Vega Long Neck Banjo 第4回
ではMartin社はどのようにVegaを作っていたのでしょうか?
やはり伝統を大切にするMartinですから、あちこち継ぎ剥ぎ合わせのようにモデルチェンジしたVegaを「元のA.C.Fairbanks時代に戻るのが正しい方向」と考えたのではないか?と思われます。
1970年5月に C.F. Martin Co. が Vega社を買収したときには数百の部品がボストン近郊のニーダム ハイツ工場から引き継がれました。数年間、Vega by Martin Banjosはマサチューセッツ州とペンシルバニア州ナザレの部品を組み合わせたものでした(Martin社は金属部品を作らず、木製部分の製造と組み立てだけを自社で行っていました)
これは、買収後のドタバタ期と言えども生産を継続するためにやむを得ない措置だったのでしょう。
そんな中で、先ずは伝統の木工技術でメイプル リムを10プライにアップグレード(50年代の仕様に戻)しました。
ボストン後期のリム厚は9/20インチくらいで、Martin製は1/2ほど、両者の差はミリ単位で計測すると1.6mmMartin製の方が厚くなっています。
ところで、この記事を書くためにVegaを調べていたら、とても興味深い記事がありました。
要約すると、東海岸のバンジョーは「ウェバリー社」が全て金属部品を供給していた。ということです。
GibsonもMartinも、専門は木工技術ですから金属部品の集合体であるバンジョーは部品メーカーに頼らざるを得なかった訳です。
しかしウェバリー社もこの頃にはスチュワート・マクドナルド社に買収され、製品は糸巻きなどの売筋品だけに整理されて、バンジョーに関連した部品は高品質部品を製造・販売していたLiberty Banjo Companyが供給元に加わっていました。
ちなみにVegaのテナーバンジョー最高級機種Vega Voxは同社とマーチン社の傑作とされています。
ウェバリー社の仕様が変わったのか、サプライヤー自体が変更になったからか?其処は分かりませんがブラケットシューやブラケットバンドなど金属部品の違いが良く分かります、左がBoston(1965年)右Martin(1977年)
Tubaphoneのトーンリングも(ボストンの後期から変更されていたのか?調べは不完全ですが)仕様変更が何度かなされています。
ドッグ・ボーンと呼ばれるバーベル状のサウンドホールを持ったトーンリングに変更されていたのですが・・・
これが改良か?改悪か?評価は分かれるのですが、とにかくFairbanksの時代に戻ろうとして、丸穴のスタンダードなTubaphoneに載せ替えられました。
ペグヘッドも少し小さくなって、スッキリした形状、Vegaのロゴが斜体なので印象が変わって見えます。
Martin社によるVega BanjoのFairbanks復帰作戦はT2-5とT2-XLによって一応の完成形を得ることが出来ました。
賢明な読者の方々はお分かりでしょうが、何年のPS-5が良い、とかMartin期のは駄目だとか、そんな評価をするために書いているのではありません。其々の時代において製造に関わられた職人さんたちは一生懸命に作っておられた筈ですし、当時在庫の部品の中から良いものを選んで組み込み、正確な技術で楽器として完成させたのだと思います。何十台もメンテして来た経験から、適切にセットアップすれば、どの時期のモデルでもボリューム感のあるサウンドが得られます。
しかし、Martin社のこうした努力にもかかわらずVegaの評判を回復することは難しかったようです。フォークブームも次第に衰退してロングネックの売れ行きも全盛期ほどの台数が出なかったようで、韓国の企業体へ売却されてしまうことになります。
さらに・・続く