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米大統領選テレビ討論会の雑感

6月28日金曜日にアメリカCNNテレビが主催して、アメリカ大統領選挙候補者によるテレビ討論会が実施された。
2020年の討論会が史上最悪の罵倒合戦になった反省を踏まえて、ある程度の制限を加えた中での討論会となったが、このことも含めて民主党、なかんずくバイデン候補にとっては大きな痛手となった討論会になった感がある。
(この場ではトランプ、バイデン両氏を候補と呼ばせていただく)
以下、簡単だが、討論会を視聴した雑感を述べたい。なお、私は今回はバイデン・民主党寄りの立場で話をさせていただくことをご容赦願いたい。

0. 総論
結論としては、今回の討論会も議論の中身が深まらず、次の大統領を選ぶ高揚感が高まったとは言い難い討論会と言う印象だった。
どのメディアでも報じているが、バイデン候補は終始覇気がなく、声が掠れて早口で聞き取れず、会話の要領を得ない場面もあるなど、健康や認知に懸念を抱かざるを得ない印象を与えてしまった。
詳しいことは次に書くが、バイデン候補の失墜、民主党側の自滅が大きく印象づけられ、ここからの党勢巻き返しは相当厳しいのではと感じる1時間半だった。

1. 「病み上がり」立場の逆転
今回バイデン候補最大の失敗である「高齢で弱々しいイメージ」を与えてしまった要因の一つにバイデン候補が風邪を引いていたと言う報道がある。喉に炎症を起こしていたため、うまく朗々と話ができなかったというものだ。それだけではなく、姿勢も猫背で、トランプ候補のウソを交えたバイデン批判に怒りを抑えられない表情も見せていた。
翻ってみると、2020年の討論会ではトランプ候補が直前にコロナに罹患していて、一時は意識がない状態であったことも伝えられた。この時のトランプ候補は明らかに焦っていたし、執拗にバイデン候補を攻撃したことで、「現職大統領に相応しくない下品な候補者」とレッテルを貼られ、イメージ戦略にも失敗した。
健康管理がきちんとできていることも大統領の資質の一つであるが、討論会という大事な場面で体調が保つか、持たないか、というある種運も関わってくるところで、今回はトランプ候補に運が巡ったのかもしれない。

2. ピッチクロック討論会への戸惑い
野球のアメリカ大リーグでは、2023年からセットポジションに入ってから20秒以内に投球動作に入らないと1ストライクを相手に献上するピッチクロック制度が導入され、その適応に苦労する選手の様子が昨年クローズアップされていた。
今回の討論会も、インフレ、移民、ウクライナ戦争など、各テーマについて、おのおの2分で主張を述べて1分反論の機会が与えられるという、短い時間を意識することが鍵となる、ピッチクロックのような緊張感のある討論会となった(2020年の討論会でも時間制限はあったがより強化された)。
そして、この2分、1分という時間をバイデン候補は終始うまく使えていなかった印象を受けた。討論会の最初のテーマは経済問題(インフレ)であったが、バイデン候補は早口で何を言っているのか聞き取るのに時間がかかった。また、まだ数十秒を残して自分のターンを終えてしまう場面も多かった(司会者から「まだ四十数秒ありますが」と言われて、言葉を足す場面もあった)。さらに、時間が気になるのか、司会者の方というより虚空を見て話していることが多いようにも感じた。
対するトランプ候補は、自身のホームと言っても良いテレビというフィールドで、時間制限をもろともせずいつも通りのパフォーマンスを維持した。抑制の効いたトーンも相まって安定感が際立つ印象となった。トランプ候補に対して、バイデン候補の困惑ぶりが、共和党には格好の攻撃材料になり、民主党には「バイデンのまま突き進んで良いのか」という強い疑念を抱く結果となった。

3. トランプ候補に乗ってしまった
これまでバイデン候補の健康状態や討論会ルールへの対応について話してきたが、1番の要因は民主党がこの討論会をどう位置付けるか、トランプ候補とどう対峙していくか、についての戦略があったのか、あったとしても果たして正しかったのか、という点で疑問が残ったことである。
バイデン候補は現職の強みを活かしたこの4年間の実績をPRしようとしたが、固有名詞や数字を出しすぎ、各論を話しすぎて「全体として国民にどんな良い結果をもたらしたか」をイメージさせることに失敗していた。また、トランプ候補が執拗にウソを混ぜながらあの手この手でバイデン候補を批判してくるのを我慢できず、途中から「お前も悪い」の批判合戦を始めてしまった。
トランプ候補がフェイクを織り交ぜた過激批判や極端な主張を大袈裟に話してくることは、民主党側もよく分かっていたはずで、それに対する処方箋は「トランプ候補の批判合戦に乗らず、バイデン政権の成果、民主党の政策を堂々と主張し、自分たちの正当性を徹底的に訴えていく。」という選択も取れたはずである。その中で、分かりやすく視聴者にバイデン政権の成果や民主党の政策のメリットを訴求できるフレーズも練れたはずだ。
結果的には、成果やメリットの訴求力もできず、途中からトランプの土俵に乗って不毛な批判合戦に終始してしまった。トランプ候補の方が先々のビジョンのある安定した候補者だと思わせるくらいの失態だった。
始めたら戦略ミスだったのか、バイデン候補の本番のパフォーマンスが最悪だったのか、原因は分からない。しかし、民主党、選挙陣営、そしてバイデン候補の間で十分な意思疎通が計れていなかったのではと思わざるを得ないほど、民主党の自滅が浮き彫りとなる討論会になってしまった。

内政、外交含めてトランプ候補になった場合の不確定要素が強すぎる。また、人権問題を含めて危ない発言の多いトランプ陣営が政権を奪取することに私は強い危機感を抱いている。
しかし、このままバイデン氏で突き進んでしまった場合、惨敗という結果もあるのではないか。それくらい今回の討論会は衝撃だった。
今からでも遅くない。民主党は真剣にバイデン以外の候補を選定する勇気を出さないといけない。もはや一刻の猶予もない。
残り半年の行方を今後も見守っていきたい。

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