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#155_転職したときの「お祝い金」がなくなる可能性とその影響
近ごろの転職は、転職サイトを通じて行うことが多くなったと思いますが、業種によっては、転職が決まると、その紹介会社から「お祝い金」をもらえることがあります。
これが、今年4月以降(原則として)禁止される方向になりました(厚労省パンフレットご参照)。
https://www.mhlw.go.jp/content/000747063.pdf
法的なことをいえば、ここでのお祝い金をくれる「紹介会社」とは、職業安定法上の「職業紹介事業者」(第4条第9号)をいい、許可制なのですが、その職業安定法の指針(ガイドライン)が改正され、その中で、
(三) 求職の申込みの勧奨については、求職者が希望する地域においてその能力に適合する職業に就くことができるよう、職業紹介事業の質を向上させ、これを訴求することによって行うべきものであり、職業紹介事業者が求職者に金銭等を提供することによって行うことは好ましくなく、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭等を提供することによって行ってはならないこと。
と明記された(第五-九-(三))、ということです。
従前は、「求職者等を勧誘するに当たっては、お祝い金等の金銭を支給することは望ましくありません。」とされていたので、もともとネガティブではあったところ、トーンが強まったという感じです。
なお、「社会通念上相当と認められる程度を超えて」とありますが、「じゃいくらならいいの?」と思われるでしょうね。様々なケースに対し、かつ長い時間軸で適用しなければいけないルールは、必然的に抽象度が高くなるのは仕方ないところですが、事業者サイドからすると不親切と感じるのも当然ではあります(弁護士の仕事には、このあたりを具体的ケースに落としこむという面もあります。)。
では、そもそもなぜこんなことになったか。それは、一部の行き過ぎた事業者が、非常に多額の「お祝い金」を出して、いわばそれで釣って求職者を登録させたり、せっかく就職した転職者に対して、「お祝い金」もちらつかせて早い段階でさらに転職を勧めたりする弊害が生じている、という苦情が、主として求人企業側から生じたためです。
そもそも求人企業は、自分で募集して応募してくれる人がいれば、わざわざ高い手数料を払ってまで業者を使う必要はありません。しかし、たとえば介護、福祉、医療などの、人が集まらない業種はそうもいっていられず、転職サイトなどを運営する職業紹介事業者を利用することがあります。
ただ、一部の事業者が、「お祝い金」をインセンティブに利用して、求職者を繰り返し転職→退職させて、その都度紹介手数料をとっている、というクレームが指摘されています。なので、このインセンティブを断とうというのが今回の指針の改正の趣旨かと思います。
一方、あるルールを設定した場合、プレーヤーの選択には(時に予期せぬ)様々な影響が生じます。
仮に、事業者Aは「お祝い金」モデルでようやく経営できている状態であるとすれば、このモデルが否定される以上、経営を継続できず、市場から撤退するしかありません。とすると、事業者Aを通じて確保していた労働者の分は、他の事業者を通じて確保することになりますが、それが当然に可能かどうかはわかりません。
また、もしかすると、「お祝い金」があるから就職・転職していたヒトもいるかもしれません。そうなると、「お祝い金」がなくなることで、もしかしたら労働者の数や流動性が減少するかもしれません。
こういうことまで考えると、ルールを設定することの難しさを感じます。そのルールにより、各プレーヤーの行為にどう影響するかを正確に予測することは、ほんとうに難しいことだと思います。