バーレスク東京に行きました⑦
ステージDJが早口で会場を盛り上げるような掛け声をし始めた。その動きには正直ついていけなかった。
「皆様、楽しんでいきましょ!」
よく通る声だった。
僕の後ろからは野太い声が飛んでいる。
怖かったわけではないが、後ろを振り返ることが出来なかった。
「ちなみに、今日はじめて来られたお客様いらっしゃいますか?」
そう言われたので恐る恐る手を挙げる。
ステージDJは僕には気づかず、後ろにいた20代くらいの女性を呼びつけた。
呼びつけた女性は、メンバーに連れられてステージに上がり、どこからか用意されたドラを手渡された撥で叩くように促された。
指されなくてよかったという思いとなんなら指してほしかったという思いがごちゃまぜになっているとドラの音が響いた。
上手下手からメンバーたちがたくさん現れて踊り始めた。もうすでにふんどし姿ではなくそれ以上の露出のあるコスチューム姿に変わっている。
結論からいうとこの日は「上海ロマンス」のパフォーマンスはなかった。その代わりに大きなハイヒールが現れ、その上でメンバーがセクシーに踊るパフォーマンスや、エヴァらしき(著作権の都合なのかこのパフォーマンス時のみ撮影禁止)パフォーマンスが行われた。
「上海ロマンス」が聞けなかったのは残念だったが、ステージ上に広がるパフォーマンスたちに僕はマスクの下で口が開けぱなしになっていた。それほどすごかった。
「すげぇ、、、」
圧巻のパフォーマンスは1時間くらいあったようだが、すぐ過ぎてしまった。
途中自称IT系企業社長の方が注文し、周りのお客さんに配られたテキーラの紙コップ2杯を飲んだからなのか、それほど早く感じた。
しかしこのノリがどうしてもついていけない。
なんでだろう。パフォーマンスはすごいんだけど、テキーラのくだりとかどうも肌に合わない、、、
最後のパフォーマンスが終わってスタンディングオベーションをしていると、受付の方らしき女性がステージ上からやってきた。居酒屋の前掛けをしていてとても場所にそぐわないなぁと感じた。
僕の座席の前のステージ上で正座をされた受付女性は手元にカードを持っていた。
「すみません。お客様が選ばれた女の子が出勤ではなかったので返金させていただきます。」
確かにステージ上で見なかったけど、出勤してなかったんだ。そんなことあるんだな。
受け取ったカードには1000円と買いており、そのカードを2枚受け取った。
現金じゃないんかいとは思ったが、そんなことで腹を立てても仕方ない。ならメンバーにあげられるRIONと交換するか。
ちょうどRION販売のスタッフが近づいてきたので、ちょっと浮ついた声で引き留めた。
「あーのー、これで交換お願いします。」
「はい、確認しますね、、、あっ、これ使えないですね。ここに買いてますね」
「え!?」
スタッフがカードを裏向けて、RIONへの交換ができない旨が書かれた部分を指さして見せてくれた。
ではこのカードは何使えるのか?
今から飲み物頼むのか?それは厳しい。
いないのわかってるのなら最初に教えてほしいよ、、、
この一連の流れでRIONを配る気力もなくなってしまった。
しかし問題は残っている。このカードをどうするかだ。何度も行けるような距離に住んでないし、そんなお金もない。
大きなため息をする。
隣の座席いた白髪頭の50代くらいの男性がメンバーとのお話が終わったタイミングで声をかける。
「こちらにはよく来られるんですか?」
「いや、今日はこれで帰ります。」
若干話がずれていることを自覚しながら続ける。
「僕、関西から来てて、なかなか来れないのでよければこちら差し上げます。」
そういって余っていたRIONと2000円のクーポンカードを差し出す。
「あ、いいですか。ありがとうございます。」
「では僕はこのあたりで、失礼します。」
そういってその男性にRIONとクーポンカードを手渡して、荷物をまとめて出口に向かった。
まだ場内はざわついている。さっきテキーラを配ってた自称IT系企業社長もメンバーと話し込んでいた。そのメンバーの胸元にはRIONが1000枚を示すカードが大量に刺さっていた。
そんな風景が異世界すぎて現実感を感じなかった。僕は逃げるように受付に向かい、入る時に渡されたB5サイズのクリアファイルを返却し、僕と同じく帰られる人を追うように出口に向かっていった。
そもそもエレベーターは使わないようだ。本来の出入り口は階段のようだ。実はスタートからつまづいていたようだ。また大きなため息をついた。
本来の出入り口の階段の登って出口に向かっていくのだが、如何せん暗いのだ。電気がついていない。
先ほどの場内との対比がエグすぎて、目が慣れてないのか階段の幅がよく見えていない。踏み外さないように慎重に階段を登っていく。階段の途中で虚空を眺めるいわゆるぴえん系の格好をした女の子とすれ違った気がするが、あれは現実だったんだろうか。
それからは来た道を引き返して、晩御飯は日比谷のファミリーマートで幕の内弁当とアイスの実を買って、ホテルに戻った。
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バーレスク東京はとても刺激的な場所ではあったけど、陰キャな僕には最後に幻覚をみるほど合わなかったのかもしれないなと思った。そもそも生きる世界が違う気さえした。でもいつかバーレスク東京で楽しめるような人間になりたい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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