元FAA試験官として思うこと（任命前の研修会編）

元FAA試験官として思うこと（任命までの過程編）では応募条件やFAAの考え方について少し書いてみた。

今回は面白くて勉強になった研修会について書いてみる。

研修会

今のシステムはわからないが当時は終日の月曜から金曜までの合計5日間の研修会があった。

全米から集まった試験官希望者を一堂に介して、FAA本部から担当官たちによる指導。アメリカらしく、ユーモアたっぷりに、面白くかつ、厳しい研修会だった。参加者からはコメディアンになった方がいいんじゃないかという発言が出るくらいユーモアセンスたっぷりのFAA担当者たち。必ずと言っていいほど、開始時と休憩明けの講義はジョークから始まる。もちろん講義の中にもジョークを盛り込む。服装もラフな格好。あの文化は日本にはないだろうな。アメリカ以外の国はどうなんだろう？

FAAの役割、試験官の役割、実地試験基準、試験実施のノウハウ。

さすがアメリカと思ったのは、試験実施のチェックリストの最初の１行。

Ice Break

まず受験生の緊張を和らげるためのおしゃべりをしなさい。とある。

研修会は、受講スタイル、ロールプレイングスタイル、ディスカッション、知識の確認の小テストなどといった一般的なアメリカの講習会という感じ。玉那覇は米軍基地での仕事で既にいくつかの研修会受講経験があったのでここはいつもと同じ感じ。

ただ違ったのが、特筆したい最後の総仕上げのロールプレイングスタイル。

3名ずつのグループに分けられ、一人のFAA担当官がつく。

模擬オーラル試験

担当官からの説明。「これからあなた方一人一人にそれぞれ３つの役割を担ってもらいます。受験生、試験官、第三者」

Practical Test Standards（PTS）【今ではAirman Certification Standards（ACS）】の中からTaskを抜粋し、あなたはPrivate Pilotの〇〇の箇所。あなたは〇〇、あなたは〇〇と、3名とも別々のシナリオを指示される。模擬オーラル試験の持ち時間は〇〇分。

担当官からは、この4日間の研修でオーラル試験で何を確認するべきなのか？どういう質問が適切なのか？ということを学んだはずです。これから〇〇分時間をあげるから各自質問内容を用意しておくように。

模擬オーラル試験の様子は、このビデオカメラで撮影します。と部屋にはビデオカメラと壁には大きなモニターが。

模擬オーラル試験終了後は、全員から試験官役の評価意見を聞きます。試験官役としてどうだったか？受験生役として試験官はどうだったか？第三者として試験官役はどうだったか？そして最後にビデオをみてもらい、試験官役の方にもう一度感想をもらいます。自分の試験をいくつもの視点でチェックしてもらいます。そうやってFAA担当官は退出。

準備終了時間がきて、FAA担当官が戻ってきて、模擬試験開始の合図。

ビデオ録画を開始します。どうぞ始めてください。

試験官役からの質問に対して、内容を確認する受験生役からの質問（勘違いは絶対に避けたいから）、受験生の回答に基づいて知識を確認するために用意していない新たな質問を投げかける。用意した質問だけで終わることはあり得ない。受験生の回答から引き出すテクニックという研修内容があったから。そんなやり取りが続く。そして次の質問。質疑応答の中で既に質問や回答済みのものはスキップ。

受験生役は普通に回答。第三者はメモをとりながら傍聴。FAA担当官もメモをとりながら傍聴。

担当官から終了の合図。

模擬オーラル試験の後のブリーフィング

担当官からそれぞれの役割の方々に意見を求める。

指摘内容として多かったのは、試験官役の態度、姿勢、話し方、話す速度、目線と言う本人の癖が他人から（しかも3名から）指摘される点。

質問内容や質疑応答というテクニカルな点ももちろん、的を絞った方がいいとか、混乱させているとか、曖昧だったとか、質問の流れが非効率とか、という指摘について研修内容の資料を引っ張り出しながら根拠に基づいたディスカッションする。

その後にビデオをみるのだが、試験官役の参加者は顔赤くして（私もそうだったはず）3名の意見が正しかったことを認識させられる。自分の行動を自分で見る事の大切さを実感。そこはアメリカ。顔赤くして「Yes, you guys are right. I could be worse like this...」って笑いをとる。

これは別記事として改めて書くが、試験官業務が始まっても、FAAの担当審査官が定期的に試験業務をオブザーブするシステム。常に誰かかチェックされるシステムが構築されている。FAA担当官に聞いたところ、彼らの中でもチーフにチェックされるとのこと。

アメリカ以外の国はどうやって審査官を育成して管理しているのだろう？