恋とか愛とか
"ピロン"
突然携帯が鳴った。
確認すると一通のメールが受信されており
宛先には“坂崎理沙”と表示されている。
久しぶりに見たその名前に山下健は心臓が強く脈打つのを感じた。
"お疲れ。久しぶりに話したいなって思ってるんだけどご飯でもどうかな。"
山下はメールの内容を見て複雑な感情になった。
坂崎理沙と別れてから一年が経つ。
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付き合ってから三年が過ぎた頃。
僕たちはよく喧嘩をするタイプではあったがその度話し合いをして乗り越えてきた。
この日も予感はあった。終始不機嫌な彼女を見て僕はなんとか機嫌が戻らないかとわざと明るく振る舞っていた。
不機嫌の原因を究明し話し合う事が面倒に感じていたのだ。
だが結果は予想通り。
別れ際に喧嘩は起こった。
ただいつもと違ったのは僕が謝らなかったことだ。
どちらも折れない喧嘩は収拾がつく事もなく時間だけが過ぎて行く。
解決する事なく怒ったまま改札を通っていく彼女の背中を見た僕はついに終わりが来たんだと、どこかホッとする自分に気が付き驚いた。
彼女と僕はあまりにも価値観が違う。お互いの為に別れるべきだ。
そう思った僕は翌日彼女に別れを告げた。
本当は逃げただけだ。
自分が一番そんなことは分かっている。
ただもう一緒にはいられないという気持ちだけは確かにあった。
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そんな別れから一年。
時の流れの早さに嫌になる。
自分も老けたなと山下は感じた。
もちろん気は進まない。
だがこんな事で断ると逆に気にしすぎてると思われるんじゃないか、向こうはなんとも思ってないから誘えるんじゃないか、などと余計な考えが頭をぐるぐる巡り、結局“いいね。行こうか。”とだけ打って送信した。
男は愚かだなと山下はつくづく思う。
一度付き合った相手は例え自分から振った相手だとしても気になるし、もし相手に新たな恋人が出来た時は必ずモヤモヤする。それが好きという感情では無くただの独占欲だと理解しているのにだ。
もう彼女に対しての恋愛感情は無い。
それでもこの誘いに気まずく感じているのはやはり自分の中にそういった感情があるからだと彼は理解しうんざりしていた。
"ちゃんと友達に戻れるかな。"
山下は小さくそう呟き彼女からの返事を待った。