昔ばなし
『少し昔の話をしようか』
そう言っておじいちゃんはちょっぴり寂しそうな顔をして話し始めた。
『あれはもう、何十年も昔の話だ…』
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2020年。
突如現れた未知のウイルスによって世界でパンデミックが起こった。
飲食店やデパートは次々と閉まり音楽フェスやLIVEなど人が集まる行事も次々中止となった。ついにはオリンピックまでもが中止を決定した。
ワクチンはまだ開発中であり完成には何年もかかると言われていた。
人々はマスクを着けて生活するようになり、着けずに外に出る者がいないよう取り締まりを行うようになった。
それでも感染者は減らずついには外出禁止要請が出るようになった。
外での生活ができなくなった世界では一部暴動が起こるようになった。それでも世界は変わることはなく人々は次第にその生活が当たり前になっていった。
そこで主流になったのがオンラインである。
学校はオンライン授業を行うようになり通学する必要がなくなった。会社の会議もオンラインで行われるようになり飲み会すらもオンラインでするようになった。
異性との出会いの場もオンラインとなった。草食系の男性が増えていた昨今オンラインでの出会いは逆に功を奏した。面と向かって話すことが苦手な彼らにとってオンライン上での対面はハードルが低くかなりの数のカップルが増えるようになった。
さらに結婚が決まるまで会うことが許されないこの世の中では離婚率も著しく減った。
エンターテイメントでは野球やサッカーなどのスポーツは廃止されeスポーツが主流となり、映画やドラマは無くなりテレビのその枠はアニメが占拠するようになった。
そんな非日常がいつの間にか日常となり驚くほど自然に世界は変わっていった。
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『かくゆうじいちゃんとばあちゃんもオンラインで…』
『出会ったんだよね。』
おじいちゃんの言葉を遮り僕は言った。この話はもう耳にタコが出来るほど聞いている。
『そうだ。そしてこのウイルスのワクチンを…』
『作ったのがおじいちゃんのおじいちゃんなんだよね?』
『そうだ。もう何度か話したことがあったかな。ほほほ。』
おじいちゃんは嬉しそうな顔で微笑した。
『何度も聞いたよ。本当に、ワクチンを作ってくれて良かった。ひいひいおじいちゃんには感謝しかないよ。』
僕はそう言っておじいちゃんの手を握り、野球部の練習に行くため玄関へ向かった。