
田名網敬一の全てが詰まってた「田名網敬一 記憶の冒険」@国立新美術館
昨日、麻布十番で用事があったので、それならば寄っていこうと出かけた田名網敬一展。帰宅して朝日新聞見たら訃報が出てた・・・ご冥福をお祈りいたします。ちょっと前にTVで特集番組を見た時も、会場のインタビュー映像見ても、88歳には見えない元気なお姿だったので、ちょっとショック。
国際的に高い評価を得る日本人アーティスト、田名網敬一(1936‐) の初となる大規模回顧展です。田名網は幼少期に経験した戦争の記憶とその後に触れたアメリカ大衆文化からの影響が色濃く反映された、色彩鮮やかな作品で知られています。本展は当時の資料を含めて田名網が手掛けた膨大な作品を紹介することで、これまで包括的に捉えられることがなかった、その60年以上におよぶ活動を「記憶」というテーマのもとに改めて紐解こうとするものです。
文字通り大規模回顧展であまりの作品数と色彩の洪水に途中でクラクラしそうでした。絵の構成要素が濃密すぎて、どこに視点を置いていいのかわからなくなってくるような。全体を眺めるべきか、細部を確認していくのが良いのかわからなくなってきます。



初期の作品はアメリカ文化がより色濃く出ており、60年代あたりのサイケデリックな感じというか。オースティン・パワーズとかマリー・クワントっぽいものもある。




そして、展覧会テーマでもある「記憶の冒険」を示すように、古いコラージュ作品がたくさんありました。これは昔の雑誌を使って作りためていたまま忘れていたものが出てきたそう。目的を持って作品を作るというよりも、自分の内面を掘り下げる作業だったのでしょうか。でも、自分の好きなものだけを好きに使ったコラージュは仕事抜きだからこそ、作家の生の感性が表現されているのかも。

そうやって、様々な要素を取り込んで、咀嚼して、自分だけのイメージを創りあげていった先に、どこかで見たような、でも田名網敬一だけの濃密な世界ができあがっていったんだなあ、と納得。実際、後半になるとどんどん濃度が上がっていく。そして平面だけでなく、立体的へ・・・



松の木のデザインについてはこんなエピソードが書いてありました。これも「記憶」を掘り下げて自分のものにした結果ですね。
「常磐松」シリーズ(1986-87年)
田名網は1981年に結核と診断され、4か月近く入院することになりました。生死をさまようなかで、夜ごとに薬の強い副作用で幻覚にうなされる日々を過ごします。幻覚にはサルバドール・ダリの絵画《ポルト・リガトの聖母》などが連日登場し、さらに病院の庭にあった松の木がぐにゃぐにゃと曲がって見えたといいます。この時のイメージを記録したノートは10冊以上にわたり、入院中の幻覚体験は田名網を新たな創作へと向かわせることとなります。1980年に中国を訪れていたことからアジア文化への回帰も加わり、松の木と人工的な都市のイメージが組み合わされることで、80年代には未知なる精神世界を表す楽園や迷宮を思わせる奇想的な世界が描かれるようになります。
平面、立体作品だけでなく、アニメや映像と、その表現はさらに多岐に渡ります。




次は「ピカソ母子像の悦楽」シリーズ(2020年ー)から。500点以上も模写をしているということで、その活動量に衝撃。2020年からですよ!でも解説にるように「写経に近い」と言われるとちょっと納得。画家のデッサン、バレリーナのバーレッスンではありませんが、人によってルーティーンは色々。それがピカソの模写だったのか・・・
コロナ禍は田名網の作品制作にも変化を及ぼしました。予定されていた展覧会などのスケジュールが変更となり、田名網は空白の時間を埋めるようにして以前から好んでいたピカソの絵画「母子像」を模写することを始めます。当初は10枚程度のみ描くつもりでしたが、次第に数が増え、現在までに約500 点以上が制作されています。制約がある方が自身の創造力を発展させられると語る田名網はピカソの母子像をフォーマットに様々なモチーフを組み合わせることで、このシリーズを通して自らのストーリーを展開させていきます。田名網にとって本シリーズの制作は写経に近い感覚を与えるもので、生活のルーティーンとして現在も続けられています。


そして、様々なコラボレーションをしてきた田名網敬一の中で、交流のあった赤塚不二夫先生とのコラボ作品も多数ありました。なんというか、日本のマンガなんだけど、そうじゃないというか・・・アッコちゃんとかイヤミって、越境して馴染む感じがあるかも。赤塚不二夫先生のキャラクターの不思議さ?不条理さ??の勝ちなんでしょうか。



赤塚不二夫先生コラボ作品はこの「イヤミネオン」が秀逸!擬音が天才的だったのがネオン作品で見ると、新たに視覚化されたかも。

最後にあった様々なコラボ作品たち・・・八代亜紀のCDもありました。

ということで、とにかく本当に大規模回顧展。全てが詰まっている。テーマごとに展示してくれていますが、ボリュームが凄すぎてご紹介したのは気に入った?気になった?作品の一部です。もう脳と目から情報量が溢れ出ました・・・鑑賞する場合はエネルギーが必要です!


最後のビデオインタビューで、原点にあるイメージは、戦争中の焼夷弾で焼けた赤い地面と青い空のコントラストだった、という話をされていました。この原色の洪水は、何もない焼け野原で見た色だったのか。入口の解説文にはもう1つ、子供の頃近所にあった目黒雅叙園がまだ料亭だった頃の竜宮城を模した豪華絢爛なイメージも投影されていると記載されていました。あの世界観か!とちょっと納得。安土桃山時代的な日本文化。そうか、いつの間にか日本文化は侘び寂び重視になってましたが、織田信長だって婆娑羅だっていたんだった。豪華絢爛、上等。
<おまけ>
ここはよく外にも1つ大型展示をしていますが、今回は金魚ちゃんがいます。金魚は田名網敬一の中心モチーフの一つ。チケットなくてもこれは見られますので、チャンスがあれば是非。
