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【脚本】夜の帷。尾崎豊ほど情緒的でもない夜。
所属している劇団のクラウドファウンディング230万の個人ストレッチゴールの短編です。尾崎豊は関係ありません。
一人芝居で7分ほどです。自分の読みやすいリズムを付けながらリズミカルに読むと楽しいと思います。
本編
【26時。男が一人部屋に座っている。年齢は20代後半。】
ただ今、深夜26時を迎え、さっきまでギャーギャー騒いでいた左隣の部屋の大学生達の煩声は大学生だと言うのに深夜26時という、どちらかと言えば1番混沌を極めるであろうもっとも夜が深いタイミング、にも関わらずパッタリと静寂を極めていた。大学生だのにこんな時間に静寂を極める事象。極めている事実から推察するに、世俗に蔓延る9%。9%という気合を入れて飲むには薄すぎるが、ジュース感覚で飲むには強すぎる、丁度良くない。丁度良くない度数の酒が世俗に蔓延っている事を痛感する。そんな9%に溺れたであろう左隣の大学生達。そんな阿呆達とは打って変わって右隣に住むお姉さん。引越し周りの挨拶の時も、たまにご一緒する気まずいエレベーターでも。愛想よく愛想よくしてくれた右隣のお姉さん。愛想がいい事は当たり前の事ではない、非常に変えがたい価値を持っている。今頃アルコールの海を泳いでいる左隣の大学生は引っ越しの挨拶どころか、まず出てこなかった。たまに見かけても目も合わせない、そそくさと、そそくさとこちらを見るや否や階段で、わざわざ階段で移動する。これが今流行のソーシャルディスタンスなのか?彼は先を行っていたのか??先を行っていた彼のことなどどうでもいいのだ。話の体幹はお姉さん。右隣の愛想が素敵なお姉さん。深夜26時、大学生という世界一呑気な生き物達の活動時間に、右隣の美人という程でも無いが、可愛いという言葉がとっても似合う愛想が素敵なお姉さんの部屋からは、ただならなぬ。ただならぬ声が、気配が感じられるのだった。
(少し聴き耳をたてる)
話を少しだけ過去に。少しだけ過去の時間軸の話。気がついたのは引っ越してきて一週間の事だった。部屋の片付けも殆ど終わり新生活という言葉が少しずつ馴染を得た頃、それは突如として聞こえてきた。
??これは米津玄師!米津玄師に詳しくない僕でも一週間と一日前まで居た実家のリビングでいつも付いていたテレビから良く流れていたから知っている。そんな世間に取り残された僕でも知っている米津玄師の歌が隣の部屋から聞こえてきた。?これはどっちだ?右?いや、男の歌声だ。ってことは。こっちか。壁に耳を当てずとも下手くそな米津玄師の歌声が僕の部屋にまで響き渡った。これはジェネレーションギャップかもしれない。僕はもっぱらオレンジレンジ。入居初日に以心電信をお風呂場で大熱唱したのを覚えている。いつも僕らは繋がっていたかったのだ。二人の距離つなぐテレパシーなんだ。と、言うことは僕の歌声は彼にも届いたのだろうか。菅田将暉のようなイマドキな歌を歌えないのは少し申し訳ない。そこから3日か4日、僕と彼、米津玄師とオレンジレンジの新旧セッションが繰り広げられた。僕らはいつもレモンの匂いだった。そんな中もう反対側から思いもよらぬものが聞こえてきた。隣同士貴方と私さくらんぼ。もう一回。
お姉さん。右隣のお姉さんは完全に僕の世代。同い年。違ったとしてもそう遠くはないだろう。2004年Mステ世代が加わったことにより現代大学生は劣勢の一途を辿ることになった。僕の部屋を中心に日夜繰り広げられる懐かしの名曲から最新曲ヒットパレード。お姉さんはYUIなんて歌っちゃって、これは紛れもなく同世代であることを確信させた。青山テルマを歌ったときにはセッションまでした。左隣の大学生はあいも変わらず最新曲ばかり。最近はキングガンだかヌーだかばかり。他の誰かになりたがっている。そう。つまり何が言いたいのかというと、僕の部屋。退いてこのアパートの壁は薄いのだ。非常に薄いとは言わないが。まあまあに薄い事は確かであった。なんてったって一言一句歌詞が聴き取れるんだから。
そして時を戻してたった今。深夜26時を周り、左隣の米津玄師が夢の中へゴーゴー幽霊船している中、隣の。右隣の美人という程でも無いが、可愛いという言葉がとっても似合う愛想が素敵なお姉さんの部屋からただならなぬ。ただならぬ声が漏れ出していた。
勘違いをして頂かぬように先に標識を建てて置くが僕は隣のお姉さんに恋する隣人でストーカー気質を持って監視しているわけではない。ただただ壁が薄く、隣人と呼ぶには少しばかり遠い気がして、所謂親近感を程々に感じているだけなのである。そこの所を勘違いされないよう、これを道標としておこう。
道標を建てたとて、側から見れば隣の、ボクとだいたい同い年なのだからまあまあな大人で、まあまあな大人の女性としてあるやも分からぬ行為にジッと聞き耳を立てている僕は側から見れば気持ちが悪い。非常にキショい光景だが、ここは四方を壁に睨まれた一人部屋。繋がっているんだ!などとマイベストオブオレンジレンジの以心電信を意味深に大熱唱すればまあまあ薄いといえるこの壁から聞いていることをアピールできるが、聴く耳と書いて聴き耳とは小学生でもできるサイレントモーション!僕が聞き耳を立てていることなど誰一人わからないのだ!天を見上げる。もしも神様達の住むスピリチュアルな世界があってじーちゃんばーちゃんからちょんまげ生やしたご先祖様が見ていたとしても僕は恥ずかしくありません。あなた達のやましい気持ちがあったから僕の父さんや母さんが生まれ、父さんと母さんのやましい気持ちが合ったから、僕は今こうして存在できているんだ。僕はそのやましい気持ちの矛先がちょっと違うだけなんだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず!クワバラクワバラ。
(耳を再び当てる。)
四方八方上下への未練を断ち切った僕は無敵だった。
(間)
この様な感覚の気配は前にも1度だけ経験したことがある。左隣のおバカチンの部屋の方面から聞き慣れない女性のそれが聞こえてきた。その時の怒りたるや、あろうことか彼らは昼間、真っ昼間にそれを。煌々と日差しは降り注ぎ、社会人なんかは汗水垂らして仕事をしてしている平日の真昼間に。驚きましたよ。開いた口が塞がらないとはこのことか。生産活動を世間がしている中、生産活動に見せかけた非生産活動を白昼堂々耽っているとは。すかさず僕は歌って、そして踊ってやった。小学生当時の林間学校のキャンプファイヤーで踊った懐かしの曲。マツケンサンバⅡ。サンバです。ビバサンバ。彼らがあまりにもリズミカルなもんだったから僕も負けじとリズムに乗って踊り明かした。それ以降、バカチンはそういう行為をおおっぴらにすることはなくなった。もしかしたら静かーにそういうことをしているのかもしれないが。気を抜くと左隣のおバカ大学生の方へと逸れてしまうのは僕の悪い癖。話を戻し、左隣で体験した気配を右隣から感じているナウなのだが、肝心なことは左隣で聞こえてきた顔も知らぬ女子の気配ではなく、今僕が感じているこの気配は紛れもなく、右隣の美人という程でも無いが、可愛いという言葉がとっても似合う愛想が素敵なお姉さんのただならなぬ。ただならぬ気配だということだ。
(聞き耳を立てる。)
あわよくば、なんて微塵も思っていなかった。漫画なんかでありきたりな如くおかずを1品なんて考えたコトもない。ええ。誠に。
(再び聞き耳を立てる。)
音が止んだ。そのただならぬ気配は、ただの気配へと様相を変えた。壁の向こうには甘ったるい気配が漂っているのであろうか。残念ながら壁はそこら辺は通してくれないみたいで時折ボソッとした低い響きとボソッとした少し高い響きが不明瞭に投げ込まれてくるだけになった。
(沈黙)
こんなに賑やかな僕でも、左隣のおバカチンの時はサンバを踊った僕も、普段は懐メロプレイリスト見たいな僕も、この数分は静かにじっと、じーっとしていた。こうじーっと耳を当てていると思ったより壁が硬いことに気がついた。
(耳を当てるのをやめる。)
なんでじっとしていたかなんて考えるだけ野暮だと思った。出会い系でも始めてみようかな。深夜だから。なんて。
(しばらくの携帯を触る。)
こう一人で部屋にいると人恋しく気配を探りたくなる。左隣の僕が勝手におバカと呼んでいる大学生も。右隣のちょっと好きだった人も。
こちらからそちらの気配はわかりません。僕の気配はそちらに届いていますか?
終
【あとがき】
どことなく自分に感じているヘンテコな部分と、どんな形でも人の気配を恋しく想ってしまう深夜テンションを形にしてみました。
こちらの作品
・大きな改編(小さな改編については後述)
・自分が作ったぞー!と名乗ること(盗作?のような)
以外は
フリー
とさせていただきます。
生配信だったり、読み合わせ(まあソロですが)、映像作品などに使っていただいて構いません。
読み合わせ等のクローズな使用の場合は必要ありませんが、公開するようなオープンな使用の場合はせっかくなのでご連絡ください。
また、先述の小さい改編ですが
脚本内に登場するミュージシャンをお好みで変更してみてくださいね。
長々と書きましたが最後まで読んでいただきありがとうございます。
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こんなヘンテコな作品でも出来上がるととっても愛おしいものです。
この愛を少しでも受け取っていただければ幸いです。