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映画「ボーダー 二つの世界」レヴュー

ネタバレ全開レビュー。構成の観点からの感想。

.ログライン
自分探しの映画。自分が何者かを知らず、孤独に過ごしてきたティナが自分の異質さを受け入れ、自分が何者であるかを知る話。

.ざっくりあらすじ
幼い頃から生きづらさや疎外感を感じ過ごしてきたティナが、自分とよく似た姿形の男性ヴォーレと出会い、惹かれ合う。ヴォーレと過ごす内に、ティナは人間とは異なる種である自分自身の存在を受け入れ、孤独を癒やされていくが、その過程でヴォーレの犯罪を知り、人間社会と非人間社会の間で葛藤し、ついにはどちらでも生きられない自分を悟り、孤独に落ちていく。だが最後、ひとつだけ希望を見出す。

.メインプロット
ティナが自分が何者かを知る話。ヴォーレとのラブストーリーとして展開されるが、恋は悲恋に終わる。

.サブプロット
税関職員ティナの話。児童ポルノ事件を嗅ぎつけたティナは人間社会の中での努めとして、犯罪捜査を手伝う。第二幕でメインプロットとサブプロットは合流する。彼女が出会った初めての同類・仲間ヴォーレが、その犯罪の一味だったのだ。

.感想
本格王道の物語ではなく、変格芸術系の物語かと思っていたが、意外にも王道。ウェルエイドな非常によくできた映画だった。テーマ、語り口、世界観、非常にユニークで類を見ないが物語そのものは王道的な構成で、普遍的な感動を呼ぶ内容だと感じる。

.面白かったところメモ
・海辺で虫を持って眺めているティナ。何もすること無く、それを自然に帰す。
この時点ではティナが何を考えているかわからないが、後半、ヴォーレと出会い、人間では無い自分を受け入れ、虫を食べるようになった後は、虫を食料として採取し生で食べる様子が描写される。恐らく冒頭、虫を持った時のティナは虫に対して食料としての欲望を感じていたのだが、まだ人間として生きている彼女は、その自分の中にある欲望の意味がわからず、自然に戻したのではないか?その描写だったのではないだろうか。
・ティナは人間社会の中で異質すぎてなじめない。周りの人間から煙たがられ、気味悪がられている。距離を置かれている。説明的なセリフは少ないが、そういった描写で彼女の孤独さ、孤立具合がとてもよく伝わる。
・自宅でパスタを食べるシーン。ティナはパスタを潰したり混ぜたりするだけで、あまり口にしようとしない。それは人間の食べ物だからだ。これも後の彼女が「人間」という枠組みから外れていくことの布石なのだろう。
・そんな彼女が唯一安息できる場所が森。そこは彼女を避ける「人間」の外の世界。動物たちも彼女を避けない。それどころか不思議なことに動物たちはティナに親しげに近づいてくる。彼女の部屋の前にキツネが来たり、庭にヘラジカが遊びに来たり。彼女を避けていく人間とは真逆の反応だ。
ティナはそんな森と動物たちの中でのみ笑顔を見せる。そして森の中の池で彼女は裸になりのびのびと泳ぐ。だが、彼女の裸体は明らかに人間のものではない。異形さが際立つ。どう考えてもそんな彼女が人間社会の中で居場所を見付けられるとは思えない。
・ティナは疎外感を感じ生きているが、それでも孤独が怖いのか、ヒモ同然の男と同居している。男とは性的関係が無いようで、男もタダで住めるからとティナの家に寄生しているらしい。
それでもティアは男といることで孤独を癒やされるので、男を追いはらわないようだ。
明らかに不健全な関係である。無意識に観客はこの不健全な状態が問題だと考え、また物語的にはこの解決が要請されるところだ。
・さらに同居している男性が飼っている犬はあきらかにティナを敵と認識しており、激しく吠える。彼女が人間では無いからであり、そして犬が人間側の存在、文字通り“飼い犬”の象徴だからだ。そのこともティナが人間社会から徹底して疎外されていることを表現している。
・ティナは家でも犬に吠えられ、同棲中の男は他の女と電話していたりで、ディナは家にも居場所がないことが示唆される。
・そんな中でのヴォーレとの出会いだ。自分と同じような容姿の男。こいつは何者なのだろうか?という謎が高まり興味を惹かれる。
自分が何者かを知らず孤独感を感じてきたティナ。そんな彼女が初めて自分とよく似た男性に出会うのだ。
・ティナは最初はその出会いの意味がわからず、彼女は税関職員としての務めを果たすために、働き、男から「怪しい」臭いを嗅ぎつける。
この意味は後半になるまで明かされないが、恐らくそこでティナが感じた犯罪の臭いは正しかったのだろう。なにしろヴォーレは人間の赤子をさらって売りつけていたのだから。
・だが、この時点ではディナはその疑いが間違いだったと考える。
・同時に、ティナはヴォーレの特異な身体のことを知る。ヴォーレは男性の見た目をしているにも関わらず、女性器が付いていたのだ。彼女は不当な取り調べをしてしまったことをヴォーレに詫びる。
・その後ディナは再びヴォーレと出会い、打ち解けていく。その中で、ティナはヴォーレが自分の仲間だと知り、彼女は人間社会の枠組みの外――彼女達が生きる本来の世界での生き方を教えられ、そこへと回帰していく。
ティナはヴォーレとのびのびと森の中ではしゃぎ回り、裸で泳ぎ、虫を食べる。自宅では同居人の前でも堂々と生のカタツムリを食べ出す。彼女は生まれて初めて自分の居場所を見出す。第二幕の彼女は絶好調だ。
・そしてヴォーレはティナに話す。ティナが「トロル」という一族の一員だと。彼女は自分が何者であるかを知り、そしてヴォーレと性交する。彼等は性別が逆転しているようで、ティナに男性器があるようである。
・その後ティナはヴォーレが無受精で赤子を産む身体だということを知る。受精していない状態でも無受精卵から赤子が生まれ、定期的に出産するのだ。赤子は長い間生きられない。見た目は人間の赤子そっくりである。
・そして第三幕、ブレイクスナイダービートシートでいうところの「すべてを失って」の瞬間が訪れる。メインプロットとサブプロットが交叉する。
・なんとヴォーレは彼女が税関職員として追ってきた児童ポルノ事件の一味だったのだ。ヴォーレは、過去人間達に苦しめられてきた復讐をしていた。ヴォーレは、彼が産んだ赤子を人間の赤子と取り替え、盗んだ赤子を売り飛ばしていたのだ。その赤子が売られ、児童ポルノの撮影用に使われていたというわけだ。
・しかもヴォーレはティナの隣人が生んだばかりの赤子をさらってしまう。そして直後、ティナはヴォーレに呼び出される。
・そこでティナは人間社会か、ヴォーレ達の社会か、その境界で選択を迫られる。だがティナは内なる善に従い、警察に通報する。ヴォーレは警察に逮捕されるが、彼は手錠をしたまま海に飛び込み生死不明となる。
・ヴォーレの犯罪を知り、彼を失い、絶望の縁を漂うティナ。やっと見出した彼女の存在意義は失われてしまった。もはやかつての人間のふりをした生活にも戻ることができない。男のパートナーも追い出してしまった。反対側を知ったことで、彼女は偽りの世界にも安住できなくなってしまったのだ。
・彼女は人間社会での生活を捨てた様子で、誰にも会わずひっそりと虫を食べて暮らしている。
・そんな彼女に送り主不明の荷物が届く。その中には、赤子が入っていた。ヴォーレとティナの子供である。彼女はその赤子に希望を見出す。



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