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#107_M&A仲介業者の「両手」問題
昨日の日経の朝刊に、大要(←これ、典型的な弁護士用語で、「おおむね」とか「だいたい」とかの意味に使います)、
「株価が好調な中で、上場しているM&A仲介業者の株価が下落している。河野太郎規制改革相から、売り手と買い手の双方から手数料を取るM&A仲介業者の利益相反を指摘する声が出たのがきっかけ。この動きを嫌気した売りが広がった」
という記事が載っていました。
この利益相反の問題自体は、昔からある話ですし、また、M&Aに限らず、不動産売買とかでもよく議論になる問題です。
要は、売主と買主の双方から仲介手数料を取る場合(これを「両手」と言ったりしますが)、本来なら両方のために尽くさなければいけない立場になりますが、そうは言っても売主と買主は利害関係が対立する場面が多いわけで(典型的には価格)、結局、どちらかに肩入れしてしまうのでは?ということです。
これは、難しい問題ですね。そもそも「仲介」とは、本来的な趣旨はマッチングなので、一方当事者の(いわば「傭兵」であるところの)FA(Financial Adviser・財務アドバイザー)やLA(Legal Adviser・法務アドバイザー)とは違うわけです。
また、十分なディールサイズのM&Aなら、双方FAやLAを付けて交渉しますが、予算の制約のある中小企業のM&Aではそこまでコストを掛けられない場合も多く(特に売主)、そうなると、仲介業者が売主と買主の間に入って手続を進めざるを得ません。
こういった現実があるので、すぐに「両手」を規制して、ぜったい「片手」にすべき、という動きにはならないのではないかな、と感じています。
ただ、仲介業者側でも、いったん問題が起きればどうなるかわかりませんし、実際、そうは言ってもどちらかに肩入れしたくなる誘惑は否定できないわけです。なので、すくなくとも中小企業庁が出しているガイドラインの、以下の手当てはすべきなのでしょうね。
参考・中小M&Aガイドライン(令和2年3月、中小企業庁)
(前略)このように利益相反のリスクはあるものの、中小 M&A の実務においては、FA よりも仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、仲介者という業態を中小 M&A において不適切であると断ずることは現実的ではない。そこで、仲介者は、利益相反のリスクを最小限とするため、最低限、以下のような措置を講じることが必要である。
・ 譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝える。
・ バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、デュー・ディリジェンス(DD)といった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない。依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える。
・ 仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行う。また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示する。