去と正反対の世界)が融合しジンテーゼ(新しい世界や人生)への道が開かれる。「死の気配」を入れ込むとよい。
スターウォーズEP4だと、オビワンが殺された後。
残されたルークはその死によって自分には既に力が身についていたことを自覚する。死が無縁の映画でも、死を象徴するような何かを入れ込むと良い。
補足: ここで主人公が物理的、または象徴的な「死」に直面することが重要であり、この経験が主人公を最終的な成長へと導くトリガーとなる。このビートは、物語に大きな感情的な打撃を与える転換点でもある。
○心の暗闇(Dark Night of the Soul):75~85分
「すべてを失って」で死の瞬間を経験した主人公がどう感じているのか? が語られる。ショックに対するリアクションとそこからの復帰まで。
5秒で終わることもあるし5分続くこともある。
夜明けの前の闇のようなもので、主人公は深く考え心の奥底を探る。
徹底的に打ちのめされて初めて解決法を見いだす。
補足: 主人公が内面的な自己再生のプロセスを経て、最終的な決意を固める重要なビート。ここでの内省が、次の行動に向けた準備段階となり、物語がクライマックスに向かうための重要な動機付けとなる。
○第二ターニング・ポイント(Break into Three):85分
問題に対する解決法が見つかり物語が終幕へと動き出す。
メインプロット(Aストーリー)とサブプロット(Bストーリー)が出会う地点で、それによって主人公は解決策を見いだす。
典型例としては主人公がサブプロットの(好きな)女の子から解決のためのヒントをもらうというもの。
補足: ここでは主人公が再び行動を起こす決断を下し、物語の最終的なクライマックスに向けて進む。この段階で、主人公が成長し、新たな知識やスキルを活用して問題に立ち向かう。
○フィナーレ(Finale):85~110分
教訓を学び主人公の直すべき点が直り、メインプロットもサブプロットも主人公が勝利して終わる。
補足: フィナーレでは、すべての伏線が回収され、主人公が問題を克服し、物語のテーマが最終的に解決される。クライマックスでの行動によって、主人公がいかに成長したかが明確に示される。
○ファイナル・イメージ(Final Image):110分
オープニングイメージの対となる。
本物の変化が起こったことが示される。
補足: ここで、オープニングと対比して、主人公や世界がどれほど変化したかを視覚的に示す。物語全体を締めくくるシーンであり、テーマの最終的なメッセージが視覚的に表現される場面である。
私の使い方
私の場合は物語のログラインや主人公の動機付けなど、おおざっぱなあらすじが固まった後に、物語の動機付けを与える「セットアップ」、物語がグンと前に動き出す「第一ターニングポイント」、中盤の大きな山である「ミッドポイント」、第三幕に向けての葛藤を仕込む「すべてを失って」、物語が解決へと転じていく「第二ターニングポイント」あたりを、考え、そこからさらに細かくプロットを構成していくようにしています。
使い方は人それぞれだと思いますが、参考になればと。
注意点
よくある懸念として「こういった形式を使っていると、物語がありきたりなものになるのではないか?」というものがあります。
とてもよくわかります。
物語というものは神聖で、語り得ない「何か」によってできており、形式やロジックに落とし込んでしまうことで、その「何か」が失われてしまうという懸念もあるのかもしれません。。。
「型」に従った物語ばかりがあふれることで、「先を読める展開」になってしまうという懸念もあるかと思います。
ただ、あくまでBBSは『道具』なので、大事なのは使う人が「巧く使いこなせるか?」どうかだと思います。
ハリウッド映画界などはもう長年こういった手法を使っているだけあって、最近の大ヒット映画は三幕構成やBBSに従いながらも意表を突く展開のものがたくさん出てきています。
「道具」は同じでも使う人間の熟練度が上がることで、「型」を観客やユーザーに意識させない「意外な物語」は十分作れると考えています。
道具に振り回されるのではなく、道具を使いこなすことが肝心かと思います。
何度もBBSを使ってみての所感
何度も使っていて思うのは書いている中で、こういった型に合わないことがあり、型からズレていくかたちで調整していくことがあるのですが、度重なる推敲や調整を経て完成してみると、なんだかんだでやっぱりBBSに沿ったものになっているというパターンです。
なんというか、やっぱり「シナリオの黄金比」のようなもので、収斂進化のように、調整していくとココに行き着くということなのかもしれません。
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参考文献
上記書籍では今回紹介したビートシート以外のも脚本を書く上で、物語を作る上での基本が詰まっており、日本語で読める物語ハウツー本でもぶっちぎりでわかりやすく初心者に向いていると感じます。超オススメです。