カブトとクワガタ 4
『マズいな』
新千歳空港行きのバスの中で揺られながら、鍬形が突然そう呟いた。
『なんだ、またトイレか。』
隣に座る兜があきれた口調で返事をする。
『いや、吐きそうだ。』
昨夜すすきのでの夜を楽しんだ鍬形に当然のツケが回ってきたのである。
『勘弁してくれ。』
兜はうんざりといった様子でそう呟いた。
『昨日入ったバーでウイスキーを飲んだんだ。もちろんオンザロックでな。
そのロックが素晴らしくてマスターとアイストークに熱が入っちまった。
その熱で溶けた氷が今、口から出てきそうってわけだ。』
『何を訳の分からん事を…。』
どうせ喋るならせめてうまいこと言ってくれと兜は願う。
『まあでも心配するな、空港まではなんとか…うっぷ…
我慢するよ。 ははは。』
兜はできる限り鍬形と自分との間に距離を取るように努める他なかった。
最早憤りも感じる事が無くなっていた兜はただただ早くこの仕事を終えることだけを考えていた。
その時、兜のポケットの中で携帯電話が振動した。
画面を確認すると“林檎“からの着信だった。バスを降りてからかけ直そうと電話を切ったが、何度もしつこくかかってくる。嫌な予感が兜の頭をよぎった。仕方なく兜は通話ボタンを押す。
『今バスの中だ。後でかけ直す。』
そう言った兜に対し林檎は有無を言わさず話し始めた。
『緊急事態よ。切らずに私の話を最後まで聞きなさい。返事はしなくていいから。』
嫌な汗が兜の頬を伝った。
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