元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のデブリーフィング編②)
元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のデブリーフィング編①)では試験官候補生へのFAA審査官のフライト試験終了後の候補生から審査官に対するデブリーフィングの内容について少し書いてみた。
今回は最後のチェック項目である「審査官からのデブリーフィング」で何があったのか!を書いてみる。
「さてさて...いいかな...」と今までの「受験生役モード」から一瞬にして「審査官モード」への変化がわかる緊張の瞬間(笑)
最初の最初から
今回の試験では割愛した項目として「受験生とのアポイントメントをとる作業」がある。
これは研修会でやって、今回は割愛することは了承済みだったが、改めて審査官からの講習があった。
どこの学校で訓練して、誰(教官)のエンドースメントで受験しようとしているのかということを明確に確認することをするように指導された。教官の電話番号も聞いておきなさいと。
これは単純に実地試験の際に書類審査で不明瞭な点が見つかった時に連絡するためではあるが、実地試験情報、教官のエンドースメント記録は受験申し込み時に記入することが必須となっているため、この時点で聞かなくともFAAの実地試験実施記録に保管されているのだ。
仮に受験生が合格してパイロットとして飛んでいて事故を起こしたとする。そうするとFAAのデータベースから過去の試験官情報と試験のためのエンドースメントを出した教官のリストが出てくるのだ。
これは試験官になって後の話だが、担当FAA審査官から「Hey Tama, do you know this guy?」として聞かれたことがあった。私がPrivate Pilotを試験した受験生だった。どうしたの?と聞くと、「彼が自己所有する双発機で事故があって(本人も無事で機体に損傷があった程度)、それを試験を実施した試験官であるあなたの管理者である私に通知が来たんだよ。と。まあ直接今回の事故には関係なさそうだな。と。
これが現実。
それくらい教官は責任を持ってエンドースメントを発行しているし、試験官は実地試験を実施している。下手なことしたら刑務所行き。というのは以前書いた記事の通り。
逆にいうとそこまで責任を持ってやっている仕事。だから本当の見極めが大切。指示されたことを、もっというと決められた手順通りにやることは当たり前だが、それ以外の局面でパイロットの資質を判断しなければならない。
オーラル試験について
元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のオーラル試験編)でも書いたが、玉那覇からの質問に上手く回答していた。上手くというのは私の知識と質問の方法を確認するためにという意味で。
私が作成したPlan of Actionを手に取り、じっくり眺めた後に、頷きながら、反撃開始(笑)
自分が回答した時には一切メモを取らなかったが、質問した順番に質問の質や、回答した点について改めて出した質問の質、(わざとだした)間違った回答についての私のデブリーフィングが甘いとか...
よくある質問集通りに質問して、その通りに回答して、その人のパイロットとして安全な知識があると思った大間違い。
あなたが最後の砦です。あなたが指摘しなかったら全て回答したことは正解だとなるのです。下手したら一生試験官と飛ばない人生かもしれないのです。あなたはFAA長官の代理としてその権限を委託されるのです。その責任の重さをしっかり理解してください。その上であなたのパイロットとしての行動を模範として示してください。
だったら無理です(笑)と帰りたくなった(笑)
フライト試験について
元FAA試験官として思うこと(任命前の実地試験のフライト試験編)でも書いたが、完璧なフライトから、曖昧なフライト(笑)、そしてあかんやろフライト(笑)まで色々やられた。
それについてはほぼ問題なくクリアした。ギリギリの線はどこか?それをどうやって判断したか?という点はこれまでのチーフインストラクター経験が生かされた結果である。
特筆したい点がいくつかある。
課目を課目だけで見ない
試験官から課目を見せてと言われて受験生が実施する課目の意味を考えること。
Steep TurnsはACSに明記されている内容を実施することが当たり前。いわゆる手順についてはみんなできている。それを他の状態で同じことができるか? 例えば、他機との衝突を避けるために急旋回してしまう一瞬の場面でできるのか?瞬間的に曲がる方向のクリアランスはできてるのか?全体のコーディネーションは取れているのか?失速に対する意識はあるのか?
Turns around a pointも同じ。課目として実施できても、管制塔からHold over 〇〇とか、make 360 on downwindなどで、同じことができてるのか?
逆に言うと、それができているのであれば改めて決められた課目なんてやる必要はない。
Slow Flightsなんてのは決まったことだけをやっても無意味。ACSには試験官の指定する無数の組み合わせを自由自在にできなければだめってこと。
スローフライトはいつもノーフラップで何ノットで真っ直ぐ飛ぶとか、フルフラップで何ノットで真っ直ぐ飛ぶとかと言う儀式的なものは無意味ってこと。
極端な話、 Cessna152で、夏の暑い日に、試験官と二人で飛んで、フルフラップでスローフライトして、旋回して上昇して、なんてリクエストもできる。
そんな時に、この状態では実施できません!と言う回答が欲しいのだ。
ストールがデモンストレーションできて、ゴーアラウンド後のストールに入ることに気づかなければ意味がない。着陸が高くてストールに入ることに気づかなければ意味がない。
課目を型で覚えても意味がない。実践で使えるかどうか。こうやったら死ぬよ!というのを教育すべきだし、試験で見るべき。
いつも同じ試験をしないように。スクール側がこのことを理解して、いろんな組み合わせをさせるように訓練させる。どうやると危険という領域を知ってもらう必要がある。
FAAとしてはあなた方の経験を活用して、受験生がパイロットとして適格かどうかを判断して欲しい。その基準はACSに書いてある。あとはあなたの判断でシナリオを作って試験実施してください。と締めくくられた。
つまり試験官一人一人でやることが変わっていても問題ないというFAAの始動だった。
そこから数日してFAAから試験官任命の証書が送られてきた。
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