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ドイツから初上陸、Urban ArtのMUCA展@森アーツセンター・ギャラリー

  今年の現代美術ラインで一番、期待していたのがこの「ICONS of Urban Art MUCA」展。人気のバンクシーからカウズまで、ストリート・アート系の人達の作品をコレクションしているMuseum of Urban and Contemporary Art (MUCA)から初来日ということで、混雑しそうなタイミングを避けて鑑賞してきました。

  この展覧会を知るまで、MUCAを知りませんでした。てっきりNYにあるのかと思いきや、ドイツのミュンヘンに。

Museum of Urban and Contemporary Art(MUCA) は2016年にクリスチャンとステファニー・ウッツによってドイツ初のアーバン・アートと現代アートに特化した美術館として開館
MUCAは、ミュンヘンの中心部、マリエン広場からすぐの変電所跡地に所在し、アーバン・アートや現代アートにおける20・21世紀の最も有名なアーティストの作品を展示している。開館以来、MUCAはこの分野での作品収集の第一人者として知られており、都市の景観を作品の一部として主に収蔵している。
現在、1,200点以上のコレクションを誇り、ヨーロッパでも最も重要な
アーバン・アートと現代アートコレクションの一つとして認められている。
ポップ・アートからニューリアリズムまで、都市環境の中の芸術、抽象絵画、社会・政治問題など、多様なテーマを扱い、25年以上にわたって影響力を拡大し続けている

展覧会サイトより引用

  今回、10人のアーティストを取り上げ、作風やMUCAでの展覧会写真、インタビュー映像等、多角的に解説してくれています。アーティストと作品のセレクション、そのプレゼンテーションまで全部良かった。写真も撮れるし。今はもうメジャーなアーティストばかりですが、元々ストリートで作品を展開していたからこそ、作品自体がパブリックに共有されることで有機的に広がっていくのを良しとしているのかな。

  全員個性的で全部の作品を載せたい!この感動を共有したい!チケット平日でも2,200円しますが(まあ最近は2,000円超えは普通になりつつありますが)、バンクシー系が好きな人は観に行く価値あり。フライヤーのコピー「バンクシーからカウズまで」のあたりは鉄板ですが、それ以外のアーティストもびっくりするくらい良いです。

  まず入口からこのKAWSの「コンパニオン」のフィギュアがお出迎え。そして、広告をリデザインした作品。もう今やブランドとのコラボでポップカルチャーの大御所。

KAWS「4フィート・コンパニオン・ ディセクテッド・ブラウン」
KAWS「Jalouse(嫉妬)」

  このShepard Faireyもカッコいい。スタイリッシュだけど政治的メッセージが込められている。ポートレートに描かれている人も、ジミヘン、マーティン・ルーサー・キングJr、ボブ・マーリーと、何が彼をインスパイアしているのか伝わってくる。

Shepard Fairey
Shepard Fairey「Obey with Caution」:この顔とこのタイトル。

  こちらはINVADERの作品。70-80年代のビデオゲームに影響を受けて、世界中の都市の壁にピクセルアートを展開しているそう。ルービックキューブをピクセルに見立てて使った絵も面白い。

Invader「ルービックに捕まったシド・ヴィシャス」

  そして、このSwoonが今回、特に気に入ったアーティストの一人。元々はミクストメディアを使ったストリート・アーティストで有名に。そして、切り絵や貼り絵で大規模なインスタレーションを展開。紹介映像を見ていたら、切り絵を小麦粉と水で作ったペーストで多層的に貼って不思議な存在感を出していた。色合いが全体にアースカラーなのが何か新鮮。アーバン・アートって全体的にメタル、プラスティック、コンクリート、エレクトリックな感じがする中ではちょっと異質。独特の世界観。

Swoon「Ice Queen」
Swoon「Silvia Elena」

  次のVHILSは、壁や扉を独自のやり方で削って大型ポートレートを作成しています。弾丸をドドドドっと撃つと絵ができている、というシーンが映画やアニメではありますが、そんな風に制作したんじゃないか、と思わせる。「現代の都市考古学者」とも称されるそう。確かに、都市の壁にこんな風に痕跡が残って近未来の人が見たら、新しい遺跡に見えるかも。

VHILS「Dispersal Series #14」(消失シリーズ#14):木製の扉に穿たれた巨大なポートレイト
VHILS「Matta」

  今回、一番の衝撃がこのRichard Hambletonの「シャドウマン」シリーズ。等身大くらいあるこの不気味な影男。凶々しいオーラが作品の中から発している。家にあるだけで殺人事件が起きそう・・・私としてはスティーブン・キングの小説と同じ気配の作品群でした。創作活動を始めた当初は、舗道に殺人事件の被害者の輪郭を描き、偽の犯罪現場を演出することで人々に衝撃を与えていたとのこと。その後、1980年代にNYの庭や路地に、人々を驚かすために描いたこの人影が、謎の男「シャドウマン」の仕業と呼ばれるようになったと。うーん、都市伝説。

Richard Hambleton「Shadowman」:等身大くらいある。こんなのが街の壁にあったら・・・怖い
Richard Hambleton「Five Shadows」:凶々しさ、5倍増。悪魔のような、街のチンピラのような。
Richard Hambleton「Purple Shadow Heads」
Richard Hambleton「Charge(突撃)」:荒々しさ、猛々しさが凄い
Richard Hambletonの解説の一部。左の「STOP」の写真、この先に進んだら絶対ヤバイ感じがヒシヒシと・・・実物はもっと嫌な予兆に満ちているんだろうなあ。見てみたい!

  それ以外のアーティスト作品もちょっとずつご紹介。

Barry McGee「Untitled」
Os Gemeos「Rhina」:このアーティスト名のオス・ジェメオスはポルトガル語で「双子」という意味だそう。二人組のアーティストで実際に一卵性双生児のグスタボとオクターヴィオのコンビ。彼らの特徴的なキャラクターが描かれている。とってもポップ。
JR「28ミリメートル、ある世代の肖像、強盗、JRから見たラジ・リ、レボスケ モンフェルメイユ 2004」
Banksy「Ariel」:イギリスの荒廃した海辺のリゾート地で、バンクシーが招いた58人のアーティストによって企画された「子供にはふさわしくないファミリー向けテーマパーク『ディズマランド』の目玉作品だったもの。この人の発想はいつもすごい。そして企画実行力も半端ない。ゆがんだビデオ画像のようなアリエルを立体で構成するっていうのも斬新。
Banksy「Are you using that chair?」:エドワード・ホッパーの「ナイトホークス」をオマージュした作品。イギリス人フーリガンがオーストラリアのフォスタービールを持ってイギリス人がよく使う「その椅子使ってますか?」と暴力的に質問しているという絵。インパクトあり。
Banksy「Girl without balloon」:2018年、サザビーズで開催されたオークションで、落札直後にバンクシー自ら仕掛けたシュレッダーいかけられたことで話題になった作品。当時、TVで見て衝撃受けましたが、まさか本物が見られるとは!バンクシーの破壊的で深淵なアプローチを反映、とありましたが、とっても納得。
Banksy「Girl with balloon」:そしてこちらが完全な方。2017年にイギリスで最も好きな絵画に選ばれたバンクシーの代表作。うん、やっぱり良い作品です。

  作品数はそれほど多くはないですが、どれも面白いし刺激的。ちょっと残念だったのは、ミュージアムショップの品数がとても少なかったこと。最近はそこで稼ぐと言わんばかりに充実した展覧会が多かったのでがっかり。特に、ここ森アーツセンター・ギャラリーは、不思議の国のアリス展とかヒグチユウコとか、これでもか!というくらいショップが充実していたイメージがあったので意外。
  バンクシーはペストコントロールも厳しいし、他の展覧会でもほとんどアイテム無かったから、アーバン・アートの人達は作品撮影や共有はいいけど、商品開発は厳しいのか?。うーん、フィギュアやポスターも作品だったりするから、安いコピーは作らないぜってところなのかな。

<おまけ>エドワード・ホッパーの「ナイトホークス」、見た記憶はある・・・調べたらシカゴ美術館にあるそうです。この静かなホッパー的ナイトライフがバンクシーによってガシャンと破壊されている。何がってアメリカの象徴的な深夜のダイナーの絵なのに、なぜイギリス人がフォスタービール?登場人物が都会の孤独を味わっているところだったのに、全員注目!と巻き込まれ事故状態。面白すぎる。

これが元絵のエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」(ウィキペディアから引用

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